本書では、人事制度改定の進め方を、7つのステップで解説している。要約ではそのうち、ステップ1、2、3を取り上げる。なお、本書でいう「人事制度の改定」とは、採用方法の変更や等級制度の手直しといった部分的な改善ではなく、経営戦略をより速く、より確実かつ強力に推進するため、それに資するような人事戦略を設定し、人事制度を抜本的に変えていくことを指す。
ステップ1は「人材マネジメントのあるべき姿と現状のギャップをつかむ」だ。まずは人事・労務領域に関する外部環境を把握することから始めよう。
ここでは、フィリップ・コトラーが考案したフレームワーク「PEST分析」が有効だ。PEST分析とは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)のマクロ的な環境を分析し、その将来を想定することで、最適な戦略の方向を探ろうとするものだ。「政治」であれば、行政が掲げる労働政策の方向性や、政策に関連する各種労働法制の改定予定などを把握する。
あわせて、同業他社の動きにも目を向けるべきだ。特に、採用、育成、処遇に関わる動向は、自社の制度改定を検討する上で有益な情報となる。
外部環境を把握したら、経営戦略の把握へと移る。経営戦略を理解していないと人事制度を適切に改定できないからだ。
ここではまず、自社の成長ステージに応じた戦略の考え方の基本を知っておきたい。伸び盛りの若手企業、成熟した中堅企業、事業が衰退し再生を目指している企業など、企業のフェーズが違えば、採るべき経営戦略や人事戦略も変わる。
例えば創業期ならば、成長のポイントは新規顧客の開拓とビジネスモデルの確立にある。組織の課題は、夢やビジョンに共感でき、自主自立で様々な業務を担える「同士」を集めることだ。人事の基本戦略としては「夢やビジョン・志の共有」や「役割に囚われない臨機応変な対応」となるだろう。
また、KFS(Key Factor for Success:重要成功要因)、つまり経営戦略を成功させるためにやるべき施策を知り、それを実現するための人的課題を見つけるのも人事の仕事だ。例えば経営戦略が「新市場開拓」でKFSが「マーケティング」と「パートナー企業とのアライアンス」なら、人的課題としては「マーケティングスキル強化」「調整・交渉力の強化」などが想定される。課題が見つかったら、人事担当者は、それらに解決できる人材を増強しなければならない。
次に行うべきは、組織構造の把握だ。
ここでは「理想の組織図」をつくる。理想の組織図と現在の組織図を見比べれば、現状の組織図に欠けている部門や機能、不要な箇所、縦横のつながり方の変化などが「見える化」できるからだ。あわせて、理想の組織図を実現すべきタイミングも、数年スパンで検討しておく。
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