仕事と人生に効く
教養としての映画

未 読
教養としての映画
ジャンル
著者
伊藤弘了
出版社
定価
2,255円(税込)
出版日
2021年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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教養としての映画
仕事と人生に効く
教養としての映画
著者
伊藤弘了
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定価
2,255円(税込)
出版日
2021年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
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おすすめポイント

映画は仕事に役立つ。そう言われたら、すぐに頷けるだろうか。

「『日本一わかりやすい』映画講師」という肩書を持つ著者は、映画は「仕事と人生に効く」という。映画によって培われた文化的な教養は、人生を豊かに彩る。その意味で「仕事と人生に効く」というタイトルのうち、人生の側は比較的納得しやすいかもしれない。しかし、仕事にも効くというところに、本書のユニークさがある。

ビジネス的な発想は数値や効率を追求するため、時に本質を見失ってしまう。それが経済的発展に不可欠であることは論をまたない。だが同時に、本質を捉えられる文化的な素養こそが真のイノベーションを起こす材料になりうるというのもまた真実だろう。

著者は映画評論家であり批評家であるから、「役に立たない」からこそ豊かであるという、文化の持つ価値を誰よりよくわかっているはずだ。しかし本書はあえて「役に立つ」というビジネスの論理で映画をプレゼンテーションしていく。

本書は大学で教鞭をとってきた著者の経験が活かされた、優れた映画評論入門である。その内容が優れているのはもちろん、映画評論という文化領域の価値を、ビジネスの言葉と論理で語り直すというコンセプトにも注目してほしい。この本そのものが、文化と教養によって新たな価値を生み出していると気づくだろう。

映画は仕事に役立つ――その主張の正しさは、本書そのものによって証明されているのだ。

ライター画像
池田明季哉

著者

伊藤弘了(いとう ひろのり)
映画研究者、批評家
1988年生まれ。愛知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。
現在は関西大学、同志社大学、甲南大学で非常勤講師を務める。
また、東映太秦映画村・映画図書室にて資料整理の仕事を行なっている。
「國民的アイドルの創生―― AKB48にみるファシスト美学の今日的あらわれ」(『neoneo』6号)で「映画評論大賞2015」を受賞。
Twitter:@hitoh21

本書の要点

  • 要点
    1
    「トイ・ストーリー」シリーズは、子どもから大人まで多くのファンを持つ、わかりやすい映画の筆頭だ。それでいて、作品のなかには、アメリカの歴史と国民性、ハリウッド製のジャンル映画の記憶が反映されている。そのことを意識すれば作品鑑賞の質が変わるだけでなく、観察力や注意力が研ぎ澄まされ、ビジネスの現場に活きてくるはずだ。
  • 要点
    2
    映画は私たちの生きる社会を反映している。映画の流行を追えば、時代の潮目を見極める能力が鍛えられ、ビジネスのヒントが見つかるかもしれない。

要約

「トイ・ストーリー」は難しい?

gorodenkoff/gettyimages
映画の難しさと奥深さ

ちょっとした心がけとほんの少しの知識で、あなたの映画の見方はぐっと豊かになる。その主張に対して、こう感じる人もいるだろう。映画を見るのは簡単なことであり、特別な知識や経験は必要ない。そもそも映画は感性で味わうべきもので、分析や批評なんて野暮なだけだ――と。だが、映画を見るのは難しいものだ。

映画の強みは、子どもから大人まで誰が見ても直観的に理解できることである。一方で、簡単そうに見えて実は難しいところに、映画の奥深さはある。映画は、一度見ればすべてを理解できるほど単純なものではないのだ。

「トイ・ストーリー」とアメリカ文化

「トイ・ストーリー」というアニメーション映画の大ヒットシリーズがある。子どもから大人まで多くのファンを持つ「トイ・ストーリー」シリーズは、わかりやすい映画の筆頭と言ってもいいだろう。

だが実はこの作品には、アメリカの歴史と国民性、ハリウッド製のジャンル映画の記憶が色濃く刻印されている。そのことを意識すれば、作品の見え方がまるで変わってくるだろう。

「トイ・ストーリー」はその名の通り、オモチャたちの活躍を描いた作品だ。さて主人公のウッディはなぜカウボーイ(保安官)なのだろうか。相棒役のバズ・ライトイヤーがスペースレンジャーなのはなぜだろうか。

映画研究者の川本徹氏は『荒野のオデュッセイア――西部劇映画論』(みすず書房)のなかで、これらの疑問に答えてくれている。カウボーイとスペースレンジャーは、「フロンティア」というキーワードによって結びついているのだ。

カウボーイは西部劇の主人公だ。アメリカにとって西部のフロンティア開拓は「明白なる天命(マニフェスト・ディスティニー)」であり、その様相を描いた西部劇は一大映画ジャンルとして人気を博した。しかし西部が開拓されつくし、フロンティアが消滅したのと同様に、西部劇というジャンルも衰退する。

そこでハリウッド映画は、「宇宙」を次のフロンティアとした。カウボーイとスペースレンジャーは新旧のフロンティアを象徴するヒーローであり、このふたりがバディを組んでいることには理由があったのだ。

実際、クリント・イーストウッド監督の『スペース・カウボーイ』(2000年)はそのものズバリのタイトルであるし、火星からの脱出を描いた『オデッセイ』(リドリー・スコット監督、2015年)も西部劇のエッセンスと宇宙を掛け合わせた映画だ。劇中でマット・デイモン演じる主人公が「カウボーイ」という単語をなにげなく口にする瞬間は見逃せない。

他にもアメリカの歴史が反映されたシーンがある。たとえば『トイ・ストーリー3』の冒頭のシーンだ。アンディ少年は、列車強盗と保安官が戦いを繰り広げる夢を見ている。宇宙船やレーザービームなどを用いた末に使用されるのは、「サル爆弾」という兵器だ。爆発後に赤いキノコ雲を形成する「サル爆弾」は、明らかに核兵器をモチーフにしている。

このように、子ども向けと思われている「トイ・ストーリー」にも、アメリカという国家のたどってきた歴史や国民性が織り込まれているのである。

知識を身につけることで映画の見方は無限に広がっていく。個々の作品を深く見られるようになるだけでなく、映画の「横の繋がり」にも目を向けられるようになるだろう。知識にくわえて、ささいなセリフや演出上の工夫に気づく感性が育まれれば、映画をより深く味わえるようになる。研ぎ澄まされた観察力や注意力は、ビジネスのさまざまな現場に活きてくるはずだ。

映画を見ると人生が変わる

映画は「オワコン」か?
MixMedia/gettyimages

「なぜ人は映画を見るのか?」と聞かれたら、あなたはなんと答えるだろう。著者の答えは「映画を見ると得をするから」だ。

映画は「オワコン」だと思う人もいるかもしれない。しかし2019年、日本における映画の年間興行収入は2611億円強、観客動員数は1億9491万人と、統計を取りはじめた2000年以降で最高の数字となっている。

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