日本復興計画

Japan; The Road to Recovery
未読
日本復興計画
日本復興計画
Japan; The Road to Recovery
未読
日本復興計画
ジャンル
出版社
文藝春秋
定価
1,257円(税込)
出版日
2011年04月28日
評点
総合
3.5
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

本書は東北の大震災後、2011年4月30日に出版された、大前研一氏が語る日本復興計画である。大前氏は震災後すぐ震災対応の様々な方策をユーチューブ動画で配信してきた。本書は大きく3章構成となっているが、前半の1、2章はユーチューブで公開されている内容を文書化したものである。

大前氏は言わずと知れた原子力の専門家だ。氏は福島第一原発の炉が設計・建設・稼働を始める1960年代の後半にマサチューセッツ工科大学で原子力工学を学び、博士号を取得後、1970年に日立製作所に入社、原子炉の設計に携わった。その後の日本のブレーンの一人としての活躍は知っての通りである。

さて、2013年も終わりに差し掛かる現時点から振り返ると、本書が発行されたのは2年半前のことだ。実に興味深いことは、当時の大前氏が事故直後の混乱の中でも、状況を長期的な視点から冷静に正確にとらえていたということが詳細に語られていることにある。この2年半の間、日本は大きく動いた。未だ進まない原発事故からの復旧をよそ目に、この間自民党が再び政権を握り、アベノミクスの号令の下での日本経済の再生着手、消費増税などが実行されつつある。そうした事象のいくつかは、既に予見されていたことであることも、本書を読めばお分かりになるだろう。

本書は事故直後の臨場感とともに、大前氏の鋭い視点を体感できる貴重な一冊である。

著者

大前 研一
「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。マッキンゼー時代にはウォールストリート・ジャーナル紙のコントリビューティング・エディターとして、また、ハーバード・ビジネスレビュー誌では経済のボーダレス化に伴う企業の国際化の問題、都市の発展を中心として拡がっていく新しい地域国家の概念などについて継続的に論文を発表していた。英国エコノミスト誌は、現代世界の思想的リーダーとしてアメリカにはピーター・ドラッカー(故人)やトム・ピータースが、アジアには大前研一がいるが、ヨーロッパ大陸にはそれに匹敵するグールー(思想的指導者)がいない、と書いた。同誌の一九九三年グールー特集では世界のグールー17人の一人に、また一九九四年の特集では5人の中の一人として選ばれている。二〇〇五年の「Thinkers50」でも、アジア人として唯一、トップに名を連ねている。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。 経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。

本書の要点

  • 要点
    1
    フクシマ原発事故は、これまでの原発安全神話を形成してきたラスムッセンの確率理論と格納容器神話のそのどちらをも、事故初日で破壊した。これまで我々が原発推進の論拠としていたことが実は誤りであったということを強く認識せねばならない。
  • 要点
    2
    東北再生のカギは箱物的発想ではなく、ソフトの力にこそある。このグランドデザインを描くためには、Facebook等を積極的に活用しクラウドソーシングの力を使うのも一つの有効な手段である。
  • 要点
    3
    大前氏は、日本復興計画を二本の柱で考えている。1つ目は、地域繁栄をもたらすために道州制を導入すること。2つ目は、日本人のメンタリティを変革することである。

要約

これで原子力の時代は終わった

震災2日後の「大前研一ライブ」
iStock/Thinkstock

本書は大きく3章構成で編成されている。ここではその第1章の内容を紹介したい。第1章は、2011年3月13日午後8時に大前氏がCEOを務めるビジネス・ブレイクスルーの番組「大前研一ライブ」で放送されたものがベースとなって文章化されたものである。この放送はユーチューブにもアップされており、2013年11月現在、約80万回視聴されている。2年半以上も前のコンテンツであるため、情報自体に新しさはない。しかし今一度、3・11大地震の記憶をたどり、当時の大前氏が状況を一体どのように認識していたのか、改めて評価してみるというのはいかがだろうか。

原子力発電はどこへゆく?

まず大前氏は、今回の原発事故で日本の原子力輸出政策は終わったと語っている。広くご承知の通り、大前氏はもともと原子力の技術者であり、二酸化炭素を排出しない原子力発電を世界に輸出すべきだと提言してきた。しかし、大前氏はスリーマイル事故以降、アメリカが現在に至るまで原子力発電所を一基もつくれなかったのと同様に、日本でもこれ以上、原子力発電所を引き受けてくれる自治体は存在しえない、と断言する。

「これまで原子炉を作ってきた東芝、日立、三菱の三社は、アレバ(フランス)などの傘下で、技術のライセンスや一部を請け負うという形で仕事を確保するか、既存の原子炉のメンテナンスが主たる業務となるだろう。仮に今後も原発事業を継続するのであれば、国が公営会社を作り、国そのものが原子力発電所を運営し、東京電力や東北電力に売電する方策となるだろう」とも指摘している。

消費税を1年間だけアップ

2014年4月から消費税率が5%から8%に上がることが決まったのは最近の話だ。2015年10月には10%まで引き上げるということも現在(2013年11月時点)検討されている。

この消費税に関しても、大前氏は当時の民主党政権に対して提案を行っていたことが本書で記されている。その内容とは、大地震の翌年だけに限って消費税率を1%引き上げようという提案だ。この提案はオーストラリアのクイーンズランドの大洪水でギラード首相が行った政策に倣ったものであるという。1%の引き上げによる税収は約2兆円見込むことができるのだ。

結局のところ、当該提案は実現されなかったものの、当時の大前氏はこうした提案を震災直後から行っていたのだ。

三分の二に縮小する生活

震災1週間を経た「大前研一ライブ」
iStock/Thinkstock

第2章は、2011年3月19日、震災から8日後に「大前研一ライブ」の公開録画で話した内容を文書化したものだ。前述のものと同様にユーチューブにアップされており、公開直後から関係各所に広く伝播していった。実際にここで大前氏が提言した内容は次々と企業が検討を始め、新聞にも大きく取り上げられた。

特に原発に関して言えば、福島第一原発をコンクリートで固めるという米国からの提言に対し、大前氏は特殊テントで覆って冷却を続け、核廃棄物を処理サイクルに載せるというプランを即座に提言した。数日後には大前氏の提案が政府案のひとつとして新聞の一面を飾ることになった。

機能不全、司令塔不在の罪

大前氏は、本書において東電の機能不全に関して厳しく言及している。

大前氏によれば、東電という会社は、トップに原子炉のプラントで育った人材がいなくなってしまっていた。原子力で発電量の35%を賄っていながら、現場を熟知したたたき上げの原子炉の専門家がトップにいない。まさに司令塔が不在の状態だったのである。

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要約公開日 2013.11.30
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