なぜ「今、この瞬間を生きる」ことが重要なのか。
人間は常に過去と未来に囚われ、現在のこの一瞬を疎かにしがちである。ただ、「現在の対象に愛着を感じているほど、脳はその対象に対する過去の記憶と未来の想像の描写をより鮮明にしてくれる」ことがわかっている。
脳の記憶を司る「海馬」は、過去を思い出す時と、未来を思い描く時の双方で活性化されている。過去に感じ取った感覚情報を脳が再構成して、よい未来を選択できるようにしているのだ。
だから、その「記憶素材」がより「高画質」なほうが、はっきりとした未来を描けるようになる。2018年の北京師範大学での研究では、現在の人間関係が良好な人たちほど、年齢に関係なく過去の人間関係に関する記憶が鮮明でイキイキとしていたのに対し、「不安定」な傾向のある人たちは、過去についてもどこか他人事のようなコメントを残したという。
「今、この瞬間を愛せる」と、過去も未来も輝くのだ。
マインドフルネスの本質を表す2つのキーワードは「注意」と「気づき」だ。「身体の感覚や呼吸に『注意』を向け、普段無意識に処理していた感情や思考に『気づく』こと」が基本動作となる。
その際に重要なのは「受容(オープン・モニタリング)」する姿勢だ。新しい経験に気づいたとき、たとえ不快感があったとしても、心を開いて好奇心をもって向かい合う。
具体的なアクションとしては以下の5つにまとめられる。
(1)今、自分の周りで起きていることや心の中を「観察」する。
(2)自分の感情や体験を言葉で「描写」、表現する。
(3)活動に注意を払い、「意識して行動する」(今、に集中する)。
(4)好き嫌いや善悪でジャッジせず、オープンな気持ちでそのまま受け入れる(「内的経験の非判断」)。
(5)自分の情動や思考に動じず、それに気づく(「内的体験への非反応」)。
日常生活で意識的に注意、集中するのは意外と難しいので、マインドフルネスは「心の筋トレ」ともいえる。その効果は、科学的にも検証されている。たとえば、うつ病やストレスの軽快、記憶力の向上、人間関係への好影響、腰痛など慢性的な病気の改善にもつながるのだ。
「やさしさ」を育むのもマインドフルネスだ。ウィンストン大学の研究では4歳の幼稚園児を68人集め、その一部に「マインドフルネスに基づくやさしさカリキュラム」を体験させた。その後でステッカーをプレゼントすると、プログラムを受けた子どもたちはそれを積極的に友だちにシェアする傾向が強まり、発想の柔軟性や我慢強さも養われたという。マインドフルネスプログラムによって、子どもでも「自分の思考や感情をコントロールする力が身につき、社会脳が成長した」ことを示している。
もちろん大人でも、マインドフルネスの実践は人間関係を円滑にする。マレーシア科学大学が行った2021年の研究によると、マインドフルネス的な特性をもっていると、「経済的な満足度」以上に「夫婦の関係の満足度」を向上させるという。
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