30代半ばを迎えたかつての教え子が、憂鬱な顔で著者を訪ねてきた。会社で新人教育を任されたものの、「こんなのやる意味あるんですか」「私には無理です」などと言われて、手を焼いているという。
「なんとか共通の話題でもあればいいんですけど」と嘆く彼に、著者は学生に取ったアンケート「自らのモチベーションを上げる歌」の結果を見せた。回答者は40人ほどいたのに、1人として同じ歌を挙げていない。
そもそも価値観が多様化する現代においては、相手と共通の話題を探すことが極めて難しい。年が離れている若手が相手なら、ますます難しいと言っていいだろう。
だから著者は講義の冒頭で、次のように言い、頭を下げることにしている。「私は、あなたたちを知らない。どんな価値観を持っているのか、何に興味があるのか、全く分かっていない。だから、何も知らない私に教えてほしい。私は教師ではあるけれど、あなたたちのほうがよく知っていることが多いと思う。そこは面倒がらずに教えてほしい」
大切なのは、先生やリーダーといった立場で得られる自尊欲求を捨て、相手の価値観に興味を持っている様子を見せることだ。そうすれば、相手がだんだんと話し出すだろう。話を聞いたら「面白いなぁ」と言い、周囲に対し、新人の話を面白がっている様子を示すことも大切だ。
相手が話すようになってきたら、その話しぶりから相手が気持ちよさそうに話している箇所を探そう。そこが「共通の話題」になるはずだ。
最近の若者たちは、出世や社会的地位よりも「この仕事は、将来の自分にとってのメリットになるか」を重視している。会社を辞める理由も「労働と給料が釣り合わない」や「人間関係がうまくいかない」ではなく「将来の私にとってメリットを感じられない」ことを理由にする人が多い。どんなに重要なことだと説明されても、「やらされ感」を覚えた時点でモチベーションが下がってしまうのだ。
そんな若手に仕事を頼むときには「この仕事をすることは、あなたのキャリア、人生にとってこんなメリットがあるんだよ」と示すと、前向きに取り組んでくれるだろう。なお、あくまで相手にとってのメリットであって、自分の世代の価値観や自分自身の軸に合わせて考えないよう気をつけたい。
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