人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版

未読
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版
未読
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版
出版社
出版日
2022年11月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
要約全文を読むには会員登録ログインが必要です
ログイン
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』。この不思議なタイトルは、あのカール・マルクスが『資本論』草稿に書きつけた「人間の解剖は、サルの解剖のための一つの鍵である」という一節から拝借したものだという。これはマルクスの非凡な歴史観を示す見事な修辞であるというのだ。

直感的には「サルの解剖が人間の解剖のためにあるのでは?」と思うものだ。だが、マルクスの考えは逆だ。サルのグルーミングには社会的コミュニケーション機能があるといわれているが、これを理解できるのは、我々がすでにコミュニケーションにかんする理論と実践を身につけているからだ。より低級な動物にある高級なものへの予兆は、高級なもの自体がすでに知られている場合にだけ理解可能だとマルクスは考えたのだ。

本書は著者である吉川浩満氏が、現在生じている人間観の変容についてまとめた報告書である。人工知能やバイオテクノロジーなどの技術の発展は、「人間とはなにか」という根源的な問いを生じさせている。人間観が再考と修正を迫られるなか、本書は人間にかかわる新しい科学と技術についての要約と評論を「浅く広く」まとめたものである。

取り上げられる領域は多岐にわたる。形式もエッセイ、インタビュー、討議などさまざまだ。ひとつひとつが独立した論考として楽しめるが、点と点が線につながるような快感がある。この読書の醍醐味は、ぜひ本書で味わっていただきたい。

ライター画像
たばたま

著者

吉川浩満(よしかわ ひろみつ)
1972年鳥取県米子市生まれ。文筆家、編集者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。書評サイトおよびYouTubeチャンネル「哲学の劇場」を山本貴光とともに共同主宰している。おもな著書に『哲学の門前』(紀伊國屋書店)、『理不尽な進化 増補新版』(ちくま文庫)、山本との共著に『人文的、あまりに人文的』(本の雑誌社)、『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』(筑摩書房)、『脳がわかれば心がわかるか』(太田出版)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    『サピエンス全史』のおもしろさの一因は、「認知革命」を軸に長い人間の歴史をすっきり理解できる構成にある。ハラリの投げかけた物語をもとに、別の物語を描くことが、読者である我々の仕事だ。
  • 要点
    2
    人工知能関連技術の発展に伴い、いざとなったら誰を犠牲にするかを開発の段階で考える必要が出てきた。その際、功利主義的道徳原理に向き合うほかない。
  • 要点
    3
    一般的な進化論のイメージと、科学者の扱う進化論が乖離しているのは、進化論が「言葉のお守り」のような機能を果たすからかもしれない。
  • 要点
    4
    『ブレードランナー』に登場するレプリカントは、人間でないからこそ、人間らしくあろうと試み、その生き様が観る人の心を揺さぶる。

要約

【必読ポイント!】『サピエンス全史』と考える、ヒトの過去・現在・未来

私たちの求めたあたらしいフィクション
Trifonov_Evgeniy/gettyimages

『サピエンス全史』のおもしろさの一因は、あえて単純な筋立てでストーリーを展開している点にある。人間を人間たらしめた3つの革命(認知革命、農業革命、科学革命)の観点から、非常に長い期間の歴史をすっきりと理解できるようになっている。とりわけ重要なのは最初の7万年前に起こった「認知革命」である。フィクション、つまり存在しないものを信じる能力によって、人間固有の大規模な社会的協力が可能になったという。

フィクションを軸に人間の歴史を総括するこの本が大きな反響を呼んだのは、ここ数年で私たちが「フィクションのフィクション性」を痛感しているからではないだろうか。近代社会を支えてきた制度や規範、理念も、ハラリの立論の中ではフィクションと見なされる。ブレグジットがEUの理念に疑義を呈し、トランプ現象が米国大統領への幻想を崩壊させた。また、フェイクニュースやイスラム国の問題は、ある人にとっての確固とした生きる理由が、他の人にとってはフィクションでしかないという、フィクションの両義性を表していると言えよう。

内容について言えば、これは一般人に向けて書かれた真にグローバルなホモ・サピエンスの歴史書である。これまでの歴史学は、ヨーロッパ中心主義的で男性中心主義的であり、さらにいえば人間中心主義であった。『サピエンス全史』は人間の歴史を世界大、地球大で捉えようと試み、動物の権利や幸福についても言及している。少々うがった見方かもしれないが、ハラリは科学の言葉で書かれた新しい聖書をめざしたのではないかと思える。今まさに、私たちはこういう「フィクション」を求めていたのだろう。

クールな叙述とホットな問い

ハラリは一貫して客観的でクールな態度で歴史を叙述し、歴史は人間のために動くわけではないと提示した。しかし、本書の最後では「私たちは何を望みたいのか?」というホットな問いを投げかける。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3362/4198文字
会員登録(7日間無料)

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2023.04.29
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
精神現象学 上
精神現象学 上
熊野純彦(訳)G.W.F.ヘーゲル
未読
アルゴナウティカ
アルゴナウティカ
アポロニオス岡道男(訳)
未読
スタッフエンジニア
スタッフエンジニア
ウィル・ラーソン増井雄一郎(解説)長谷川圭 (訳)
未読
イノベーションの考え方
イノベーションの考え方
清水洋
未読
砂漠と異人たち
砂漠と異人たち
宇野常寛
未読
新解釈 コーポレートファイナンス理論
新解釈 コーポレートファイナンス理論
宮川壽夫
未読
パラドックス思考
パラドックス思考
安斎勇樹舘野泰一
未読
テックジャイアントと地政学
テックジャイアントと地政学
山本康正
未読
法人導入をお考えのお客様