企業家としての国家
イノベーション力で官は民に劣るという神話

未 読
企業家としての国家
ジャンル
著者
マリアナ・マッツカート 大村昭人(訳)
出版社
薬事日報社
定価
2,800円 (税抜)
出版日
2015年09月02日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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イノベーション力で官は民に劣るという神話
著者
マリアナ・マッツカート 大村昭人(訳)
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出版社
薬事日報社
定価
2,800円 (税抜)
出版日
2015年09月02日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
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レビュー

「経済における国家の役割は何か」とたずねられて、どんなイメージを持つだろうか。国家とは、官僚的で融通が利かないもの、できることがあるとすれば、民間企業の自由な活動を邪魔しないようにすること――。特に先進国では、そのような見方が一般的だろう。しかし、本書の著者であるイギリスの経済学者マリアナ・マッツカート氏によれば、歴史的に見て、企業家精神を持ち、経済成長の原動力となるイノベーションを起こしてきたのは国家なのだという。

私たちの多くが抱いている「役に立たない国家」というイメージからすると、にわかには信じがたいこの主張を、著者はiPhoneや風力発電、太陽光発電の例を挙げながら、一つずつ鮮やかにくつがえしていく。「企業家としての国家」の性質が最もよく表れた例は、意外にも日本にあるのだと著者は指摘する。1960~80年代に日本経済が驚異的な成長を遂げることができたのは、日本政府が将来を見据えた構造改革や技術開発、イノベーションへの投資を惜しまなかったことにその理由がある。

詳細な分析を丁寧に積み上げた著者の議論には非常に説得力があり、氏の論文が9か国語に翻訳されて話題を呼び、EUの政策に大きな影響を与えたという事実もうなずける。経済学の理論に苦手意識がある方も、まずは第5章、iPhoneの成功譚を紹介したページを開いてみてほしい。世界中に知られているアップル社とスティーブ・ジョブズをめぐる「神話」が、まったく違う側面を持つことに驚かされるはずだ。

著者

マリアナ・マッツカート(Mariana Mazzucato)
1968年生まれ。サセックス大学教授。
2014年英国『ニューステーツマン』誌の政治経済学の部門でシェフィールド大学政治経済研究所(SPERI)賞を受賞、2013年『ニューリパブリック』誌より「イノベーションにおける最も重要な3人」のうちの一人と称される。世界の政策立案者にイノベーション主導の経済成長を提案し、英国政府経済諮問委員会の委員を務める。世界経済フォーラムのイノベーション経済学のメンバー、欧州委員会の成長のためのイノベーション部門専門グループ永久メンバー。ロンドン在住、4人の子供の母親。

本書の要点

  • 要点
    1
    国家には「市場の失敗を是正する程度の機能しかない」という従来の見方は誤りである。
  • 要点
    2
    iPhoneが成功したのは、アップル社がアメリカ政府や軍の支援によって生まれた技術を、巧妙に組み合わせることに資源を集中したからである。
  • 要点
    3
    国が積極的にイノベーションに投資した結果、企業が成功を収めても、国や納税者が十分な見返りを受け取ることはほとんどない。
  • 要点
    4
    再生可能エネルギー開発のような不確実性の高い分野にイノベーションを起こすには、政府が強力で長期的な政策を採ることが不可欠である。

要約

【必読ポイント!】 国家の力で実現したiPhone

iPhone成功の背景には、国の莫大な投資がある
LDProd/iStock/Thinkstock

2005年6月12日、アップル社のCEOを務めていたスティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式で、「ハングリーであれ、常識外れであれ(stay hungry, stay foolish)」という有名な演説を行った。

ジョブズの演説に代表されるように、今日、世界では、イノベーションは研究開発に多額のお金をかけることではなく、常識を変えるようなキープレーヤーの能力によって成し遂げられると考えられている。

だが、本当にそれだけだろうか。個人の能力が成功のために重要であることは間違いないが、iPhoneが成功する上で、国家は何の役割も果たさなかったのか。答えは「否」である。国が莫大な投資を行い、インターネットやGPS(全地球測位システム)、タッチスクリーンディスプレー、情報通信技術などの土台作りをしたからこそ、アップル社はその革命的技術革新の波に乗ることができたのだ。

iPhoneの基になる技術は、政府の支援によって生まれた

iPodやiPhone、iPadなどの人気製品を世に送り出すことで、アップル社は携帯用コンピューターや通信機器の業界地図を塗り替え、わずか10年弱で、世界最大級の資産を有する企業に成長した。

ところが、アップル社の製品に搭載されているコア技術が、何十年もの間、アメリカ政府や軍が支援を続けたことによって実現したものばかりであることは、あまり知られていない。

2011年以降、iOSを搭載した製品群の販売量が爆発的に増えていく状況下にあって、アップル社の総売り上げに対する研究開発費の割合は持続的に減少している。つまりアップル社は、新しい技術や部品の開発に予算と時間を割くのではなく、既に存在する技術を巧妙に組み合わせ、斬新なデザインに搭載して販売することに資源を集中したのだ。これはアップル社のみならず、他のスマートフォンメーカーにも共通の手法である。

軍事目的から生まれたGPS
gorica/iStock/Thinkstock

たとえば、液晶ディスプレイの表面に指を触れることで操作ができるタッチパネル(スクリーン)技術は、アップル社製品に組み込まれた最も重要な技術の一つだ。この技術は、アメリカ

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