ニュースで学べない日本経済

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出版社
出版日
2016年04月15日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

著者の大前研一氏は長年ビジネスや経済の情報を発信し続け、日本の改革を訴え続けている人物である。その著者が、昨今の経済トレンドを踏まえて、日本企業、地方、個人がすべきことを、独自の視点から斬り込んでいるのが本書だ。

日本経済の見通しについて、「見えている将来像が世界のどこよりも暗い国」と手厳しい。日本企業は今350兆円を抱えているため銀行から金を借りる必要はなく、低金利の状況でも借入を増やす動きがない。消費者に目を向けると、住宅ローンの金利がこれほど下がっているのに、ローンの貸出残高は増えていない。この原因は、日本人の消費に対する心理が相当冷え込んでいるからである。そんな日本企業、日本人に、20世紀にもてはやされた経済論を振りかざしても市場がうまく回るはずがない。企業や消費者の心理、という本質的な部分を見誤っていることに、アベノミクスがうまくいかない理由がある、というのが著者の見立てである。

著者は、多くのビジネスパーソンや経営者を対象にさまざまなセミナーや講義をおこなっているが、一貫したテーマは「グローバル」だ。なぜいつまでも日本経済が上向かないのか、世界で起こっている多様な事例とその影響は何か、それと比べて日本はなぜ良くならないのか、低迷する日本の処方箋は何か。そのような多角的な視点が、ビジネスを進めていくうえで必要だからである。激流渦巻く世界経済の中で、日本が、自社が生き残るヒントがどこにあるのか、本書の中から探り当ててほしい。

ライター画像
下良果林

著者

大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県若松市(現北九州市若松区)生まれ。早稲田大学理工学部卒業。東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。経営コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニー日本社長、本社ディレクター、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長等を歴任。94年退社。96~97年スタンフォード大学客員教授。97年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院公共政策学部教授に就任。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。オーストラリアのボンド大学の評議員(Trustee)兼教授。また、起業家育成の第一人者として、05年4月にビジネス・ブレークスルー大学大学院を設立、学長に就任。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開学、学長に就任。02年9月に中国遼寧省および天津市の経済顧問に、また10年には重慶の経済顧問に就任。04年3月、韓国・梨花大学国際大学院名誉教授に就任。『新・国富論』、『新・大前研一レポート』等の著作で一貫して日本の改革を訴え続ける。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本企業が活路を見出すには、「人口ボーナス期」にある新興国に注目すべきだ。特に、6億人規模となる東南アジアの新しい経済共同体AECには、期待が高まっている。
  • 要点
    2
    モノが広く普及していても、その使用頻度は低い。空いているもの、使っていないものと、それを必要としている人とをネットを介してマッチングさせるサービスが注目されている。
  • 要点
    3
    老後への不安から、日本の消費マインドは凍てついてしまっている。国は国民に対し安心感を与え、安心してお金をつかえる環境を整えるべきである。

要約

世界経済の3つのリスク

中国経済の減速が引き起こす悪影響
AlexLMX/istock/Thinkstock

中国は、自国の経済成長率を7%前後に引き下げ、生産・投資主体の高度成長経済から消費主導の経済、いわゆる「新常態(ニューノーマル)」に入ったと言っている。しかし、中国がこの先本当にこのニューノーマルを維持できるかは、まったく分からない。中国経済の減速が世界経済に及ぼすマイナスの影響は、想像以上であり、3つのチャネルを介して世界へ波及すると考えられる。

ひとつは貿易である。中国向けの輸出減少が景気を下押しする。中国の貿易相手は、どこも中国の10%成長を織り込んで自国の経済を成長させてきた。特に対中依存度が高いアジアやアフリカへの影響は大きい。

つぎは資源である。中国の資源需要が減少するという観測から資源価格が下落し、その影響で資源国の所得も減少させるだろう。中国の鉄鋼(粗鋼)生産キャパシティは8億トンあるが、需要はその半分、4億トンしかない状況だ。余剰の4億トンをダンピングされたら世界中の鉄工所が危機に瀕することになる。イギリスは中国の鉄をかなり買っているが、スコットランドの鉄工所が既にひとつ閉鎖に追い込まれている。

3つ目は金融面だ。通貨安に伴う債務負担増やインフレ圧力、株安によるマインドの悪化が懸念されている。かつて中国で不動産バブルがはじけたとき、政府に「株で稼げ」と言われ、一斉に資金が株式市場に流れ込んだ。ところが現在は株価が下がり、非常に不安定で危うい状況にある。

アメリカの利上げによる一極繁栄

アメリカの経済は比較的好調である。失業率は5%まで下がり、月々の新規雇用は20万人を超えている状況だ。そこでFRB(連邦準備制度理事会)は金融緩和を終了して、政策金利を上げることを決定した。日本やヨーロッパはまだ金利を上げられる状況にないので、この利上げによりアメリカに資金が流入することが予想される。

その結果、アメリカのみが景気回復して、世界経済を潤すことはないだろう。むしろ新興国からの資金流出などマイナスのインパクトが心配される。世界を巻き込まないアメリカの一極繁栄が何をもたらすのか。大きな不安定要因である。

地政学リスク

現在は世界のいたるところで地政学リスクは存在するが、もっとも注目すべきなのは「イスラム国(IS)の勢力拡大」だろう。

ムハンマドの後継者を名乗るバグダディが作った疑似国家ISは、占領した施設を活用した石油の販売、美術品の闇売買、人質を取り身代金を要求するなどにより、年間500億~600億に上る収益があると言われている。こうした収入が続く限りは、疑似政府を維持することは可能である。また世界的なネットワークを構築していて、どこでもテロを起こす可能性がある。このISによるリスクはしばらく続いていくだろう。

好調な市場はどこにあるのか

「人口ボーナス期」国家に注目せよ
DigtialStorm/iStock/Thinkstock

中国経済が減速し世界経済に悪影響をおよぼし、人口減から国内市場が先細る中、日本企業が活路を求めて進出すべき国はどこか。40年前の日本と同じような、労働力増加率が人口増加率を上回り、経済成長にプラスに寄与する「人口ボーナス」がある国だ。人口が多く、人口増加率も高い新興国で比較的政情が安定している国にはチャンスがある。

例えばフィリピンは、国民の大多数はカトリック信者で、堕胎ができないこともあり、2055年頃までは「人口ボーナス期」が続くといわれている。日本企業はそのような国を第2の日本ととらえ、現地に腰を据え、そして地道に市場開拓をしていく必要がある。

そしてこれらの国では、わざわざ新しい仕掛けをせずとも、これまでのビジネスで十分商売ができる可能性がある。

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要約公開日 2016.11.19
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