世界の今がわかる「地理」の本
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世界の今がわかる「地理」の本
出版社
出版日
2023年08月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.5
革新性
3.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

毎日、私たちのもとに届くニュースやインターネット上の情報は、世界中の出来事や文化を伝えている。しかし、その情報を解釈し、生きるためのヒントとするためには、どうすればいいのだろうか。

それを「地理」という視点から示しているのが本書だ。地理学は、単に地域や国の自然や環境を学ぶだけでなく、歴史、民族、文化、経済、政治など、その地域の多様な側面を総合的に理解する学問である。本書はアジア、アフリカ、ヨーロッパ、アングロアメリカ、ラテンアメリカ、オセアニア、南極と主要な地域を網羅しており、どこから読んでもおもしろい知識が得られる。

個人的に興味深かったのは、それぞれの国の発展に、しばしば日本の関わりがあったと指摘されている点である。たとえばガーナは、カカオ豆と乗用車を中心とした貿易関係を築いているだけでなく、黄熱病の研究で野口英世が滞在していたという歴史もある。ラテンアメリカは日本人の有数の移住先であり、日系人の大きなコミュニティがある。そういう情報があると、これまでよく知らなかった国もぐっと身近に感じられるようになる。

また、地理的な共通点を探っていくのもおもしろい。本書によると、イタリアはさまざまな点で日本とよく似ており、どちらも国土が南北に長く、火山も地震も多いし温泉地が多数あるという。そういう類似点があるからこそ、相違点も際立ってくる。

世界のさまざまな場所や文化に思いを馳せたくなるとともに、地理という領域の奥深さを改めて感じる一冊だ。

著者

井田仁康(いだ よしやす)編著
筑波大学人間系長、教授。博士(理学)。
1958年生まれ。日本社会科教育学会長、日本地理教育学会長などを歴任。筑波大学第一学群自然学類卒。筑波大学大学院地球科学研究科単位取得退学。社会科教育・地理教育の研究を行っている。
編著書に『読むだけで世界地図が頭に入る本』(ダイヤモンド社)、『高校社会「地理総合」の授業を創る』(明治図書出版)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    アジアの面積は世界の約4分の1を占め、人口も世界の6割を占める。また、経済規模を見ても、アジアの4カ国がトップ10に入っている。
  • 要点
    2
    アフリカは豊富なエネルギー資源や鉱産資源をもとに経済成長しているが、紛争が絶えず、貧困問題も解決していない。これは国境線が民族分布と関係なく引かれたこととも密接に関わっている。
  • 要点
    3
    ヨーロッパの近年の「中心」はイギリス南部からベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)、ドイツ、フランス北部からスペインの北東部にいたる地域だが、次第に南下してきている。

要約

【必読ポイント!】 アジアの国々

中国――自然資源と人的資源の両方に恵まれた大国
Igor Kutyaev/gettyimages

アジアの面積は世界のおよそ4分の1を占め、アフリカよりも広い。また、人口は世界の6割にのぼり、2位であるアフリカの約3倍にもなる。経済規模(2020年の国民総所得)を見ても、中国、日本、インド、韓国というアジアの4カ国がトップ10に入っている。

以下、本要約では経済発展著しいBRICSに属する中国とインド、そして2023年現在、戦争状態にあるイスラエル共和国を取り上げたい。

世界2位のGDPを誇るのが中国だ。20年間で約16倍の経済成長を遂げた国だが、その大きな要因は国土にある。中国の国土面積は世界4位だ。その多くは冷帯から温帯気候にあるため農業生産に適し、石炭や原油、レアメタルなど地下資源も多い。人口はインドに次いで世界2位であり、世界の5分の1が中国人という計算である。このように、自然資源と人的資源の両方に恵まれているのだから、世界有数の経済大国になったのは自然といえる。

中国最大の都市である上海は、長江の河口に位置する。それゆえ、中国内陸地域と海外を結ぶ有利な地域として、急速に成長した。長江は中国を東西に横断し、東シナ海へとつながる全長6380㎞の大河川だ。その流域は、上海だけでなく、重慶や南京など主要な商工業都市が栄え、稲作を核とした生産力の高い農業地帯でもある。また、多くの文化財を水没の危機にさらしたものの、その治水効果で評価される世界最大のサンシャダムがあるのも長江沿いで、上海などの発展を支えている。

インド――IT産業は「カーストと無関係に活躍できる」のか?

2023年6月に人口が世界一となったインドだが、国土の6割は農地で、その多くは機械化が進まず、労働力を見込んで多産となる。貧富の差はなお大きい。国土は日本の約9倍になるものの、雨が降らないと耕せない農地が多く、生産性も高くない。一方で、石炭やボーキサイトなどの鉱産資源は豊富で、それらを使った鉄鋼業は盛んだ。近年IT産業も発展著しいが、アメリカとは時差で昼夜が反対であり稼働が保てる点、英語が準公用語であることがその理由として挙げられる。

巨大な人口を抱えるインドにはカースト制度が存在し、それによって自らの職業集団が規定される。ただし、一般的に知られているバラモン(司祭)、クシャトリヤ(王侯、武士)、ヴァイシャ(農牧商)、シュードラ(隷属民)の4区分は、カーストの中でも身分・階級を示す「ヴァルナ」のほうであり、家柄や職業を表す現実社会の集団「ジャーティ」とは別であることに注意したい。

カースト(ジャーティ)を細分化したサブカーストの数は2000以上にのぼる。カースト(ジャーティ)の序列は、バラモンと不可触民(アウトカースト)を除いて固定ではなく、地域や行いによって変動する。

なお、ITのような新しい産業はカースト(ジャーティ)に対応していないから、下層カーストの人も職を得ることができたとされる。しかし現実的には、高等教育を受けられるのは裕福な上層カーストの人であり、IT関連であっても下層カーストの人が高いポストにつくのは難しいようだ。

イスラエル国――戦禍が絶えない3大宗教の聖地
200mm/gettyimages

国際社会ではほとんど認められていないにもかかわらず、イスラエルはエルサレムが首都だと主張している。それはユダヤ人にとって歴史的に意義のある都市だからだ。紀元前2世紀頃にはエルサレムがユダヤ教徒の巡礼地となったが、ローマ帝国に抵抗したユダヤ人たちは世界中に離散してしまった。だからこそ、この地での祖国復興は悲願だった。

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要約公開日 2024.01.06
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