民主主義を直感するために

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民主主義を直感するために
出版社
出版日
2016年05月05日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

私たちは民主主義について子どもの頃から学んでいるはずである。

しかし日本では「政治の話」をタブー視する風潮があり、大人になってから政治について誰かとじっくり議論する機会は少ない。そして日常では、なんとなく政治的な問題から距離をとるようになる。選挙があればテレビや新聞、ネットなどで情報を得て考えてみるが、結局よくわからないまま日常へ戻っていく。このような人は多いのではないだろうか。

著者の國分功一郎は、自身の住む小平市の都道建設反対運動に参加していたことから「行動する哲学者」とも呼ばれている。しかし元来、政治を専門としているわけではなく、民主主義について真剣に考えるようになったのも2010年以降だという。本書は、この数年の間に著者が政治や社会について各所で書いたり語ったりしたことをまとめたものである。パリのデモの風景や日常生活から考えたこと、様々な分野の人との対談、そして米軍基地移転で揺れる辺野古訪問記など、内容は多岐に渡り、示唆に富むものである。

本書には「民主主義とは何か、政治はどうあるべきか」、という問いに対する答えが明確に書かれているわけではない。著者のアプローチや思索を追体験することで、民主主義について読者が自分なりに考える糸口を掴むための道標である。政治のことはよくわからないけれど気になっている、何かがおかしいと「直感」している、という人が、落ち着いてそれらに向き合うために傍らに置いておくべき論評集である。

ライター画像
櫻井理沙

著者

國分功一郎(こくぶん こういちろう)
1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。高崎経済大学経済学部准教授。専攻は哲学。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)、『来たるべき民主主義──小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎新書)、『統治新論──民主主義のマネジメント』(大竹弘二との共著、太田出版)、『近代政治哲学──自然・主権・行政』(ちくま新書)、『暇と退屈の倫理学 増補新版』(太田出版)など、訳書に『マルクスと息子たち』(デリダ、岩波書店)、『カントの批判哲学』(ドゥルーズ、ちくま学芸文庫)、『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』(DVDブック、KADOKAWA)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    デモの本質は、デモ自体が持つメタ・メッセージ(「今は体制に従っているけれど、いつどうなるか分からないからな。お前ら調子に乗るなよ」)にこそある。町に群衆が現れて、このメッセージを突きつけることが重要である。
  • 要点
    2
    「デフレ・ネイティブ」である現代の若者たちが、「手づかみの幸福論」を基に提案する、新しい社会のカタチに注目するべきである。
  • 要点
    3
    権力に抗議する者たちは、自分の身を守るためにこそ、緊張感を作り出して相手を雰囲気で威圧する必要がある。

要約

パリのデモから

パリのデモの風景
SergeyIT/iStock/Thinkstock

著者は2000年から2005年までのフランス留学時に、パリ東部のナシオンという駅のそばに住んでいた。この駅の広場はパリで行われる、ほぼ全てのデモの終着点になるので、著者は留学中の5年間にパリで行われた、ほとんどのデモを見たという。

パリのデモを見て驚くのは、多くの人々がお喋りをしながら歩いているだけ、ということである。横断幕を持ってシュプレヒコールを挙げている熱心な人もたまにいるが、ホットドッグやサンドイッチなどを食べている人も多い。そしてデモが終わると広場でなんとなくお喋りをして、地下鉄で帰っていく。

デモの最中、ゴミはポイ捨てなので、行進の後の路上はまるで革命の後といったような趣でゴミが散らかっている。しかし、すぐにパリの清掃人と清掃車がやってきて、あっという間に何事も無かったかのようにきれいにするのである。

デモ自体が持つメッセージ

デモとはdemonstrationのことであり、何かを表明することである。もちろん、デモのテーマになっている何事か(原発反対、テロ反対など)を表明するのであるが、それだけではない。

デモにおいては、いつもは市民とか国民とか呼ばれている人たちが、単なる群衆として現れる。統制しようとすれば、もはや暴力に訴えかけるしかないような大量の人間である。これは、すなわち「今は体制に従っているけれど、いつどうなるか分からないからな。お前ら調子に乗るなよ。」というメッセージである。

パリのデモで、参加している全ての人々がこんなことを思っているというわけではない。彼らが集まって行進しているという事実そのものが、メッセージを発せずにはいられないのだ。

日本におけるデモ

日本のデモでは、参加者はテーマになっている事柄に深い理解を持たねばならない、と主張する人がいる。しかし、それはデモの本質を見誤っている。デモの本質はむしろ、デモ自体が持つメタ・メッセージ(「いつまでも従っていると思うなよ」)にこそあり、群衆が現れてこれを突きつけることが重要なのだ。高い意識を持ってシュプレヒコールを挙げたり横断幕を持ったりして「働く」必要は無く、団子でも食べながら、ただ歩いていればいいのだ。しかし、ここで「なぜ日本ではデモに人が集まらないのか」という問題に突き当たる。

日本のコンサマトリーな若者たち
LanceB/iStock/Thinkstock

格差社会、非正規雇用増加、世代間格差など、現代日本の若者を取り巻く状況は非常に厳しい。しかし若者の生活満足度や幸福度は、この40年間でほぼ最高値を示している。驚きの事実である。社会学者の古市憲寿は著書『絶望の国の幸福な若者たち』で、こうした若者の状態をコンサマトリー(自己充足的)という言葉で形容した。

コンサマトリーとは、ある物事それ自体を楽しむことである。これと対になる言葉はインストゥルメンタルであり、物事をツールとして用いて、何らかの目的を目指す状態を指す。

かつて若者は、経済発展という輝かしい未来を目指して、「今」の苦しさに耐えることが求められた。これは「今」とインストゥルメンタルに関わることを意味する。ならば古市が指摘するコンサマトリーな若者たちは、「今」を手段とみなさず、それ自体を楽しんでいるのだと言うことができる。では彼らはどんなとき行動を起こすのだろうか。

身近なところと遠いところをつなぐ

歴史的に民衆が行動を起こすのは、民衆の持つ独自のルール(モラル・エコノミー)が犯された場合が多い。世界のどこか遠くで起こった不幸な出来事について語られても、人は驚くか、悲しむだけで終わってしまう。

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要約公開日 2016.08.15
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