他者と働く

「わかりあえなさ」から始める組織論
未読
日本語
他者と働く
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「わかりあえなさ」から始める組織論
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他者と働く
出版社
NewsPicksパブリッシング

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定価
1,980円(税込)
出版日
2019年10月04日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は、静かな語り口が非常に印象的な一冊である。しかし、その言葉はしっかりと読者の心に刻まれていくだろう。それは、多くのビジネスパーソンと向き合ってきた著者の経験が、文章ににじみ出ているからだと推察する。

表紙には“Dialogue and Narrative”と刻まれている。本書でいうナラティヴとは、ビジネスをするうえでの専門性や職業倫理、組織文化などに基づいた「解釈の枠組み」のことである。組織の中で起きている、「わかりあえなさ」や「やっかいな問題」は、ノウハウやスキルが通用しない問題のことが多い。そして、当事者同士のナラティヴの間に溝ができていて、しかもそのことに気づいていない状態である可能性が高い。

そこで著者は、自分のナラティヴをいったん脇に置いて、相手のナラティヴを観察してみることをすすめている。溝を越え、相手のナラティヴのなかに飛び移って、こちら側を見てみるのだ。そうしたことを通じて、当事者間に「新しい関係性を構築すること」が可能になり、物事は解消に向かっていく。こうした一連のプロセスをダイアローグ、対話と呼んでいる。

対話の本質は、「相手の身になって考えても、相手の身になれないということを受け入れておく」ことともいえる。それを心構えのレベルではなく、実践に裏づけられた再現性の高いメソッドとして提示しているのが、本書の革新的な点だ。

不要な対立を避け、組織の未来を明るいものにするために、ぜひ身につけておきたいアプローチである。

ライター画像
しいたに

著者

宇田川 元一(うだがわ もとかず)
経営学者。埼玉大学 経済経営系大学院 准教授。
1977年東京生まれ。2000年立教大学経済学部卒業。2002年同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
社会構成主義やアクターネットワーク理論など、人文系の理論を基盤にしながら、組織における対話やナラティヴとイントラプレナー(社内起業家)、戦略開発との関係についての研究を行っている。大手企業やスタートアップ企業で、イノベーション推進や組織改革のためのアドバイザーや顧問をつとめる。
専門は経営戦略論、組織論。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    ビジネスの現場でこじれたままになっている問題の多くは、関係性のなかで生じる「適応課題」である。適応課題は、互いの「ナラティヴ」の間に溝があることにより生じている。
  • 要点
    2
    ナラティヴとは、立場・役割・専門性などによって生まれる「解釈の枠組み」である。著者は、対話によってナラティヴの溝に橋を架けることを提唱する。
  • 要点
    3
    対話とは、準備・観察・解釈・介入という4ステップで「新しい関係性を築く」プロセスを意味する。その第一歩は、自分のナラティヴを脇に置くことである。

要約

適応課題

技術的問題と適応課題

ビジネスの現場で生じる課題には2つのタイプがある。1つは、既存の方法で解決できる「技術的問題」(technical problem)だ。もう1つは、既存の方法では解決ができない、複雑で困難な「適応課題」(adaptive challenge)である。適応課題とは、他の部署に協力を求めてもなかなか協力が得られない場合のように、これといった解決策が見つからない問題を指す。

例えば、ロジカルに提案のメリットを説明しても、何か別の理由をつけてまた断られてしまう。しかも、その理由がいまひとつはっきりしない。こうしたことを繰り返すとき、それは適応課題だということがわかる。

組織のなかで私たちが抱えたままこじらせている「わかりあえなさ」や「やっかいなこと」の背後に、適応課題が潜んでいる。適応課題とは、向き合うことが難しい問題、ノウハウやスキルでは解決ができない問題なのである。

4つの適応課題
torwai/gettyimages

適応課題には、次の4種類がある。1つ目の「ギャップ型」は、大切にしている「価値観」と実際の「行動」のギャップが生じるケースである。例えば、女性の社会進出が必要であるという価値観を受け入れながら、実際の職場での行動は相変わらず男性中心といった場合だ。

2つ目の「対立型」は、互いの「コミットメント」が対立するケースである。社内における営業部と開発部の対立などがわかりやすい例であろう。前者は短期的な業績達成をめざす一方、後者は契約に不備がないことを優先する。こうした枠組みの違いが対立を生む。

3つ目の「抑圧型」は、「言いにくいことを言わない」ケースである。ある事業についてあまり先行きがなさそうだとわかっていても、撤退を切り出しにくい。そのため、あれこれとテコ入れを続けていく、といったケースがこれにあたる。

4つ目の「回避型」は、本質的な問題に取り組むことが痛みや恐れを伴うため、これを回避しようと逃げたり、別の行動にすり替えたりするケースだ。職場でメンタル疾患を抱える人が出てきたときに、役に立たないとわかっていてもストレス耐性のトレーニングを施すといったケースがこれにあたる。

いずれの型も、既存の技法や個人の技量だけでは解決できない。本質的には人と人、組織と組織の「関係性」のなかで生じている問題だからである。ビジネスの現場では、複数の型が絡まり合って、問題が複雑化していることが多い。

ナラティヴ

適応課題は関係性の問題であり、関係性を改めなければならない。その第一歩は、相手を変えるのではなく、こちら側のナラティヴを変えてみることだ。

「ナラティヴ」(narrative)は、「語り」と訳されることが多いが、本書では「解釈の枠組み」のことを指す。私たちがビジネスをするうえでの「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいている。

とりわけ対立型の適応課題の場合、こちら側のナラティヴと相手のナラティヴの間に「溝」があると考えられる。ポイントは、こちら側のナラティヴに立つと、相手が間違って見えるのに対し、相手のナラティヴからすれば、こちらが間違って見えているということである。

【必読ポイント!】 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス

対話と関係性
fotostorm/gettyimages

こちらのナラティヴとあちらのナラティヴに溝があることを見つけて、「溝に橋を架けていく」こと。これが「対話」(dialogue)である。ここでいう対話とは、コミュニケーションの手法ではなく、「新しい関係性を構築すること」を意味する。この対話こそが、適応課題に向き合い、その解消をめざすための手法である。

哲学者のマルティン・ブーバーによると、人間同士の関係性は、2つに分類できるという。「私とそれ」の関係性、そして「私とあなた」の関係性だ。前者は、向き合う相手をまるで自分の「道具」のようにとらえる。これに対し、後者は、相手の存在が代わりのきかないものだととらえている。対話とは、「私とそれ」の関係性を乗り越えて、「私とあなた」の関係性へ移行することを促すものだといえる。

プロセス1:準備(溝に気づく)

ここからは、関係性の溝に橋を架けていく「対話」の4つのプロセスを紹介する。このプロセスは、準備・観察・解釈・介入から成る。

最初は「準備」である。相手と自分のナラティヴのあいだに溝、すなわち適応課題があることに気づく段階だ。

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