抗体物語

未読
抗体物語
ジャンル
出版社
リバネス出版
定価
2,200円(税込)
出版日
2005年08月22日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

日本国民の3人に1人が何らかのアレルギーをもっていると言われている。たとえば、花粉症、食物アレルギー、アトピーなどに苦しめられている人は多いだろう。これらの症状に共通するキーワードが「抗体」である。抗体は私たちの体を守る免疫系を司る重要な物質である一方で、こうした辛い症状も引き起こしてしまう。近年、その抗体が「医薬品」としても注目されている。その市場は、2015年には2010年比2倍の6448億円に達すると言われているほどで(富士経済調べ)、抗体の特異性を利用したアレルギーやガンの治療薬が開発されている。抗体医薬の分野では、日本の技術が世界を牽引しており、歴史的にも血清療法を開発した北里柴三郎や、抗体の多様化の仕組みを発見してノーベル賞を受賞した利根川進をはじめ、さまざまな日本人が関わっている。

本書はバイオテクノロジーに従事している3人の若手研究者が、わかりやすく「抗体」の性質や働きについて解説している。「抗体医薬」発展の歴史から「ハイブリドーマ技術」、「キメラ化」など研究開発の流れがわかりやすくまとまっている。巻末には付録としてバイオ先進企業のインタビューがのっており、新技術の紹介だけでなく、会社設立の想いや今後の未来像についても熱く語られている。国民病であるアレルギーについての身近な知識から、これから注目され始める「抗体医薬」の最先端の状況がまとまっており、「抗体」ビジネスに注目をする人にとっての必読書である。

著者

井上 浄
東京薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了、博士(薬学)、薬剤師、株式会社リバネス取締役副社長兼CTO。
大学院でアトピーマウスを使った研究と癌ワクチンに関する研究に従事。その傍ら、リバネスを2001年12月に立ち上げ、取締役副社長に就任。学生、研究者、起業家として活躍。研究の最先端を自ら切り開くことを一生涯続けていこうと奮闘中。2006年4月、北里大学理学部助手に就任。2007年4月より北里大学理学部助教。(執筆時 東京薬科大学大学院薬学研究科博士課程在学)

坂本 真一郎
東京理科大学大学院理工学研究科修了、株式会社リバネス研究開発・研究支援事業部長リバネス中央研究所長。
東京理科大学大学院在学中にはHCV(C型肝炎ウイルス)の複製機構と粒子形成メカニズムに関する研究に携わっていた。抗体を使った各種研究を行う中、抗体物語の執筆に携わった。現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期過程在学。

久保田 俊之
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科免疫アレルギー学分野博士課程修了、博士(医学)。
学生時代は株式会社リバネスでバイオ教育に携わる一方、東京医科歯科大学でアレルギーの研究を行う。日々、アレルギーに関与するレセプター(IgEレセプター)、アレルギー関連細胞に関しての研究をおこない、精力的に研究活動に従事。2006年5月より株式会社リクルートにて、研究と開発企業を繋げる技術移転の仕事に就く。一日でも早くアレルギー薬を始めとする治療薬の実用化へと、日本の研究を繋げていきたい。(執筆時 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科免疫アレルギー学分野博士過程在学)

本書の要点

  • 要点
    1
    私たちは病原体からからだを守るために「免疫」というシステムを使って、いくつかの細胞が巧妙に働き異物を排除するしくみをもっている。
  • 要点
    2
    花粉症やアトピー、アレルギーなどは抗体が関係する病気であり、近年治療方法が開発されつつある。
  • 要点
    3
    抗体は特異的な物質のみに結合する性質があるため、研究現場ではさまざまな方法で活用されている。
  • 要点
    4
    抗体の特異性を活かして、医薬品としての活用も始まっており、日本には世界を牽引する技術がある。

要約

抗体と免疫のスーパーシステム

からだ防衛軍の細胞たちが巧妙に病原体を排除
Dmitry Knorre/iStock/Thinkstock

インフルエンザや病原性大腸菌など感染症の原因となる病原体から体をまもるために、私たちの体には「免疫系」という仕組みが備わっている。「免疫系」は私たちの体を守る「からだ防衛軍」のような働きをしており、主に4つの細胞(マクロファージ、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、ナチュラルキラー細胞)によって、病原体を体から排除している。

「マクロファージ」と呼ばれる細胞は、バイ菌が体内の血液に入り込んでいないかを偵察しながら、バイ菌を見つけるとパクッと食べてしまう。ところが、自分だけでは手に負えないほどのバイ菌が侵入してきたとき、司令塔である「ヘルパーT細胞」に緊急連絡を入れる。ヘルパーT細胞は「キラーT細胞」や「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」といった直接病原体を破壊する傭兵の役割をもつ細胞に働きかけ、病原体を攻撃させる。同時に、司令塔の命令により「B細胞」が病原体を包囲し、「抗体」という「対バイ菌弾」をいっせいに発射して病原体にとりつき、病原体を排除する。

この対バイ菌弾「抗体」の正体は、血液中の免疫細胞「B細胞」から作られる免疫グロブリン(Immunoglobulin=Ig)と呼ばれるタンパク質である。アルファベットのY字のような形をしており、Y字の2本に分かれている腕部分が病原体にくっつくことで病原体を攻撃するのだが、このくっつく部分があらかじめさまざまな形で作られているため、どんな敵が来ても、それ専用の抗体がくっつくことができるのだ。この抗体は日本の北里柴三郎によって発見された。なお、抗体がくっつく病原体などの敵のことを「抗原」という。

抗体はその働きや構造によって5種類のタイプ(IgG、IgA、IgM、IgE、IgD)に分けられる。赤ちゃんの免疫系や鼻・腸など粘膜で働くIgA、病原体の感染初期に働くIgM、寄生虫を倒すために働いているが、花粉症の原因にもなるIgE、まだ働きがわかっていないIgDである。体に一番多く存在する抗体はIgGである。

抗体の係る病気のしくみ

国民病でもある花粉症から自己免疫疾患まで
Sebastian Kaulitzki/Hemera/Thinkstock

今、日本国民の3人に1人が何らかのアレルギーをもっていると言われている。花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどはとくに身近で、多くの人を苦しめている。これらのアレルギーにはIgE抗体が関与している。体内に侵入した花粉は人によって免疫系に「敵」だと認識され、通常必要のない花粉に対する抗体が、B細胞によって大量に作られる。

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要約公開日 2014.01.31
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