錆と人間
ビール缶から戦艦まで

未 読
錆と人間
ジャンル
著者
ジョナサン・ウォルドマン 三木直子(訳)
出版社
定価
3,520円(税込)
出版日
2016年09月06日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.0
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ビール缶から戦艦まで
著者
ジョナサン・ウォルドマン 三木直子(訳)
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定価
3,520円(税込)
出版日
2016年09月06日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.5
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おすすめポイント

錆について、これほど真正面から真剣に、しかも雄弁に綴った書籍もそうそうないだろう。そういう意味で、錆について知見を深めたい人にとっては、当然のことながら必読の書といえる。だが、本書が素晴らしいのは、錆についてまったく興味がないという人にも(おそらくこちらがマジョリティーのはずだ)、興味深く読ませる力を十二分に持っているということである。

一般的にいって、錆というのは嫌われものだ。しかし、錆に携わる人たちがいるからこそ、今日の私たちの暮らしはある。本書には、防錆にとりくむ人たちから、錆の美しさに心を奪われた写真家まで、ありとあらゆる人物が登場する。彼らのフィルターを通して錆というものを眺めてみると、錆というものが想像以上に厄介で、そしてユニークなものだということに気づかされるだろう。

本書を読むにあたって、化学的な知識はまったく必要ない。ここに環境・科学ジャーナリストである著者のジョナサン・ウォルドマン氏の力量が見てとれる。本書がウォールストリート・ジャーナルのベストブック・オブ・ザ・イヤーを受賞できたのは、扱う内容のユニークもさることながら、その面白さを描写する力によるところが大きい。

人類が鉄鋼と付き合いはじめて以来、錆はずっと私たちの社会の中に存在してきた。そういう意味で、錆について知るということは、文明について知ることなのかもしれない。普段、錆について意識する機会がない人ほど、ぜひ手にとってみてほしい一冊だ。

ライター画像
石渡翔

著者

ジョナサン・ウォルドマン (Jonathan Waldman)
アメリカ、ワシントンD.Cで育つ。ダートマス大学とボストン大学のナイト・センター・フォー・サイエンス・ジャーナリズムで書くことを学び、また近年は、コロラド大学でテッド・スクリップス奨学金を得て環境ジャーナリズムを学んだ。
環境・科学ジャーナリストとして、ワシントン・ポスト紙や『アウトサイド』『マックスウィニーズ』といった雑誌に寄稿しているほか、フォークリフト運転、樹木医、サマーキャンプの監督、ステッカー販売、コックなどの仕事を経験。本書は処女作で、ウォールストリート・ジャーナルのベストブック・オブ・ザ・イヤーを受賞、またロサンゼルス・タイムズの最優秀図書賞最終候補作にも選定され、アメリカで大絶賛を受けた。ウェブサイトは jonnywaldman.com

本書の要点

  • 要点
    1
    自由の女神像は錆だらけになっており、崩壊寸前になっていた。女神像の修復は国家事業として進められ、数々のトラブルにみまわれながらも、最終的には無事成功を収めた。
  • 要点
    2
    当時、「錆びない鋼」は夢物語だと思われていたが、ハリー・ブレアリーは何度壁にぶつかっても、ステンレス鋼の実用化を諦めなかった。彼を成功に導いたのはその執念の強さだった。
  • 要点
    3
    防食や防錆に携わる人々は、一般的に認知されていない。しかし需要は高く、多くの業界に関わりを持っている。

要約

【必読ポイント!】 自由の女神像を修復せよ

肌荒れだらけの女神像
rypson/iStock/Thinkstock

自由の女神像の管理人であるデイヴィッド・モフィットのもとに、ある時突然「女神像を外側から登っている男が2人現れた」という報告が入った。慌てて現場に向かってみると、確かに男たちは女神像を昇っていた。彼らの目的は、とある男性が誤認逮捕されたことへの抗議活動であった。「自由な人間がはめられた (Liberty was framed)」というわけである。

しかしこの彼らの主張ははからずも、アメリカ史上最もドラマチックな腐食との戦いの火蓋を切ることとなった。女神像に昇った男たちの一人、詩人のエド・ドラモンドは、予想以上に女神像が登りにくいということに気づいた。銅製の肌の表面に、無数の小さなブツブツがまるでニキビのようにできていたからだ。そのため、ドラモンドが持ってきた直径20センチの吸着カップは、まるで役に立たなかった。また、銅板と銅板の間には何らかの理由で隙間が生まれており、地上からは見えなかった小さな穴が、たくさん女神像にできていることにも気づいた。

ドラモンドたちが投降してきたあと、モフィットは女神像を調べた。そして、穴はくさびや釘が原因でできたのではなく、腐食が原因でできたものだということがわかった。ドラモンドの主張は正しかった。確かに自由の女神には骨組みがあった (Liberty was framed)。そして、その骨組みは錆びついていたのである。

女神像は崩壊寸前だった

自由の女神像に見られる主な腐食現象は、「ガルバニック腐食」と呼ばれるものだった。これは、異種の金属同士が触れておこる腐食のことであり、同時に電池が機能する仕組みでもある。女神像は巨大な電池と化していた。そしてその結果、腐食による金属の多大な減耗が生じ、場所によっては塗料だけが像を支えるという事態になっていた。骨組みのおよそ半分は腐食しており、アスベスト断熱材も粉々になっていた。特に、女神像の衣と足の下の格子梁は腐食がひどく、松明は「崩壊する危険性が明白」とまで報告された。

修復作業の規模の大きさが明らかになったことで、自由の女神修復のために設けられた委員会と基金は、資金集めに奔走することになった。3年間にわたる修復作業はとてもめまぐるしいものになったが、このプロジェクトには多くの企業が協力を申し出ており、NASAですら協力をしたほどである。最終的に、女神像はきちんと修復され、像の推定寿命は劇的にのびた。

喧騒は続くよどこまでも
icherick/iStock/Thinkstock

レーガン大統領は、女神像の修復を、大統領としての自分の最大の功績の1つと宣言し、官民パートナーシップによる取り組みの手本である、と賞賛を惜しまなかった。ただ、修復の商業化に疑問を覚える人も当時は少なくなかった。マスメディアは、自由の女神が「高級娼婦」に成り下がるのではないかと批判をし、ほとんどの請負業者も修復作業のむずかしさから、この仕事を受けたがらなかった。

また、施工にかかる費用についても非難の的となった。あるアメリカの企業が、「自分たちなら同じ仕事を海外企業よりも3割安く請け負えるし、ニューヨークの労働者を雇うこともできる」と主張しても、今度は複数の組合が縄張り争いを繰り広げる事態となってしまい、なかなか収拾がつかない。さらに、この件に関する政治的争いも、醜さを増していくばかりであった。アメリカで起こった錆との戦いの歴史のなかで、女神像の修復ほど物議をかもしたものはなかったのである。

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