原稿用紙10枚を書く力

増補新装版
未読
原稿用紙10枚を書く力
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著者
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原稿用紙10枚を書く力
著者
出版社
出版日
2023年09月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

生成AI、とりわけChat GPTの登場は「書く」という環境を激変させた。プロンプトを入力することで、あたかも人が書いたかのような文章が出力される。この技術革新によって公的な文章や日記、小説、あるいはプログラミング言語まで、あらゆることが一瞬で記せるようになった。

では、その「書くこと」に焦点を当てた本書の現代的な強みはどこにあるのだろうか。それは「書く」ことの意味を考えれば意外とすんなり理解できてしまうかもしれない。

書くという行為は、文章をただ出力するということを意味しない。物事を文章にする過程で、人は自分の体験を整理したり、自分の内面と向き合ったりする。つまり書くことは、人を成長させる機会をも与えてくれるのだ。

本書は、書くという行為に伴うそうした恩恵を強く意識させてくれる。もちろん、タイトルにある通り原稿用紙10枚を書くための技術にも具体的に言及している。けれども、その眼目は、書くことが我々現代人にとって、どのような意味を持つかを省察しているところではないだろうか。

書くというのは、私たちの知的活動全般に大きく関わっている。世界にある多くのものを経験し、それを頭の中で定義しなおし、誰かの心に残るように出力する。AIが全てやってくれるから必要ないということはない。むしろこういう時代だからこそ、書いて書いて、自分の知性を鍛錬することに意味がある。

著者

齋藤孝(さいとう たかし)
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(草思社)で毎日出版文化賞特別賞。『読書力』(岩波書店)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)、『こども孫子の兵法』(日本図書センター)など著書多数。著書発行部数は1000万部を超える。

本書の要点

  • 要点
    1
    ChatGPTは書くという概念を大きく変えた。こうしたAI時代においても「書く」という行為は有効だ。構成力、粘り力、自己形成、これら3つが、書くことの鍵である。
  • 要点
    2
    書く力を上げるには、とにかく量をこなすしかない。目標を立て、自分が書きやすいテーマをどんどん書き、量的な不安をなくすのが一番の近道だ。
  • 要点
    3
    読んだ人を惹きつける生命力の源が「文体」だ。これは一朝一夕で身につくようなものではない。自分の立ち位置を定めることで、文章に生命力が与えられていく。

要約

AI時代に書くことの意味

構成力

生成AIの登場は「書く」ことを大きく変えてしまった。OpenAI社のChatGPTは入力側のオーダーを反映し、キャンプの案内文から小説の続きまで様々な文章を出力することができる。こうしたAI時代において、我々が書く力を身につける必要性はどこにあるのだろうか。まず本書で提唱している3つのキーコンセプトに基づき説明したい。

1つめは構成力だ。自分の手持ちの知識を使って、まっさらな紙の上にどのような文章を構築していくのか。それは、書く力がないと手をつけることすら難しい。試験の作文などを通じて得られた文章構築能力は、プレゼンテーションの場などで筋道の立った話をするときにも大きな力を発揮する。

文章は「書けば書くほど楽になる」が、それ自体は知的活動の中でもかなり難しい部類に入る。だから文章における構成力は、知的活動全体に対する自信につながるはずだ。

粘り力と自己形成
Thapana Onphalai/gettyimages

2つめは頭の「粘り力」だ。ものごとを簡単に投げ出さない忍耐力を意味する。書くことは無意識のうちに、知的なタフさを鍛えている。書くことを放棄すると、知的活動でもっとも重要な「考え続ける」ことまで放棄することになってしまう。

また、書くことは自分が直面している問題を頭の中で整理することにもつながる。そうするうちに、「自分ができることを考えても仕方ない。今できることはこれなのだ」と悟って、心が安定する。「粘り力」はストレスの軽減にも役立つのだ。

頭の「粘り力」があれば、「物事に対処する力」も得られる。しかし、現代の人々は飽きっぽくなっている。動画配信サイトではより短い再生時間が好まれ、じっくり味わうことなく、次から次へと流れてくる刺激そのものに囚われる。こうした時代にこそ、1つのテーマについて長い時間をかけ、しっかりと省察する卒業論文などは知力を成長させるよい機会となる。世の中が複雑化した今、「知的な足腰の鍛え方」には強い需要がある。文章トレーニングはいわば知力の筋トレであり、4000字を書けるようになれば達成感が得られるはずだ。

メリットの3つめは「自己形成」である。人が自己形成において成長するタイミングは、やはり「経験」をしたときだろう。自分の体験を文章にすると、その意味が整理されて、経験として定着する。そうすると、「これがいい経験になったのだ」と後で振り返ることができる。

書くという行為は、「自分と向き合うこと」だ。そうして自分の内側を、自分の身体を使って外に表現する。それを読むことで、「自分はこう考えていたのか」と気付かされることすらある。

文章を書くことで、内省し、自分という人生のスタイルを形成する。文体とは自分らしさにほかならず、それが出来上がるプロセスは自己形成の過程そのものといえるだろう。

書くことは、走ること

「書くことは走ることに似ている」。速く走ったり長い距離を走ったりするには技術が必要だ。著者は「400字詰め原稿用紙1枚が1キロ」だとする。10キロくらいならトレーニング次第で誰でも走れるようになる。だから、原稿用紙10枚を書ける技術は、「長い文章を書く基礎的な力」なのだ。

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要約公開日 2023.12.14
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