室内生活 スローで過剰な読書論

未読
室内生活 スローで過剰な読書論
室内生活 スローで過剰な読書論
著者
未読
室内生活 スローで過剰な読書論
著者
出版社
日本経済新聞出版
出版日
2023年02月01日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「室内生活」。インドア派にはたまらなく甘美な響きだ。本書の著者である楠木建氏の室内生活は、幼少期を過ごした南アフリカ共和国ではじまった。学校が終わったら、家以外に居場所がない。学者になってからは、講義以外でほとんど人と会わず、仕事でも室内生活を決め込んでいた。そんな楠木氏の室内生活の中心は読書だ。楠木氏にとっての読書はアスリートにとっての筋トレのようなもの、読書を下敷きに考えるのは本業のようなものだ。そんな楠木氏の書評は、「原書を読むよりも面白い」とまで評される。本書『室内生活 スローで過剰な読書論』は、楠木氏の書評や書籍解説のほとんどを集めた珠玉の書籍解説集だ。

「ビジネス書解説」「さらにビジネス書解説」「さまざまな書籍解説」と、冒頭の3章は書籍解説にあてられる。ビジネス書から教養書まで、幅広いジャンルの解説が並び、これが一人の人が書き溜めたものなのかと驚くほどだ。

続く「さまざまな書評」と「もっとさまざまな書評」でも、じつに多彩な本に短い評が与えられており、凝縮した本のエッセンスを一気に浴びせられるような充実感がある。どれも書籍の魅力を伝えながら、新しい視点を提供している。本を読んでいないのに、本を読んだ気にも、そこから考えた気にもなれてしまう。思考のプロの考える材料とその軌跡を追うことで、本への向き合い方自体が変わりそうだ。

最終章の「読書以外の室内生活」では、室内生活の端々に喜びを見出す楠木氏の様子がうかがえる。長らく続くことになった室内生活のお供にぴったりの一冊だ。

ライター画像
池田友美

著者

楠木建(くすのき けん)
一橋ビジネススクール教授。1964年生まれ。89年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』、『「好き嫌い」と経営』(以上、東洋経済新報社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』、『戦略読書日記』(プレジデント社、後にちくま文庫)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(共著、宝島新書)、『逆・タイムマシン経営論』(共著、日経BP)。『絶対悲観主義』(講談社+α新書)等がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    読んで考えることは、著書の本業に通ずるところがある。本書には、そんな著者者が書き溜めた書評や書籍解説のほとんど掲載されている。
  • 要点
    2
    アダム・グラントの『GIVE & TAKE』は、「与える人こそが成功する」という論理を提供している。ここにビジネスにおいて「ギバーの多い社会」である日本の可能性を見出すことができる。
  • 要点
    3
    松下幸之助の言葉に学ぶ中国人経営者は驚くほど多い。松下幸之助の言葉は「理念」そのものだったからこそ、国境と時代を超越して人の道標になり得たのだろう。

要約

室内生活

ラーメン屋のスープ
GI15702993/gettyimages

著者が子供の頃から読書に明け暮れていた理由のひとつには、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで育ったというということがある。テレビもラジオもなく、読書ぐらいしかすることがない。近所に友達もおらず、学校以外は自分の家が生活のすべてだった。こうして室内生活者としての基盤が形成された。

環境以前に性格的にも非活動的で、世が世なら貴族になりたかった。現実的な仕事でもっとも貴族に近似したものを考えた結果、たどり着いたのが学者の仕事だった。きっかけは、所属していたゼミの指導教官、榊原清則先生に「あなたねぇー、就職なんかしたら不幸で口が曲がっちゃうよ! 就職しないで大学院に行くしかないね、あなたは……」と断言されたことだ。「口が曲がっちゃうよ」という言葉に妙なリアリティがあった。本を読むのも好きだったが、著者が何よりも好きなのは「考える」という行為だった。読んで、考えて、書くことが仕事になるという学者の道に、自分の将来に一筋の光が見えた。

そうして仕事でも室内生活が始まり、講義以外ではほとんど人と会わずに、研究室で読んだり考えたり書いたりしていた。

それから30代の半ばで競争戦略という分野で仕事をするようになり、本を出すようになると、書評や書籍解説の依頼が来るようになった。読んで、考えて、文章を人に読んでもらって、対価もいただける。書評書きはとてもありがたい仕事だ。本業のサイドメニューにすぎないが、心持ちは貴族だ。

ある人に「あなたにとっての書評はラーメン屋がついでにチャーハンを出しているようなものですね」と言われたことがある。だが、著者にとっての書評書きは、ラーメン屋にとってのスープづくりのようなものだ。「考える」という行為は本業と共通している。学者にとっての読書はアスリートにとっての基礎練習に等しい。これが知的体幹を太くし、思考の基盤を厚くする。

本書はこれまでに著者が書き溜めた書評や書籍解説のほとんど全てを収録してある。ラーメン屋のスープだけをパッケージにして世に出すという無謀な試みだ。これが評価されるのは、「お前の店のスープが美味しい」と言われたようで嬉しいものだ。

【必読ポイント!】 ビジネス書解説

人間の本性をとらえた骨太の書『GIVE & TAKE』

『GIVE & TAKE』(アダム・グラント)というタイトルを目にしたとき、「要するに『情けは人のためならず』という話かな」という印象を抱いた。実際にその通りなのだが、本書は凡百の自己啓発書ではない。グラントは優れた研究者であり、展開される議論は行動科学の理論と実証研究に裏打ちされている。

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要約公開日 2023.06.03
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