超文系人間のための統計学トレーニング

「数字を読む力」が身につく25問
未読
超文系人間のための統計学トレーニング
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「数字を読む力」が身につく25問
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超文系人間のための統計学トレーニング
出版社
出版日
2022年03月29日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

学生時代に統計学に触れる機会のなかった要約者は、タイトルに入門書とある統計学の本に何度か挑戦してみたことがある。しかし、数式や数列が並び、専門用語のオンパレードで、とても読み進める勇気は出なかった。思えばそうした本は、著者の言葉によれば統計学を「学ぶ」ためのものだった。それに対して、本書は統計学を「使う」ことを目指す。

統計を使えることにはどのようなメリットがあるのだろうか。著者は3点あげる。まず、数字の意味を自分事として理解できるようになる。次に、先を読めるようになる。たとえばデータを使って、ある商品の売上を予測できる。またビジネスのプランニングにおいて、失敗する可能性まで考えている人はどのくらいいるだろうか。事前にそうしたリスクまで統計学的に計算しておくことは、大変心強い先々への備えとなるだろう。

そして、AI時代に対応できるようになる。いま統計学が注目されているのは、人々がネットに常時接続する環境になったことで、膨大なデータを集められるようになったからである。そうしたデータをAIが処理することでさまざまなサービスが生まれている。一方で、全てがAIによって支配されるのではないかという懸念も生まれている。そうしたデータ処理の背後にある統計学的な知識(たとえば多変量解析)についての基本的な理解は不可欠なものとなる。

本書は、統計学的な説明を直感的に理解し、ビジネスでも使える統計学的なものの見方ができるようになるための本なのである。

ライター画像
しいたに

著者

斎藤広達(さいとう こうたつ)
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て、経営コンサルタントとして独立。数々の企業買収や事業再生に関わり、社長として陣頭指揮を行い企業を再建。その後、上場企業の執行役員に就任し、EC促進やAI導入でデジタル化を推進した。現在は、AI開発、デジタルマーケティング、モバイル活用など、デジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。
主な著作に、『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    大きな数字も、単位あたりの平均を求める@(アット)変換によって自分事化できる。
  • 要点
    2
    ビジネスプランにおいては、成功率と失敗率を事前に試算することで、期待値を出すことができる。そのうえで、期待値が費用に見合うものかを検討する。期待値を比較すれば、プラン同士の優劣を判断することができる。
  • 要点
    3
    メンバーの能力、反対者の割合など、組織のさまざまな事象は、正規分布に近い割合で分散している。
  • 要点
    4
    AIが生活のあらゆる分野に進出してくるデータ社会を生き抜くためには、多変量解析の理解は必須となる。

要約

統計学で数字を自分事化する

平均が意味するもの

統計学は「複雑な式や計算が必要なもの」と思われるかもしれないが、多くのビジネスパーソンが仕事で使うかぎりにおいては、簡単な四則演算、つまり「足す、引く、かける、割る」だけでほとんどのことができてしまう。たとえば誰もが小学校で習う「平均」もその1つだ。

「日本の国家予算は107兆円」など、世の中には思わず思考停止になるくらいの大きな数字が溢れている。そこで、この数字を日本の人口で割って「1人当たりの平均値」を出してみよう。この計算を「@変換」と呼ぶ。

日本の人口はおよそ1億2000万人なので、「107兆円÷1億2000万人≒89万円」となる。

社会保障費やインフラの整備費、防衛費など、私たちが安心して快適に暮らすためのコストとして、1人当たり年間約90万円が使われているということだ。それを多いと感じるかはそれぞれだろうが、@変換によって、莫大な金額がそれなりにイメージできる数字に変わったのではないだろうか。

大きな数字を見たらこうして「自分事化」するクセをつけよう。ある会社の売上を「社員1人当たり」という単位で@変換すれば、その会社の生産性を大体推測できる。

また@変換は、小売業界でよく使われる「1坪当たり」「1㎡当たり」といった単位にも見られる。

平均値と中央値の違い
Rawf8/gettyimages

平均値は、サンプルが少なかったり数字に大きな偏り(バラツキ)があったりすると意味をなさない。後者の代表的な例が年収である。欧米に比べれば格差が小さいと言われる日本でも、少数ながら非常に高収入のサンプルが含まれるのだ。そこで平均値を取ると、実態より引き上げられた数字が出てしまう。こうした場合に役立つのが「中央値」だ。

国税庁の「令和2年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の30代前半の男性の平均年収は458万円である。これを中央値で見てみると、330万円という数字が出てくる。これは、日本人の30代前半の男性を年収順に並べたとき、ちょうど真ん中にいる人の年収がこの額だということを意味する。多くの人には、この数字のほうが実感に近いだろう。

ざっくり全体の大きな傾向をつかむには@変換を使って平均を見る。その結果に違和感を抱いたら中央値をチェックする。そのように区別してみよう。

先を読んでリスクに備える

確率と期待値

次のテーマは確率である。ビジネスで新しいプランに投資しようとする場合、ただのギャンブルではなく、しっかり確率に基づいた計算をしないといけない。

たとえば、あるキャンペーンのプランAの成功確率を75%、失敗の確率を25%と想定する。そして、成功した場合の売上が1000万円増、失敗の場合は500万円増を見込める場合、キャンペーンの売上押し上げ効果を計算すると次のようになる。

1000万円×75%+500万円×25%=875万円

これを、プランAの「期待値」という。この期待値を用いて、費用に見合うものになっているか、あるいはプランBと比較してどちらが効果があるか、といったことを検討できる。

もちろん実際のビジネスでは、これほど単純に切り分けられないことが普通だ。それでも、具体的な確率と数字で「議論のベース」を作れば、感覚や好みだけに頼ることなく議論を進められるだろう。

シナリオ・プランニング
anyaberkut/gettyimages

期待値の考え方を応用して、ビジネスのシナリオを作ってみよう。

過去の同様の施策から、プランXの成功確率を割り出してみる。それが成功したとして、さらにプッシュした場合と何もしなかった場合でどれくらい目標の達成度合いが変わるのか。同時に、失敗の確率がどのくらいかも考える。そのときとる対策によってどれくらいリカバリー率が変わるのか。それらについて、確率と期待値を用いて検証してみよう。数値は仮のものでよい。

楽観と悲観の2つのシナリオがある時、より重要なのは「悲観シナリオ」である。

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要約公開日 2022.05.08
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