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本書の要点

  • iPS細胞は、4つの遺伝子を導入して作られた細胞で、一度分化した細胞が多能性を獲得し、ほぼ無限に増殖できるようになったものである。

  • 再生医療にはこれまで、ES細胞と体性幹細胞が使われてきたが、iPS細胞はそれらがもつ技術面の課題や倫理面の課題をクリアできる。

  • iPS細胞の実用化は、再生医療分野よりも創薬分野で先に実現しそうだ。

  • iPS細胞の実用化にむけて、日本では文科省、経産省、厚労省がそれぞれ研究費を投じているが、総額はアメリカの10分の1程度である。

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iPS細胞の前提知識を最速で

iPS細胞の前にこれだけはおさえよう

Hantar/iStock/Thinkstock

iPS細胞とは Induced Pluripotent Stem細胞の略称だ。訳すと人工多能性幹細胞となる。「細胞」とは生物を構築する最小単位であり、「小部屋」を意味する「cell」からきている。ヒトは、270種にものぼる種類の細胞が、およそ60兆個も集まってできている(体重60キログラムのヒトの場合の目安)。これらの細胞は、もともとは精子と卵子が受精した受精卵という1つの細胞だった。これが分裂し、様々な機能をもつ細胞に変化(分化)していくことによって、1人のヒトができている。この過程で、体の場所ごとに異なる種類の「幹(かん)細胞」が作られ、それがさらに分裂して各部の細胞となる。皮膚には皮膚の幹細胞があり、幹細胞が分裂することで皮膚が形成される。このように体中にある幹細胞のことを「体性幹細胞」とよぶ。

実は細胞は、分化の過程で多様な機能を得る代わりに、ある重要な性質を失っている。それが「全能性」だ。全能性とは、体を構成するすべての細胞に分化できる性質のことを指し、受精卵は当然それをもっているが、一度分化した細胞はそれ以外の細胞に変化することができない。一度皮膚の細胞になってしまったら皮膚にしかなれないし、神経の細胞は神経にしかなれない。当時はそう考えられていた。

しかし、1匹のヒツジがこれまでの常識を覆す。1996年、クローン羊「ドリー」の誕生だ。ドリーは、すでに乳腺に分化していた細胞と、DNA(核)を除去した卵子とを融合してできた細胞から生まれた。いいかえれば、すでに乳腺に分化していた細胞が、卵子と融合することで「初期化」され、あらゆる細胞に分化する能力「全能性」をもったのだ。ドリーの誕生によって、ヒトの細胞を人為的に初期化し、失われた臓器を再生する細胞として再生医療に役立てるというアイデアが生まれた。

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iPS細胞の誕生

そのメリットと課題は何か

Alex011973/iStock/Thinkstock

2006年8月10日、世界トップの学術誌に「マウスの皮膚細胞に4個の遺伝子を導入し、多能性幹細胞を作った」という論文が掲載された。山中教授によりiPS細胞の誕生が報告された瞬間だ。「多能性」とは、全能性ではないがそれに近い性質をもつという意味である。iPS細胞はある一部の細胞をのぞく、多くの細胞に分化することができる。

この研究は「マウスの分化した体細胞とES(Embryonic Stem)細胞を電気的に融合させたところ、体細胞が多能性を獲得した」という、別な実験結果からヒントを得ている。ES細胞とは「胚性幹細胞」と訳され、「胚」とは受精卵が胎児になる前の、まだ分裂・分化していない細胞の塊のことを指し、この塊から取り出した細胞をES細胞という。この実験結果から山中教授は、ES細胞の中には分化した細胞に多能性を与える何かが存在しているのではないかと考え、ES細胞の中では働いているが、分化した細胞では働いていない遺伝子のリストアップとしぼり込みを行った。その結果、100の候補から、細胞の初期化に必要な4つの遺伝子をつきとめることができた。この4つの遺伝子をマウスの皮膚細胞に導入することで、世界で初めての人工の多能性幹細胞「iPS細胞」が誕生した。

iPS細胞は、ES細胞の抱える2つの問題を解決できるという点で、世間の注目を一気に集めた。それは「生命倫理」と「拒絶反応」だ。

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要約公開日 2014.01.27
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