メディアの未来

歴史を学ぶことで、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、SNSの将来は導き出せる
未読
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メディアの未来
出版社
プレジデント社

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出版日
2021年09月16日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

メディアに関する壮大な歴史の記録である。しかも、メディアがどのように生まれ、発展したのかを膨大な資料を参照して記録することで、その未来をも「予知」している。

メディア自体は太古の昔から存在し、それぞれの時代で重要な役割を果たしてきた。時を経るごとにその特徴は変化し、世界や社会に大きな影響を与えている。公権力と密接不可分な存在でありながら、メディアから生まれたジャーナリズムは、権力を監視し、時に戦うこともいとわない。一方で、メディアは個人の欲望から組織的な思惑まで反映する存在でもあり、大きなビジネスとして成長を遂げてきた。それぞれの時代にあって栄枯盛衰を繰り返しながらも生き残り、形を変えて役割を果たしてきた部分も多くある。

メディアの発展過程を語るにあたり、科学技術の進歩も見逃せない。印刷技術、音声や映像を記録する機械、そしてインターネットに至るまで、多くの技術や機器の発明と高度化、新たなプラットフォームの開発など、絶えざる技術革新がメディアを支え、変貌させてきた。

そして、メディアが常に直面してきた真実と虚偽の見えにくさや、デマ・ウソ情報との戦いが、人類の永遠の課題であることも本書は示す。今も新たなメディアが次々に生まれ、それを使う人同士の関係を新しく結んでゆく。過去の検証には痛みを伴い、未来の展望は困難で骨が折れる作業だが、本書はそれに正面から取り組み、ジャーナリズムのあり方を問いかけた、現代にまたとない堂々の力作である。

ライター画像
毬谷実宏

著者

ジャック・アタリ(Jacques Attali)
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの要職を歴任。政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。
林昌宏氏の翻訳で、『2030年 ジャック・アタリの未来予測』『海の歴史』『食の歴史』『命の経済』(プレジデント社)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』『金融危機後の世界』『国家債務危機一ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』『危機とサバイバルー21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(いずれも作品社)、『アタリ文明論講義ー未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。

本書の要点

  • 要点
    1
    技術の進歩によって人々の情報伝達、コミュニケーションも進化していったが、フェイクニュースに悩まされることもしばしばあった。
  • 要点
    2
    印刷技術や出版物の登場は権力とも結びつき、その内容は厳しい検閲の対象にもなる一方、ジャーナリストや表現の自由を生む役割を果たした。
  • 要点
    3
    メディアの歴史をひもとくことで、未来も含めた情報とコミュニケーション手段について、いくつかの法則が導き出せる。
  • 要点
    4
    SNS全盛の現代は、最良な情報を見つけ出す技術を学びつつ、時には情報を遮断する時間も持ったほうがよい。

要約

活版印刷の登場まで

情報伝達手段はゆっくり発達した

15世紀半ばまで、馬、車輪、文字という紀元前3500年頃からの情報拡散の手段と速度は進歩しなかった。権力者たちは主要な情報を独占し続けたが、ヨーロッパでは10世紀以降、増加の一途をたどっていた商人たちがコミュニケーションを取るために、これまで以上に自由な移動と情報のやりとりを必要とした。

商人たちは、私信や政治情報を運ぶ独自の郵便ネットワークをもとに、情報の配信を専門にする最初の定期便、アッヴィージを生み出す。これはのちの新聞の原型となるもので、情報が販売されるようになった大きな変化であった。

これらのネットワークで伝えられたのはただのニュースだけではない。嘘をつくため、大衆を扇動するため、情報を操作するためにも利用された。この世の終わりを告げる手紙で人々は混乱し、フェイクニュースを信じた農民や職人、市民たちが暴動を起こした。

15世紀に入ると、ドイツの街では中国発の大型技術革新、金属活字を使う活版印刷の登場で情報伝達の方法が数千年ぶりに変化した。一方で、その技術を通信手段には用いなかった中国では、老朽化した郵便システムが崩壊した。国教会や王室の検閲が厳しかったイングランドやフランスでも、印刷技術や出版物の登場、普及が遅れていた。

自由を得るための闘争

ジャーナリストと表現の自由
sharpner/gettyimages

ヨーロッパとアメリカでジャーナリストが本格的な職業になったのは18世紀初頭からだ。

ジャーナリストはヨーロッパ市場を支配する商人が活躍した経済大国、ネーデルラントで誕生した。18世紀後半のアムステルダムでは定期刊行物の出版や政治、社会について自由に語ることができた。

現在のドイツと重なるプロイセン王国では、新聞はなお厳しく管理されていたが、それでも少し批判的な意見を載せる定期刊行物は増え続けた。ただし、国内政治はあまり扱っておらず、国際情勢や雑多なニュースが中心であった。ルイ14世の絶対王政下にあったフランスでは、事前に許可された書籍と新聞しか刊行できないという規制があり、王室検閲官が目を光らせていた。「ジャーナリスト」という言葉は1702年からフランス語で用いられるようになったが、当時は権力の手先を意味する否定的なものだった。

イギリスが全権を掌握していた北米での出版規制は厳しかった。しかし、『ニューヨーク・ウィークリー・ジャーナル』を創刊したドイツ出身の印刷業者が「扇動的な中傷」で逮捕された際に、裁判所が報道の自由を認めたため、表現の自由が大勝利を収めるに至った。

出版の自由は大衆の自由の盾

13州の植民地がアメリカ独立戦争に勝利しアメリカの誕生が承認されると新聞の数は増えていった。匿名という権利や、郵便配達路線の整備に付随したコミュニケーション・ネットワークの重要性も高まった。

1791年、ヴァージニア州の下院議員だったジェームズ・マディソンは、言論の自由と報道の自由を組み合わせた憲法修正第一条(「議会は言論または報道の自由を制限する法律を制定してはならない」)を提出し、可決させた。現在に至るまでごく短期間を除き、この原則が廃止されたことはない。しかし、この自由への闘争において、女性と奴隷が議題に上がることはまだ稀であった。

翻ってフランスでは、革命後の短期間のみ報道の自由が謳われた時期があったが、恐怖政治下で検閲が復活してしまった。ナポレオンは「新聞が私の利益に反する内容の記事を載せ、私を困らせるようなことがあってはならない」という手紙も書いている。

多くの新聞が創刊されていたアメリカを見ていたトクヴィルは、安価に新聞を配達できる手段の不在がフランスのあらゆる遅れの原因であると分析した。

技術進歩と報道の変容
menonsstocks/gettyimages

蒸気船、汽車、電信機、写真という技術進歩は、ニュースの伝え方を大きく変えた。工業化の初期段階では経済情報を最初に得た人などが莫大な富を得られたため、情報の先取りを要求する者も現れた。

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要約公開日 2021.12.26
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