レジリエンスとは「外的な衝撃に耐え、それ自身の機能や構造を失わない力」、「何かあってもしなやかに立ち直れる力」のことを指す。
2011年3月11日の東日本大震災では、物流や生産が完全に麻痺してしまった。工場は効率重視のジャスト・イン・タイム方式を導入し、在庫の少ない効率的な仕組みになっていたが、この地震のように何かが起こった際、すべてがストップしてしまう構造になってしまっていた。すなわち、レジリエンスを失ってしまっていたのである。
実は、世界ではしばらく前からレジリエンスへの関心が高まり、多くの研究者がこの分野での活動を進めている。異常気象や経済危機などの大きな課題に対して、レジリエンスという概念を国家に応用して考えるようになっているのだ。
こうしたレジリエンスの考え方を理解するべく、本書では国内外のさまざまな取り組みを紹介している。
トラウマ体験、ストレスになる出来事、またはネガティブな何かが起こった時、全員がPTSDを起こすわけではないし、その深刻度や回復過程も人によってさまざまだ。逆境にもかかわらず、上手に適応して精神的健康を損なうことなく立ち直り逞しく生きている人もいれば、心が折れてしまう人もいる。心理学の分野でレジリエンスが研究されるようになったのは、「障碍や逆境にも関わらず、問題を起こさない人や、そうした状況をばねにしてさらに成長している人もいるのはなぜなのか」という研究が40年ほど前から始まったことに起因する。
研究を重ねるうちにレジリエンスは、安定した家庭環境や学校環境、親子関係などの「環境要因」と、自律性や自己制御、共感性、問題解決能力、ソーシャルスキルなどの「個人内要因」の両方が重要で、それらが相互に作用しながらその人のレジリエンスを作り出していることが分かった。自己肯定・自己受容が高い人ほど、そして苦痛経験が多いほど、レジリエンス力が高い傾向がある。
また、レジリエンスを高めるためには、「コミットメント(困難な状況になったとしても、逃げずに真正面から状況に向き合おうとする姿勢)」、「コントロール(あきらめずに自分で何とかできると信じ、その状況に影響を与え続けようとすること)」、「チャレンジ(ストレス状況下にも成長の道を見出そうと努力し続けること)」という3つの姿勢、そして問題解決に向けた対処法や、他者と互いに助け合い励まし合う技術が必要だ。
子どもたちや青少年に何か辛いことがあった時、しなやかに立ち直り、その辛い経験を糧に成長できることは、本人にとっても社会にとっても幸せなことである。心理学においてレジリエンスをつくり出す要素やレジリエンスを高めるために何が必要かが分かってきたことから、教育の分野でその知見を活かし、子どもたちや青少年の健全な発達につなげようという動きがいくつかの国で進められている。
「レジリエンス教育先進国」の一つとして例に挙げられるのがオーストラリアだ。
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