2020年8月、「投資の神様」の異名をとるウォーレン・バフェット氏の率いるバークシャー・ハザウェイ社は、日本の5大総合商社(伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)の株を5%超取得したと発表した。
永続的な競争優位性をもつ企業に投資することで知られるバフェット氏が日本の商社に見いだした潜在的な競争力とはなんだろうか。それは、時代や環境の変化に適応して巧みに事業モデルを変えてきた商社の「レジリエンス(しなやかさ)」である。
重化学工業の取引によって戦後日本の産業発展を支えた商社は現在、資源やエネルギー開発などの「川上」から、より消費者に近い「川下」の領域への投資を増加させ、医療・食品・流通など人々の生活に密接する「エッセンシャルビジネス」を支える存在へと変貌している。
エッセンシャルビジネスを推進する商社として本書がまず取り上げるのが、三井物産だ。三井物産はヘルスケアを将来的な収益の柱として位置づけ、独自の事業モデルの構築をすすめている。具体的に構想されているのは、病院経営を軸としつつ、医師や看護師などの人材派遣、医薬品開発や設備投資、医療データの収集と分析を有機的につなげる「ヘルスケア・エコシステム」だ。
三井物産は、経済成長に伴い将来的に医療・健康業界の需要が伸びることが見込まれるアジアでのヘルスケア事業への出資をすすめている。10カ国に展開するマレーシアの病院経営大手IHHヘルスケアに累計で3000億円を投じ、筆頭株主となった。他にも、中国やインドといった人口大国のヘルスケア事業への投資や提携を積極的に行う。「医療の公益性とビジネスの両立」という難題を乗り越え、ヘルスケア分野で独自のエッセンシャルビジネスを確立することが目標だ。
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