採用市場において、今や企業は「選ぶ」側ではなく、「選ばれる」立場になっている。業績が好調にもかかわらず、人手不足を理由に倒産するケースも増えている。採用は、会社の生死を分けるほど重要な活動なのである。
では、採用がうまくいかない理由は何だろうか?著者はそれを「思考のクセ」だと指摘する。採用だけではなく営業のコンサルティングもしている著者は、結果を出せない営業パーソンは「当社の商品は〇〇だから売れない」と、問題の原因を「他責」にする傾向があるという。つまり、「思考のクセ」が営業成績に影響しているのである。
採用も同じであり、いい採用をするには「思考のクセ」を変えていくことが重要だ。例えば、人が集まらない理由を「少子化」「売り手市場」「中小企業」「給料が安い」と考える経営者も多いが、同様の環境でも採用できている企業も存在する。こうした思い込みからまず脱することこそ、「いい採用」のための第一歩である。
従業員数が250人のある専門商社では、数ヵ月にわたって中途採用をしながらいい人財と出会えていなかった。焦りを感じていた担当者のところにある日、人材紹介会社から職務経歴書が送られてきた。若手ながらマネジメント経験が豊富という魅力的な内容から、急いで選考して採用した。しかしその数週間後、直属の上司から連絡が入り「どういう基準で採用したのか」「やる気はあるが、指示したことをやらない」と矢継ぎ早に言われた。
その後、採用した従業員に外部研修をあてがったり、マンツーマンで指導したりもしたが、結局その人は1年半後に退職してしまった。その上司も結果的に長時間労働を強いられ、体調を崩して入退院を繰り返す状態になってしまったという。
このように、採用には非常に大きな責任が伴う。著者はこの例を引き合いながら、採用とは失敗が許されないものであるため、真摯に行うべきだと指摘する。
「いい採用」ができない会社には5つの共通点がある。
1つ目は、採用活動を「片手間」でやっていることだ。特にリソースが限られる小規模の企業では、採用担当者は専任ではなく他の業務と兼任していることも多い。採用に費やす時間と労力は成果に比例する。だからこそ、採用担当を専任で置けるような大企業は、採用に成功するのである。
2つ目は、採用の成否を「他責」にしていることだ。例えば、トップセールスマンは、自社商品に自信を持っている。この「自信」が伝わり、お客様は安心して購入するのだ。採用もこれと同じである。自社の優れているポイントを考えて、自分の会社に自信を持つことが大切だ。
3つ目は、「相手を知らない」ことである。求職者のことを知らないと、入社することで得られる価値を伝えられないし、相手のニーズも把握できない。採用とは求職者の人生を預かることである。相手の人生の目的を知ることは、採用活動に欠かせない。
4つ目は「マーケットを知らない」ことである。年々変化し続ける採用環境を知らなければ、戦略を立てることはできない。そのためには一次情報(事実)にアンテナを張り、仮説である二次情報を持って戦略を策定する。マーケティングのような採用活動が、これからの企業には求められる。
最後は「計画性がない」ことだ。営業活動と同じく、採用でもPDCAが求められる。目標達成を前提に逆算的に考えること、さらに、現状のギャップを捉えて埋めていくためのコミュニケーション機会を生み出すことが必要だ。組織全体でこうした仕組みを整えながらPDCAサイクルを回していけば、採用は好転していくだろう。
採用で最もやってはいけないことは「採用基準を下げること」である。企業活動をするうえで採用基準を下げても、顧客への価値を引き下げることは許されない。そのため、採用基準を下げてしまえば、ただ教育とマネジメントコストが上がるだけになる。質を下げた採用は、組織を狂わせる原因になってしまうのだ。
一方で、採用要件を過剰にするのも問題だ。よくあるのは、求める経験・スキルと年齢層がマッチしていないパターンである。ある会社では、転職回数が1回以上の求職者を条件から外しており、採用に苦戦していた。そこで転職回数を2回に引き上げて、さらに給与待遇の見直しも図った結果、あっさりと採用が決まった。
