僕たちはヒーローになれなかった。

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僕たちはヒーローになれなかった。
出版社
出版日
2019年11月22日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

2006年、ある大学生がカンボジアのコンポントム州に小学校を建設した。その名は葉田甲太さん。奮闘の軌跡を綴った小説『僕たちは世界を変えることができない。』は、2011年に映画化され、大きな話題となった。あれから約8年の歳月が流れ、葉田さんは新たな挑戦を始めた。その過程を等身大の言葉で綴った新著が、本書である。

葉田さんにとっての転機は、カンボジアの僻地で、生後22日の赤ちゃんを亡くしたお母さんと出会ったことだ。お母さんの涙をなくしたい。そんな思いに突き動かされ、彼は協力の輪を広げながら、NPO法人「あおぞら」をつくり、カンボジアで病院を建設することに成功した。

途上国の僻地で母子の命を救う。こう聞くと、揺るがぬ信念のもとに、普通の人ではなし得ない挑戦をしている人をイメージするかもしれない。私も本書を読む前はそうだった。しかし、葉田さんは幾度となく、悔しさや無力感、迷い、反省、そして絶望を感じ、その都度乗り越えてきた。社会起業家やNPOの代表ならあまり公にしないであろう本音の部分まで、本のなかで吐露している。絶望を感じたことも、自分を成長させ、目標を現実化するための糧に変えていく。そこに葉田さんの魅力が詰まっているし、ここまで臨場感をもってその軌跡を辿れることが、この本の価値だと感じる。

弱さと向き合いながらも、夢を諦めずに、自分が信じた道を一歩ずつ歩いていけばいい。読めば心の底から力が湧いてくる一冊だ。

ライター画像
松尾美里

著者

葉田 甲太(はだ こおた)
医師、NPO法人あおぞら代表。1984年兵庫県生まれ。 国境なき医師団に憧れ、日本医科大学へ進学。 大学在学中に150万円でカンボジアに小学校を建てられることを知り、仲間と実現した経緯をつづった著書『僕たちは世界を変えることができない。』を2011年に出版し、同年に向井理初主演で東映より映画化される。 2014年にカンボジアで新生児を亡くしたお母さんと出会い、2018年2月にカンボジア僻地に保健センターを建設。 2019年3月よりタンザニアでの新病院プロジェクトを開始。『僕たちは世界を変えることができない。』(小学館)は累計10万部。

本書の要点

  • 要点
    1
    葉田さんはカンボジアにて、生後22日目の赤ちゃんが亡くなり、お母さんが泣いている姿に出くわした。無給でNPO活動を始めた川原さんの影響を受け、「世界や日本の医療の届きづらい地域に、医療を届ける」という夢を追いかけようと決意した。
  • 要点
    2
    途上国の僻地で赤ちゃんを救う方法を学んだ葉田さんは、自分の無力さに打ちのめされた。しかし、離島で臨床医として働くなかで、カンボジアの僻地に病院を建てることをめざすようになる。その後、仲間を見つけ、NPO化、クラウドファンディングに成功し、夢を実現させた。

要約

はじまりのはじまり

いつしか色あせていった願い
Lightguard/gettyimages

葉田さんの人生を変えた転機。一度目は2005年、大学2年生のときである。「150万円あればカンボジアに小学校が建つ」。そう書かれたパンフレットを、偶然、郵便局で見つけた。小学校が建ち、子どもたちが笑顔になる――。そんな未来へのワクワク感に導かれ、仲間を募り、いくつもの壁を乗り越えて150万円を集めた。

2006年には、カンボジアのコンポントム州に小学校が建設された。この軌跡を綴った小説『僕たちは世界を変えることができない。』は、2011年に映画化されている。

本も映画も大ヒットし、あちこちでちやほやされた。有名人気分だった。はっきりいって、調子に乗っていたのだ。その後医者になった葉田さんは、臨床の仕事に追われる日々を過ごすことに。先輩から毎日のように怒られた。

2014年2月、忘れられない出来事が起こる。当時29歳の葉田さんが、継続支援していたカンボジアの小学校を訪れたときのことだ。生後22日目の赤ちゃんが肺炎で亡くなってしまったという。自分を責め、お墓の前で泣き続けるお母さん。葉田さんは「かわいそう」と感じると同時に、「自分には何もできない」という思いがよぎり、声をかけられないまま――。

