私が語り伝えたかったこと

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私が語り伝えたかったこと
出版社
河出書房新社

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出版日
2017年03月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、2007年に亡くなった河合隼雄の講演やエッセイ、インタビューを集めたものだ。河合隼雄、という名前を聞くと、まずは『こころの処方箋』の著者としての、心理療法家としての姿をイメージされるだろうか。しかし、本書を読むと、心理療法に軸足を置きながら、じつに幅広い活動をされていたことに改めて気づかされる。目次をのぞくだけでも、教育問題や、家族の問題、夢の分析、日本文化について、宗教、と、多岐にわたるトピックが並び、そのことがうかがえる。

本文中で語られていることであるが、心理療法家として、たとえばノイローゼの人はどうすればよくなるだろうかという実際的なことから出発しても、そこにはその人の考え方、人生観、世界観ということが問題になってくるという。結局、人間の根本問題に近寄らざるをえなくなる、と。そうして、目の前の「人間」を見つめ、考え続けた河合隼雄のまるごとの姿が立ちあがってくるように感じられるのが本書の魅力だ。どこを拾って読んでも、河合隼雄の言葉は、親しみやすく、そして深く、「生きること」について大切なことを教えてもらった実感がある。

本書は、冒頭に、珍しく自身について語ったインタビューが収録されており、河合隼雄が「どんなことを考えて、どんなことをしようとした人だったのか」ということを、おおまかにつかめるような構成となっている。この要約でも、読者の道案内になればと思い、冒頭にその部分を紹介した。まずはそこから、ぜひ読んでみてほしい。

ライター画像
小日向悦子

著者

河合隼雄(かわい はやお)
1928年、兵庫県生まれ。心理療法家。京都大学理学部卒業後、高校教師になるが、教育問題を契機に心理学を志し、京都大学大学院、アメリカのカリフォルニア大学で臨床心理学を学び、62年にはスイス・チューリッヒのユング研究所に留学。日本人としてはじめてユング派分析家の資格を得る。75年から京都大学教授、95年から国際日本文化研究センター所長などを歴任。2002年、文化庁長官(~07年)。紫綬褒章受章、文化功労者顕彰。2007年逝去。著書に、『昔話と日本人の心』『とりかへばや、男と女』『こころの処方箋』『明恵 夢を生きる』(新潮学芸賞受賞)、『心理療法序説』『未来への記憶』など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    自身の専門である心理療法とは違う分野の人たちとの交流によって、もともとユング研究所で学んだ夢や神話や昔話といったことを考えて発表することができるようになっていった。心理療法で一人ひとりを見つめていくうちに、日本人や日本文化のことも考えるようになった。
  • 要点
    2
    われわれがこれから考えねばならないアイデンティティとは、私は私であって、私以外のたくさんの何ものかである、ということである。
  • 要点
    3
    判断すること、論戦を許容して勝ってしまうこと、それが父性だ。これからの父親は大変だろうが、子どもが鍛えてくれるはずだ。

要約

【必読ポイント!】 未来への記憶のつづき――著者自身の、これまで

ユング研究所から帰国して

1965年にスイスのユング研究所から帰ってきて、天理大学での教職に戻って7年間を過ごした。臨床心理の仕事は帰ってすぐに始めたものの、ユング研究所で学んだ夢や神話や昔話というのは、日本では受け入れられづらいと考え、ゆっくり導入した。けれど、早い段階で導入したのが、変化が目に見えて説得力のある箱庭療法だ。天理大学では、日本としては非常に早い時期から外部に開かれた相談室として教育相談室をつくることができ、これがカウンセリングの足場となった。

同じ時期、京都大学文学部で非常勤講師としてユング心理学の講義をしていた。その講義をまとめて『ユング心理学入門』を出したときも思い切ったことを書かなかった。

1972年に京大の助教授になり、臨床心理の講義で昔話の話をしてみたところ、学生の反応がよかった。これならいけると、少しずつ、昔話や文化人類学のイニシエーションについて学界の中で話しはじめた。

1975年に京都大学の教授になった頃から、自分の思っていたことを外に発表するようになった。「昔話の深層」を『子どもの館』に発表したり、『中央公論』で日本が母性社会だということを発表したり、臨床での経験をもとに文化的なことを発言しだしたわけだ。

これは一般の人にはわりと理解され、心理学以外の分野の人からはかなり評価されたようだった。ところが、心理学界のほうでは全く関心を持たれなかった。

心理療法以外から心理療法を考える
Elico-Gaia/gettyimages

心理療法に専念していた1970年の終わりごろ、哲学者の中村雄二郎らの入っている私的な会に入れてもらい、心理療法の外から心理療法を考えることができた。当時の心理学の主流だった実験心理学の人には理解してもらえなかったことを、この会の人たちはよくわかってくれた。自分のやっていることを人にわかりやすく、いろいろな角度で伝えられるようになったのはこの会のおかげだ。

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要約公開日 2023.06.22
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