このように、要件を盛り込みすぎても応募が少なくなる。そのため「即戦力となる専門的な資格を持っている」「論理的思考力がある」「同業種での就業経験がある」など複数の要件がある場合は、「MUST(必須要件)」と「WANT(歓迎要件)」に分けて再考するといいだろう。
多くの企業で、コミュニケーション能力の高い人財が人気である。日本経済団体連合会の「新卒採用に関するアンケート調査」では、選考に際して重視した点として「コミュニケーション能力」が16年連続で1位を獲得している。しかし、コミュニケーション能力は後天的に伸ばせる能力であり、採用時点で過度に求める必要はないと著者は指摘する。
人の能力には「先天的なもの」「後天的なもの」があり、それを見極めて採用することが大切だ。コミュニケーション能力は後者であり、入社後の教育やマネジメントで伸ばせる後天的な能力は、採用基準から外してもいい。その例としては「やりきる力」「顧客対応力」「計画組織力」「当事者意識」「ヒューマンスキル」であり、「コミット意識」「仮説立案力」「問題発見力」なども時間はかかるが伸ばすことができる。
逆に、「アイデンティティ(自己認識)」や「信念・価値観」は、容易に変えることができない。つまり、採用において性格・価値観のマッチングは不可欠で、自社の経営理念、ミッション、ビジョンに合う人財かどうかの見極めが非常に重要となる。「価値観と価値観のマッチング」こそが、採用の成否を分けるポイントなのである。
採用活動は、候補者を「集める」「見極める」「動機づける」という3つの活動に分けられる。そして、3つの活動をうまくこなすためには、5つのステップを踏む必要がある。
最初のステップは「WHY」、「そもそも何のために採用するか?」と、採用目的を言語化することである。多くの企業は募集手段の選定「HOW」から始めるが、自社の信念・価値観やどんな人を採用したいかをまず言語化しないことには、最適な人財には出合えない。
WHYを言語化できたら、次は「WHO」、どんな人を採用すべきかを決める。その際は「ペルソナ」を設定するとよい。ペルソナを設定することで、募集時の訴求がしやすくなるし、選考での基準も明確になる。さらに、自社にマッチした候補者への動機づけもしやすくなる。ペルソナを考える際は、まず要件を洗い出して、その上で優先順位を決めていこう。
要件の優先順位は、「価値観」「顕在的なスキル」「潜在的なスキル」の3つに分けて整理する。このうち、後天的に身につくスキルである「潜在的なスキル」以外の2つが採用基準となる。そして、優先順位を基にしたペルソナを設定していくのである。
次は、そのペルソナに「自分にピッタリの会社だ」と感じてもらえる自社のベネフィットを言語化することだ。自社が求める人財の興味やニーズを想像し、彼らに対して自社が提供できる価値「WHAT」を定めよう。
相手に提供できる価値が決まったら、いつ伝えるか「WHEN」を考える。メッセージは「伝えるタイミング」が肝心だ。
ここでのポイントは、採用を「CX(顧客体験)」の観点で見ることだ。求職者が企業を知り、入社を決意するまでの体験を一連のものとして捉え、入社に至らなかった人に対しても「選考を受けてよかった」と思ってもらえるようにプロセスを設計していくのである。
具体的には、アピールしたいものの「どれ」を「いつ」、そして「誰が」伝えるかを決める。求人票や説明会、面接の場など、採用ではたくさんの場面が発生する。それらのタイミングごとに、適したメッセージを見極めていくといいだろう。
最後のステップが、募集手段の選定である「HOW」である。
昨今、採用における手段は多岐にわたる。募集のゴールはあくまでも応募してもらうという「行動」だが、その前には「認知」や「関心」といったステップが存在する。
採用活動を行う際には、経済的、時間的、精神的の3つのコストを考慮する必要がある。
また、募集方法は「パーソナルアプローチ」と「マスアプローチ」の2つに区分できる。パーソナルアプローチは1対1のアプローチを行うダイレクトリクルーティングなどが相当し、マスアプローチは求人広告媒体など、1回で多数へのアプローチができる方法となる。自社がかけられるコストとのバランスを見て、適切な募集方法を選定することが大切だ。
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