スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM(プログレッシブ キャピタリズム)

未 読
スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM(プログレッシブ キャピタリズム)
ジャンル
著者
ジョセフ・E・スティグリッツ 山田美明(訳)
出版社
東洋経済新報社 出版社ページへ
定価
2,640円(税込)
出版日
2020年01月02日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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ジョセフ・E・スティグリッツ 山田美明(訳)
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定価
2,640円(税込)
出版日
2020年01月02日
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総合
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おすすめポイント

2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツ氏。本書のなかで彼は、「これまでのアメリカの経済体制は失敗だった」とし、「経済の運営は市場の『見えざる手』の力に任せておけばよい」という考えは明らかに間違っていたと断言する。彼によれば、アメリカにはいま「1パーセントの、1パーセントによる、1パーセントのための経済や民主主義」が根付きつつあり、その潮流は他の先進国にも広まりつつあるという。

「自由」という美辞麗句にまどわされず、市場の力の限界を知り、経済だけでなく政治も変えなければならないというのが、本書で展開されるスティグリッツ氏の主張だ。言うまでもなく経済は目的達成のための手段であって、目的そのものではない。本書で書かれているのは主にアメリカの事例だが、「かつてないほど豊かになったはずなのに、多くの人が中流階級の生活すらできない」というアメリカの実状は、日本にとっても対岸の火事ではない。

アンバランスで利己的で近視眼的な経済や政治は、アンバランスで利己的で近視眼的な個人を生み出す。そしてそれは政治と経済制度の欠陥を、さらに悪化させる。テクノロジーの変化やグローバル化は、現状を是認する言い訳にはならない。富はすでにある。その富で99パーセントの国民を救うには、いまこそ大々的な転換を遂げなければならない。こうしたスティグリッツ氏の主張には、一定以上の説得力が感じられる。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

ジョセフ・E・スティグリッツ (Joseph E. Stiglitz)
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者であり、著書に『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』『世界の99%を貧困にする経済』『フリーフォール』(すべて徳間書店)などがある。クリントン政権時代の大統領経済指紋委員会の委員長や、世界銀行のチーフエコノミストを務め、タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたこともある。現在はコロンビア大学で教鞭をとるかたわら、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストを務めている。

本書の要点

  • 要点
    1
    アメリカでは、ごく少数のエリートが経済を支配しており、底辺層にはほとんど富の分配がなされていない。このような経済的分断が政治的分断を生み、経済的な分断をさらに悪化させている。
  • 要点
    2
    現在の経済は、アダム・スミスが説いたような単純なものではない。「競争は負け犬がするものだ」という言葉どおり、企業は参入障壁を築いて競合を排除し、独占的な利益を得るためにあらゆる努力をしている。
  • 要点
    3
    市場の力だけに任せていては、効率的で公平な社会は生まれない。万人に仕事やチャンスを提供する力強い経済を復活させるためにもっとも重要なのは、政府の力である。

要約

迷走する資本主義

分断された世界
francescoch/gettyimages

1989年、ベルリンの壁が崩壊し、民主主義と資本主義が勝利をおさめた。このときは経済がかつてないほどの速さで成長を遂げ、豊かさが全世界に広がるだろうと考えられていた。しかし現在、この高邁な理想も、地に落ちて砕け散ってしまったようだ。最上層にいる人ばかりが経済成長の恩恵を受け、大衆は置き去りにされた。英国がEU離脱を選択したのも、アメリカがトランプを大統領に選んだのも、これまで政府がエリートばかりに味方してきた結果である。

失敗しているのは経済だけではない。経済的分断は政治的分断を生む。富や権力を持つ人たちは、自分たちに有利になるように政治や経済のルールを書き換えてしまう。多くのアメリカ国民が望んでいる銃規制や金融規制の強化、医療や教育の保障といった声は、少数の権力者によって無視され続けている。

こうしたアンバランスで利己的で近視眼的な政治や経済は、同じような特質を持つ個人を生み出し、事態はさらに悪化していく。

悪化が進む経済と格差の拡大

金融化やグローバル化、テクノロジーの発展によって、アメリカの経済は大きな成長を遂げた。だがその実像を分析できるデータが得られるようになると、かなり前から根深い問題を抱えていることが明らかになった。

この40年間を見ると、大多数の人の所得にはほとんど変化がないのに、上位1パーセントの所得は急増している。アメリカでは子どものおよそ5人に1人が貧困家庭に暮らしており、そこから抜け出すのは容易ではない。チャンスの平等をうたうアメリカンドリームなど、もはや神話にすぎないのだ。

チャンスの格差は、人びとを「絶望の病」に苦しめる。この10年で、大学教育を受けていない白人の中年男性の死亡率は急増しており、その死因の多くがアルコールや薬物の過剰摂取や自殺である。また就労していない「働き盛りの男性」のおよそ半数が、深刻な健康状態に苦しみ、鎮痛薬を処方してもらっているという。まじめに働いても生活水準が向上しない経済に、多くの人びとはもはや希望を持てなくなっている。

市場支配力を抑制するには
Grafissimo/gettyimages

現在のアメリカ経済では、ごく少数の企業が莫大な利益を独占し、支配的な地位を悠々と維持している。低コストでよりよい製品やサービスを消費者に提供するためのイノベーション競争は、もはや過去のものだ。

「競争は負け犬がするものだ」という言葉があるように、いまやイノベーションは参入障壁、すなわち競合企業が超えられない堀を築くために生み出されている。堀を張りめぐらした企業は市民を搾取し、利益を増やしている。競合になりそうな企業の合併や買収、新興企業が耐えられない価格競争、購買力や雇用を盾として納入業者や地元に法外な要求を飲ませるといった手法が用いられている。

長きにわたる研究の結果、市場に任せるべきだというアダム・スミスの「見えざる手」が、なぜ見えないのか解った。そんなものは存在しないからだ。いま必要なのは、搾取されている消費者や労働者の発言力・法的救済を受ける権利を強め、21世紀に極端化したアメリカの資本主義を抑制することである。

グローバル化と金融、テクノロジー

グローバル化を修正する

アメリカ経済が危機に陥っている中心的理由のひとつが、グローバル化だ。低スキル労働者が担う仕事が国内から失われ、労働者全体の賃金を下落させている。さらに企業が拠点を海外に移すことで、国の税収も減少した。多国籍企業は各国の税制の違いを駆使して、納税を実質的に回避している。そのような企業は対価も支払わず、タダで行き届いたインフラや教育を受けた人びとを使おうとしている。

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