ほどよい量をつくる

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出版社
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出版日
2019年09月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

街角にある小さな個人商店。こんな目立たないところにあって採算がとれているのだろうか。だが、よく見ると、お店に並んでいるものにこだわりが感じられ、心惹かれていく。しかも、手づくりのワークショップもやっている。今度行ってみよう――。これに似た体験をした方もいらっしゃるのではないだろうか。

気づかないところに、たくさんの小さなコミュニティができあがっている。そこにはそれぞれに努力が積み重ねられていて、どれも「ほどよい量」に保たれている。その一つ一つに目を向けることで、持続可能な商いや働き方に光を当てているのが本書である。

つくる、売る、買う、とプロセスごとにセクションは分かれてはいるものの、紹介されている企業はそのすべてに目配りが利いている。ものやサービスの企画からお客さんの手に届くまでの工程を、どこまで見据えているかどうかで、「ほどよい量」「求められている質、量」がわかってくるのだろう。著者がとりあげている企業や団体のストーリーには、思いがけない視点が登場してきて、読んでいて実に楽しい。

あるプロダクト、あるサービスへの熱量を持ち、それを誰に届けたいかを真摯に考える。そのプロセスが、いつのまにか、それぞれの「ほどよい量」をつくるという姿に行き着いていったのではないだろうか。まずは届けたいものを見つけるところからはじめればいい。この本には、そんなビジネスのあり方、コミュニティデザインのヒントがたくさん詰まっている。

著者

甲斐 かおり(かい かおり)
フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で、昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿。携わった書籍に『ソーシャルデザイン』『日本をソーシャルデザインする』(以上、朝日出版社)、取材本に『暮らしをつくる』(技術評論社)。

本書の要点

  • 要点
    1
    「ほどよい量」とは、画一的な生産量を柔軟に変化させたり、少量でしか生産できないものを組み合わせてまとまった量にしたりして、需給のバランスをとった適正量のことである。
  • 要点
    2
    お客さんに生産の環境やプロセスを見せ、体験してもらう動きや、製造だけでなく販売まで自社で行う生産現場、買い手をつくり手のコミュニティに巻き込む流れが、つくり手だけでなく消費者の意識も変えている。
  • 要点
    3
    小さく始めたプロジェクトでも、届ける先を意識して歩みを進めることで、会社のイメージまで変化させていくことができる。

要約

つくる量と価格を決める

売上もオペレーションも、ほどよい規模感を追求
monzenmachi/gettyimages

「ほどよい量」で最初に思いつくのは、適正量と適正価格である。高度成長期の大量消費時代は、とうの昔に終わった。いまや「ノンブランド」「シンプル化」「シェア」がキーワードとなっている。それでも、売れた分だけ仕入れたことにする「売上仕入れ」制をとる百貨店や、売れ残った分を生産者に引き取らせるスーパーなど、売り手がリスクを負わない仕組みは根強く残っている。

京都を中心に国産牛のステーキを、ランチ限定100食で提供する「佰食屋(ひゃくしょくや)」は、その逆を行くお店だ。まず、メニューを2〜3に絞り、原材料と人件費以外の部分は徹底してコスト削減をしている。1日ごとに食材を無駄なく使い切るため、冷凍庫さえ置いていない。

伸びてきたスタッフには、新店舗をつくって店長のポジションを任せる。そして、密なコミュニケーションをとれる、ちょうどいい従業員規模感を維持しているのだ。

自然災害により売上が激減した際も、50食売り切っていた経験を活かして、その数字に合わせ、1店舗2人で運営できるオペレーションを構築したという。

売上の最大化ではなく、小規模のオペレーションで、働く時間を減らす方向に知恵を集結させる。そうすることで「佰食屋」は、生産効率の高い、強い商いを実現させているのだ。

自分の生産量の限界を知っておく

そもそも「ほどよい量」とは何か。著者の定義はこうだ。画一的な生産量を柔軟に変化させたり、少量でしか生産できないものを組み合わせてまとまった量にしたりすることで、需給のバランスをとった適正量のことである。

パンと日用品の店「わざわざ」の例を見てみよう。このお店は、最初は自宅の一角を使ってバリエーション豊かなパンを売っていた。しかし、それでは生産側が大変なだけでなく、必要なパンを必要な分だけ届けることも難しい。

そこで、品質のよいパンを二種類だけ、より多く生産することにした。そして、「こっちのほうがおいしいよ」というのを、広報する方向に舵を切った。また、ECサイト含め、日用品の販売においても、スタッフが入念にリサーチし、一年かけて使用感や劣化具合も確かめたものだけを仕入れている。

市場に納得のいくものがなければ、自分でつくる。求める人が多ければ大量生産の仕組みも構築する。このように、「よい」と思うものを、それを求める最大限の人に届けることが、「わざわざ」の「ほどよい量」なのだ。

適正価格で伝統技術を守る

次は価格の話だ。日本には伝統工芸技術がたくさん残っている。国から補助金が出されているが、競争にさらされないことで、生産額や企業数は減る一方だ。これから商品に求められる価値は、その国、地域にしかない特有の文化かもしれないというのに惜しい状況といえる。

たとえば兵庫県小野市は、鍛冶で栄えた町である。職人の技術には定評があるものの、腕のある職人は70、80代で、後継者が育っていない。高い技術に価値をおいた値付けをせず、低価格のまま。つくり手の儲けが一番少ないシステムとなっていた。

そんななか、デザイン会社の「シーラカンス食堂」は、この刃物全体に「播州刃物」というブランド名を与えた。そして、高級感のある桐箱、わかりやすい説明書きなどを添えた、高価格帯の商品ラインを展開した。いまや海外でも注目されるブランドだ。

それでも、職人の技術が次世代に引き継がれなければ意味がない。そこで、「WORK SHOP」という工房を併設し、試行錯誤を重ねている。鍛冶の仕事を分解して、後継者はプロセスごとに学んでいく。こうして、高度な部分だけを職人に外注した独自商品をつくっている。まさに、少しずつ稼ぎながら鍛錬する仕組みだ。その効果は未知数だが、技術を引き継いでいく可能性があるとして、注目され続けている。

【必読ポイント!】 お客さんとつながり直す

生産過程を見せる
solopiero/gettyimages

お店に並ぶ既製品を買っていると、誰がどのようにつくっているのかは見えてこない。それゆえ、値段とデザイン以外に購入の決め手を見つけるのが難しい。

そこで、ものづくりや農業の現場では、生産の環境やプロセスを見せ、ときに体験してもらう動きが現れている。オープンファクトリーはその一例だ。ものの成り立ちがわかれば、その価値に対する意識までもが、大きく変化していく。

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要約公開日 2019.12.15
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