スローフード宣言

食べることは生きること
未読
スローフード宣言
出版社
出版日
2022年11月03日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

食べることは生きること――。本書のサブタイトルだ。よく聞くフレーズであるし、おそらくこの言葉を真っ向から否定する人はほとんどいないだろう。それなのに現代を生きる私たちは、時に食べることをないがしろにしてしまう。パソコンに向かいながらもそもそ食べるコンビニおにぎり、ふとさみしくなった夜に頼む宅配ピザ、味わうことなく次から次へと詰め込むスナック菓子……。それらが自分の心と体をつくっていることは理解しているはずなのに、なぜか食べることの優先順位が下がってしまうのだ。

そんな私たちに向けて、あらためて「食べることは生きること」と教えてくれるのが本書である。著者のアリス・ウォータース氏は、アメリカで最も予約が取れないと言われるレストラン「シェ・パニース」のオーナーであり、料理人だ。世界中にスローフードを普及させた人物でもある。

著者はフランスの大学に留学していたとき、フランス人の買いもののしかたや料理のしかた、食べかたに惚れこんだのだという。その様子を見て、もっとゆるりとした、地に足のついた暮らしをしたいと考えるようになり、スローフード生活を実践している。

本書では「ファストフード文化」と「スローフード文化」の章に分けて、それぞれの文化を象徴するキーワードが挙げられている。前者は「いつでも同じ」「スピード」、後者は「美しさ」「季節を感じること」といったものだ。これらのキーワードにドキッとした方は、ぜひ本書をじっくり味わい、消化して、栄養として吸収してほしい。

著者

アリス・ウォータース(Alice Waters)
アメリカで最も予約が取れないと言われるレストラン「シェ・パニース」のオーナーであり、世界中にスローフードを普及させ、「おいしい革命」を引き起こした料理人。1971年にカリフォルニア州バークレーでレストランを開業し、地産地消、有機栽培、食の安全、ファーマーズマーケットなど、今や食のトレンドとなった重要なコンセプトを実践。それはスローフード革命として世界中に広がった。ライフワークの一つとなっている「エディブル・スクールヤード(食育菜園)」は、学校の校庭で生徒が作物をともに育て、ともに調理し、ともに食べ、生命(いのち)のつながりを学ぶ取り組みで、子どもたちの人間としての成長を促す機会となっている。この活動は「エディブル教育」に発展し、日本にも広がっている。

本書の要点

  • 要点
    1
    ファストフードは単なる食べ物ではなく、一種の文化をつくりだした存在だ。私たちはファストフード的な方法で食事をすることによって、栄養バランスを欠いた食事だけでなく、「いつでも入手可能であるべきだ」「スピードは何より大事だ」といった価値観をも飲み込んでいる。
  • 要点
    2
    ファストフード文化が提供する「スピード」という価値観のもとでは、すぐに満足できないと欲求不満になる。私たちは「素晴らしいことには時間がかかる」という事実を忘れてしまったようだ。
  • 要点
    3
    美しさを毎日の暮らしに取り入れる一番簡単な方法は「食」である。

要約

ファストフード文化

ファストフードと私たちの価値観

ファストフードは単なる食べ物ではない。私たちの文化を作り出したものだ。

文化は世界の見方を作る。社会でどう振る舞うか、自分をどう見るか、どんな自己表現をするか、どう他者と触れ合うか、何を信じるか。どんな服を選び、何を買い、何を売り、どんなビジネスを行うか、どう家を構えるか。建造物や公園、学校のありかた、娯楽、ジャーナリズム、政治。文化はあらゆる物事に影響し、私たちを導く。私たちはファストフード的な方法で食事をすることによって、栄養バランスを欠いた食事だけでなく、ファストフード文化の価値観をも飲み込んでいるのだ。そしていつの間にか、ものの見方や嗜好、倫理観、考えかたが、ファストフード文化の価値観に染まっていく。

いつでも入手可能であるべきだ。いつだって多いほうがいい。世界のどこにいても、季節がいつであっても、同じ見た目と味の食べ物があるべきだ。スピードは何より大事だ……こうしたファストフード的文化とそれがもたらす価値観は、この世界にさまざまな問題を生み出している。

便利であること
LauriPatterson/gettyimages

「便利であること」は、すべてが努力なしに、簡単になされるべきだというファストフード的価値観だ。スマートフォンひとつでブリトーを玄関まで届けてもらえたり、車から降りることさえなしにチキンナゲットを買えたりする。

たしかに、便利さは暮らしを楽にした。だがひとたびその便利さに慣れると、私たちは簡単な方法や機械化されたやり方、アウトソースできる道を探すようになってしまう。植物を育てるといった、実用的で、難しいけれどやりがいのある行為に挑戦することもなくなる。

フードデリバリーサービスが広まったことで、便利さの次元がまた一段上がった。誰だってデリバリーに頼りたい日はあるものだし、感染症が広がる時代には欠かせない存在でもあったが、便利なものばかりに頼っていると人間として大切な経験が失われる気がしてならない。

なにより、便利なサービスによって生まれた時間を、私たちは何に使っているのだろう。

いつでも同じ

「いつでも同じ」は、どこに行っても同じ見た目で同じように存在し、同じ味がするべきであるというファストフード的価値観だ。ニューヨークで食べるハンバーガーとポテトとソフトドリンクは、世界のどこでもまったく同じでなくてはならない。

これは一見よいことのようにも思える。だが、あらゆる食べ物を画一的に生産しようとすると、そのプロセスでたくさんのものが失われるし、無駄も出る。個性が失われ、社会は同質的なものになっていくだろう。

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要約公開日 2023.05.28
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