言語学バーリ・トゥード

Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか
未読
日本語
言語学バーリ・トゥード
言語学バーリ・トゥード
Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか
著者
未読
日本語
言語学バーリ・トゥード
著者
出版社
東京大学出版会

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定価
1,870円(税込)
出版日
2021年07月21日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

「バーリ・トゥード」とは「何でもあり」という意味の格闘技のジャンルだが、本書はまさに「バーリ・トゥード」な言語学の読み物である。要約者も言語学を学んだ者のはしくれで、本書の言葉を借りれば「言語学という魔境に迷い込んで指導教員という名の魔王から首の後ろあたりに『げんご』という焼き印を押されてしまった者」の一員である。分厚い教科書で見たような堅苦しい理論が、プロレスラーがリング上を飛び回るがごとく、自由に軽快に展開されるのには脱帽した。「コピュラ文」「生成文法」「相互知識のパラドックス」など、一見とっつきにくそうな専門用語が登場するものの、それが身近な例やエピソードとともに平易な言葉で説明されるので、言語学初心者にもわかりやすい。何なら用語は読み飛ばしても理解できる(!)ほどだ。普段何気なく使っている言葉を改めて考え直す機会となるだろう。

「抱腹絶倒必至」との触れ込みだが、広告に偽りなし。大笑いしながら読める一冊である。気軽な言語学の入門書としてももちろんだが、何かと暗い気持ちになりがちな今、本書のようなユーモアに触れて大笑いすることができる機会は貴重だ。なお、タイトルからもわかるように著者は熱烈なプロレスファンで、文章のいたるところにプロレスネタが散りばめられているので、プロレスファンはさらに楽しめること受け合いだ。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

川添愛(かわぞえ あい)
作家。1973年生まれ。九州大学文学部卒業、同大大学院にて博士号(文学)取得。2008年津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、2012年から2016年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。専門は言語学、自然言語処理。著書に『白と黒のとびら』(東京大学出版会、2013年)、『精霊の箱(上・下)』(東京大学出版会、2016年)、『自動人形の城』(東京大学出版会、2017年)、『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社、2017年)、『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(東京書籍、2018年)、『数の女王』(東京書籍、2019年)、『聖者のかけら』(新潮社、2019年)、『ヒトの言葉 機械の言葉』(角川新書、2020)、『ふだん使いの言語学』(新潮選書、2021年)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    「絶対に押すなよ!」のように、日常的に使われる言葉には「意味」と「意図」にずれが見られる場合がある。こうしたやり取りを成立させるには、文化や文脈などの広い「取り決め」の共有が必要となるため、AIには判断が難しい。
  • 要点
    2
    言語学者の仕事は「正しい日本語」を守ることではない。「正しい日本語」はスーツやパーティードレスのように、状況に応じて使い分けられるべきだ。フォーマルな場で使えない日本語はパジャマや部屋着のようなもので、これらを「服ではない」と言えないのと同様に、そういった日本語を「日本語ではない」と断じることはできない。

要約

私たちは本当にわかり合っているのか?

AIは「絶対に押すなよ!」を理解できるか
erhui1979/gettyimages

「意図」とは、大まかに言えば「人が考えている内容」だ。ここでは言葉の辞書的な意味や、文そのものが表す内容を「意味」、それらの単語や文にのせて話し手が聞き手に伝えたい内容を「意図」と呼ぶ。両者の違いを示すわかりやすい例は、ダチョウ倶楽部・上島竜兵氏の「絶対に押すなよ!」である。この言葉の文字通りの「意味」は「押すな」だが、熱湯風呂のふちでこのフレーズを口にする上島氏の意図は「押せ」である。

「意味」と「意図」のずれは日常的に見られ、混乱の種になることもある。しかし、話し手と聞き手の間に了解があれば、このずれをうまく利用することもできる。合言葉はその典型だ。「山!」に「川!」と返す合言葉では、「山」も「川」も本来の意味は関係ない。合言葉は互いの了解さえあれば、言葉である必要はなく、車のランプを5回点滅させるのを「アイシテル」のサインにすることもできる。

話し手も聞き手も「自分は文字通りの意図で話している/理解している」と思っているのに、実は暗黙の了解が働いているケースも多々ある。こうしたケースは、「言葉を適切に理解できるAI」を実現する上で大きな課題だ。例えば「回せ」という指示は、「回す」という言葉さえ理解できれば誰でも実行可能だと思われるかもしれない。しかし、人間は「相手の意図している回し方」を暗黙のうちに理解し、適切な回し方を選んでいる。バトントワリング用のバトンを「回せ」と言われたらバトンが円を描くように回し、肉の刺さった串を「回せ」と言われたら串を回転軸として回すだろう。扇風機を「回す」のだったら、電源とスイッチを入れるはずだ。

AIにとって、「回せ」という指示だけでこうした意図を的確につかむことは難しい。意図を特定する手がかりが、言葉の意味の中にはないからだ。これを判断させるには場面や相手についての知識やそれまでの文脈といった、広い意味での「取り決め」の共有が必要なのである。

「見くびっている」or「不親切」?

本書は、東京大学出版会が毎月発行している『UP』という冊子に掲載されていた、同名の連載をまとめたものである。連載開始時に、同誌に連載しているある先生からちょっとしたクレームが入った。連載タイトルに含まれる「バーリ・トゥード」という用語についてまったく説明がない、ということだ。なぜ著者は「バーリ・トゥード」を説明しなかったのか。それはプロレス、総合格闘技ファンの著者にとってあまりに当たり前の用語で、耳慣れないと感じる人の方が多いということを忘れていたからだ。ここから、自分と他人の知識状態に注意を払いながら、状況に応じて用語を適切に導入するための条件について考えてみよう。

例えば、著者が知人の女性に、「私、バーリ・トゥードの試合を見てみたいんだ。あれ、生で見たらすごいと思うよ」と、何の説明もなくバーリ・トゥードという言葉を出す場合、「その言葉が自分と相手の共通知識に含まれている」という思いが表れている。この発言が相手を困惑させない条件は、(1)相手がバーリ・トゥードが何かを知っている、かつ、(2)そのことを私が知っている、ということである。本当にこれで十分だろうか。

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