なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか
アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図

未 読
なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか
ジャンル
著者
渡瀬裕哉
出版社
定価
1,400円 (税抜)
出版日
2019年12月31日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図
著者
渡瀬裕哉
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1,400円 (税抜)
出版日
2019年12月31日
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4.0
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レビュー

本書のテーマは、成熟した民主主義社会における「アイデンティティの分断」である。それは、人々に自らが属する集団に対する過度の帰属意識を持たせ、対立する他集団の人々を敵対勢力として認識させる社会状況を指す。所得格差や移民問題などはその典型だ。これは政治に直接関わるものとは限らない。特定の集団にアイデンティティを押し付け、社会を分断しようとする動きは至るところで見られる。「反知性主義」「ポピュリズム」といった世界的なトレンドから、「団塊ジュニア世代」「就職氷河期世代」といった日本独特のもの、さらにはネットを覗けば「マイルドヤンキー」「アンダークラス」といったものまで、数限りなく見出せるだろう。これらは「属性ラベリング」といい、要するにレッテル貼りである。

こうした分断は、社会科学者などの知識人が発見し、それをメディアが拡散し、政治家が自身の政策に取り込んでアピールすることで、拡大・強化されていく。これは成熟した社会では止めようもない動きだが、あまりに対立が先鋭化すると人々の不安をかきたててしまう。民主主義の社会は、人々による理性的な対話が成立することを前提とするが、この前提が揺らぐことになる。また、Facebookのリブラのような仮想通貨の台頭により、アイデンティティのあり方も大きく変化するだろう。

そんななかで重要となるのが、アイデンティティの分断を拒絶するのではなく、その構造を理解し、自らが選び取ったアイデンティティを優先することだという。世界の政治情勢に精通した著者ならではの建設的な提言に、ぜひ耳を傾けていただきたい。

しいたに

著者

渡瀬裕哉(わたせ ゆうや)
パシフィック・アライアンス総研所長
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。創業メンバーとして立ち上げたIT企業が一部上場企業にM&Aされてグループ会社取締役として従事。同取締役退職後、日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。また、国内では東国原英夫氏など、自治体の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニングにも関わる。主な著作として『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    選挙のマーケティング技術の発展が、民主主義社会におけるアイデンティティの分断を促している。
  • 要点
    2
    分断が先鋭化する典型例は米国の大統領選挙である。そこでは、有権者は多様なアイデンティティを剥ぎ取られ、「赤(共和党)」か「青(民主党)」かのどちらか1色に染め上げられる。
  • 要点
    3
    将来的には、仮想通貨の流通がアイデンティティのありようを大きく揺るがす可能性が高い。
  • 要点
    4
    今後重要となるのは、社会が押し付けてくる「アイデンティティの分断」から脱却し、意識的にアイデンティティを取捨選択し、優先順位を付けることだ。

要約

アイデンティティの分断とは

アイデンティティには多様性がある

わたしたちは本来多様なアイデンティティを内に抱え、常に発見し、選択して、受容しながら更新していくものである。一方で、人々のアイデンティティを1つに染め上げ、それによって社会に分断をもたらそうとするパワーが存在する。

それが典型的に現れるのが選挙である。政治家は、自分の主張をわかりやすいものにするために、画一的で単純化されたアイデンティティを有権者に押し付けようとする。「所得による格差(富裕層/低所得層)」は、まさにそうだ。

本来であれば、生活の満足度などは、所得の差にかかわらず人それぞれなのに、政治家は格差を強調することで社会に分断をもたらす。そして、その文脈で自らの政策を補強し、アピールしようとする。こうして作り出されたアイデンティティによる社会的な分断を、「アイデンティティの分断」と呼ぶ。

知識人・メディア・政治家
Neydtstock/gettyimages

社会的な分断の発見は、社会的な課題(イシュー)の発見を出発点とする。それを生業にするのが、社会科学者をはじめとする知識人である。彼らの言説は、「このような社会的課題があり、それが未解消のまま放置されている」といった問題提起の形をとることが多い。

そうした問題提起が次々と現れてくるのは、より良い社会を構築するという意図からであり、成熟した民主主義社会の証ともいえる。しかも、分断の発見をもとにした論文を書くことが、知識人の出世の条件にもなっている。こうした背景から、アイデンティティの分断は止めようもなく、わたしたちはそれを前提に自らのアイデンティティを形成していかなくてはならない。

次にメディアの役割はどうか。メディアは、そうしたアイデンティティの分断を拡散する装置ともいえる。さらに、SNSなどの発達によって、いまでは個々人にカスタマイズされた情報が届けられるようになっている。これが分断を加速させているのだ。そして、政治家が選挙に勝つためにこうした分断を利用する。政治家にとってメディアに論調を合わせることは、極めて重要な戦略なのだ。

属性ラベリングという罠

アイデンティティの分断の1つの手法が、「属性ラベリング」である。所得、人種、学歴、性別などの属性によるレッテル貼りといえる。

2016年のトランプ大統領当選前後から、「ポピュリズム」という言葉が世界的に流行した。知識人は、社会的な分断が進むなか、社会の底辺層に位置付けられた人々が「怒り」によって政治を動かしていると主張した。

しかし、このようなラベリングは、リベラルな知識人が、自分たちのリベラルな価値観を受け入れられる人(=非ポピュリスト)か、自分たちのリベラルな価値観を受け入れない層(ポピュリスト)かという偏見によって、人々を分類したにすぎない。

米国大統領選挙

共和党vs民主党
smartboy10/gettyimages

政治によるアイデンティティの分断が典型的に見られるのが、米国大統領選挙である。合衆国を構成する州ごとに勝ち負けが決まる選挙戦では、「共和党が勝利した州=赤色」、「民主党が勝利した州=青色」によって全米が色分けされる。これほど米国内の分断をビジュアル化したものはないだろう。

もちろん、両党ともに新規の支持者を獲得しようとしている。だが、赤い有権者をより赤く、青い有権者をより青く染め上げ、確実に投票に行かせるほうが、コストパフォーマンスが高い。こうしたことから、両党の主張の先鋭化は加速するばかりだ。共和党は保守派、民主党はリベラル派の、単純化されたわかりやすいメッセージを繰り返している。そして有権者は、政治家から与えられた政治的なアイデンティティによって、自身が持つ多様なアイデンティティを塗りつぶされ、赤・青のいずれかに染め上げられようとしているのだ。

「隠れトランプ支持者」を捏造、リベラル派による分断

民主党側のリベラル派によるアイデンティティの分断は、客観的な体裁の属性ラベリングによるものである。

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