何を浮かれていたんだろう。一人の赤ちゃんの命さえ救えないなんて。葉田さんは自分の無力さを痛感した。国際協力に憧れていたが、世界で誰かの役に立ちたいという願いは、いつしか色あせていった。世間体や収入、キャリアを重視するあまり、やりたいことに踏み出す勇気がなくなりかけていたのだ。「僕は憧れたヒーローとは程遠かった……」。

一筋の光

それから8か月が経った頃、川原尚行さんとの出会いに恵まれた。彼は外務省の医務官としてスーダンに赴任したものの、現地の人たちのために働きたいとNPO法人ロシナンテスを立ち上げたという。ロシナンテスの主な事業は、母子保健事業や教育事業などだ。

「葉田くん、スーダンに来てみる?」

この一言が、葉田さんの人生を変えることとなる。3泊5日の弾丸ツアーでスーダンに飛ぶと、気温は常に30度超え。葉田さんは、地方では水道も電気も整備されていない実態を目の当たりにした。

川原さんはなぜ、この地で、現在の活動を続けているのだろうか。本人からはこんな答えが返ってきた。

「俺はね、ドキドキしていたいんよ。不謹慎かもしれんけど、こうやって活動することで、笑ってくれる人がいて、それがとても楽しいんよ」

安定した地位や収入を捨て、無給でNPO活動を始めた川原さん。普通なら、周囲の人が羨ましい、今の活動をやめたい、そんな風に思ったとしてもおかしくない。けれども、川原さんは「人と比べる幸せはやめた」と言い切っている。一定まで稼ぐと、それ以上は収入と幸せは比例しないからだ。

大人になっても、好きなことを一生懸命やればいい。そして、自分の決めた幸せに向かって生きてもいい。葉田さんは背中を押された気がした。

本当に大切なこと以外は捨ててもいい
Nattakorn Maneerat/gettyimages

ロシナンテスが活動する現場に同行することで、明らかになってきたことがある。きれいな水があれば、川の水を飲む人が減り、下痢や感染症が予防できるということだ。

また、スーダンでは、医療教育を受けていない伝統的産婆が、出産に立ち会うケースが多い。もし医療教育を受けた助産師が適切な処置を施すようになり、妊婦検診や保健に関する医療人材が育成されるようになれば、確実に救える命が何万人もある。

日本では、きれいな水も医療や教育へのアクセスも、当たり前にそろっている。これほど幸せで、平和で、最低限の衣食住があれば、自分にとって本当に大切なこと以外は捨ててもいいのではないか。社会人になっても、覚悟を決め、ワクワクすることを追求し、スキルを身につけていけば、やりたいことができる。臨床医として、人間として、目の前の人のために自分ができることを実行していたら、次第に協力者の力が集まってくるにちがいない。

嘘偽りなく、今の活動を「僕の幸せ」と語る川原さんとの交流を通じて、そう葉田さんは心に誓った。

やっぱり人生は一度きり

カンボジア再訪

葉田さんにとって一番ワクワクすることは何か。それは「世界や日本の医療の届きづらい地域に、医療を届けること」だ。そのために、まずは日本の僻地で引き続き臨床医として、一心不乱に働こうと決めた。

川原先生との出会いから1年後、葉田さんはカンボジアを再訪した。小学校建設時からお世話になっているガイドのブティさんとともにめざしたのは、1年以上前に赤ちゃんを亡くして泣いていた、あのお母さんの家だ。もし赤ちゃんが生まれた頃に、近くに診療所があったらどうだったのか。お母さんに十分なお金があって、早めに受診できていたら、そして救急車や道路が整備されていたら、赤ちゃんの命は救えたのではないか。自分に何ができるのかを葉田さんは考え続けた。

夢と現実のギャップ

行動して、批判されるのを恐れる必要はない。恥をかいてもすばやく失敗し、そこから反省して軌道修正すればいい。葉田さんがそう思えるようになったきっかけは、長崎大学熱帯医学研修課程で3か月間学んだことだ。そこでは、途上国の僻地で赤ちゃんを救う方法を、日本で唯一学ぶことができる。多くの恥をかき、無力さと絶望に打ちのめされそうになったのも一度や二度ではない。

「僕は一般的に医療者が歩む道から外れてしまった」

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要約公開日 2019.11.22
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