脱ニッポン富国論

「人材フライト」が日本を救う
未読
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「人材フライト」が日本を救う
著者
未読
脱ニッポン富国論
著者
出版社
文藝春秋
定価
814円(税込)
出版日
2013年12月20日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

2013年8月、エイベックス・グループ・ホールディングス社長の松浦勝人氏が自身のフェイスブックで「富裕層は日本にいなくなっても仕方ない」と投稿し、その発言が大きな波紋を呼んだことは記憶に新しい。これは安倍晋三政権が消費税ばかりか、所得税の最高税率を45%に引き上げる報道に対しての反応であった。さらに、これに住民税を含めると55%が課税されることになる。こうした報道の最中、日本の富裕層がシンガポールやマレーシアなどに移住するというニュースも、インターネットなどではよく目にするようになった。こうした行為に対し、日本を捨てて出ていくのは「愛国心」がないという批判も散見される。感情論を抜きにして、今のこの現状を我々はどう解釈するべきなのだろうか。

本書は日本人が海外に出ていく「人材フライト」に関して、著者の見解を述べたものである。生産年齢人口に当たる層、とりわけ若年層が海外に出ていくというのは、一見国力を衰退させるという危機感を抱かざるを得ない。ただでさえ、日本は少子高齢化の状況であり、「人材フライト」は若年層の人口減に拍車をかける恐れがある。生産年齢人口の流出は何としてでも食い止めるべきだと考えるのが通常の発想である。

しかし、著者の考えは逆転の発想そのものだ。著者の主張は日本を再興させるために、むしろ「人材フライト」を推し進めるべきだ、というものである。著者はいったいなぜ海外に人材を流出させることで日本が復活するというのだろうか。本書は今後の日本の未来を考える一助になるに違いない。

著者

山田 順
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年、光文社入社。『女性自身』編集部、「カッパブックス」を創刊し、編集長を務める。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースを手掛けている。

本書の要点

  • 要点
    1
    現在、日本からアジア各国に「人材フライト」するケースが増加している。ミャンマーで起業した人、アジア各国の大学に留学する若者たちなど、特に20~40代の若者世代の「人材フライト」が多い。
  • 要点
    2
    日本は長らく「輸出立国」として認識されてきたが、現在の経常収支から見るとその見方は誤っており、むしろ海外投資から利子や配当を得る「投資立国」と呼ぶ方が適しているといえる。
  • 要点
    3
    今後、人口が減少し衰退することが予測される日本が再興するためには、人材フライトを推奨し、日本人や日本企業が海外で稼いだお金を還流する仕組みを作ることが肝要である。

要約

人材フライト

はじめに

本書では冒頭著者がこれまで取材した、アジア各国に「人材フライト」した人々の事例が数多く紹介されている。ミャンマーで起業した人、マレーシアで不動産投資をする人、アジア各国の大学に留学する若者たち、シンガポールに移住する富裕層。彼らはどういった理由で日本を離れアジア各国に「人材フライト」していったのだろうか。本書の前半部分ではその現状に迫っている。ハイライトではそのいくつかの事例をご紹介したい。

ミャンマーで起業した「アジア馬鹿一家」
suttipon/iStock/Thinkstock

まず初めに本書で紹介されているのは、いち早くミャンマーに「人材フライト」した企業人・土屋昭義氏(63歳)である。本書において土屋氏は、ミャンマーに移住した理由を「石橋をたたいて渡ったときは手遅れ。だから叩かずに渡る。もう日本で事業しても成長はない。無理して成長しようと思えば、ほかの会社から仕事を奪うことになって、それでは食い合いになる。それなら、これから成長するところ、そこに出るしかないでしょう」と、語っている。土屋氏の言う通り、2011年にミャンマーが開放政策に転じてから、世界中の企業、投資家がヤンゴンと首都ネピドーにやってきた。2013年5月には安倍晋三首相もミャンマーを訪問し、400億円の新規援助を含む大型の援助や投資、安全保障の協力を提案した。土屋氏は現在、不動産会社とビジネスサポート会社を設立し、さらにヤンゴン学院という語学学校を運営している。

土屋氏は子育てに関しても特徴的である。「うちの息子は2人とも平凡。そんな凡人は、日本ではチャンスがない。それで『お前たちは日本では勝負にならん。アジアならお前たちでも勝負になる』と送り出した。これを私は凡人による凡人のためのグローバル戦略と呼んでいます」と語り、著者は敬意を込めて土屋氏の一家を「アジア馬鹿一家」と呼んでいる。

先にも記したが、ミャンマーが開放政策に転じた今、世界中から投資が集まっている。今後は日本からの投資も増え、それに合わせて多くの日本人がミャンマーに「人材フライト」するだろうと著者は予測している。

住民税・相続税の無いマレーシアで不動産投資
thanomphong/iStock/Thinkstock

マレーシアのジョホールバルの不動産市場はうなぎのぼりだ。シンガポールの不動産価格は東京を超えてしまっているが、ジョホールバルの物件はその4~10分の1程度で手に入れることができる。郊外での生活を望むシンガポーリアンや不動産価格上昇を見込んだ投資マネーが世界から集まってきているのだ。こうした背景から海外不動産投資で、いま日本人に一番人気がある国はマレーシアである。

日本人でマレーシアに不動産投資をしているのは、なにも富裕層だけではない。マレーシアの不動産投資はリターンもさることながら、購入の手続きが容易な点も日本人に人気のポイントである。中間層の投資家、サラリーマン投資家が、HSBCで口座を開きローンを組むという例もある。HSBCで口座を開くのはマレーシアが世界で最も安く、約600万円程度で口座開設が可能だ(香港の場合は1300万円必要)。また外国人の不動産の所有規制もない。

投資のためではなく、移住のために購入するケースも多いという。ロングステイ財団の調査によると、マレーシアは「ロングステイしたい希望国」として7年連続1位になっている。海外移住する際のビザ(ロングステイ用のビザMM2H)の取得も容易だ。

さらに、マレーシアには住民税や相続税・贈与税などがないというメリットもある。日本の年金受給者がマレーシアでの税法上の住居者となれば、双方から課税されることはない。こうした状況から日本からの「人材フライト」が人気のようだ。

若者はアジアを目指す
XiXinXing/iStock/Thinkstock

「ジモティ」と呼ばれる地元だけで暮らそうとする「内向き」な若者たちがいる一方で、日本を出ていく若者も増えている。いまの若者たちは「内向き」と「外向き」に2極化していると著者は指摘している。

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