ビジネスを「先読み」する人の日本経済史の読み方の表紙

ビジネスを「先読み」する人の日本経済史の読み方


本書の要点

  • GDPの2倍以上の借金を抱える日本が財政破綻しないのは、デフォルトしたギリシャとは異なり経常収支が黒字であることに起因するが、状況は年々悪化している。

  • アベノミクスのもとで行われた「異次元の金融緩和」により、マネタリーベースは2倍以上になり景気回復の刺激となった。しかし「異次元の金融緩和」は本来異常事態であるという認識が必要だ。

  • 2011年の東日本大震災以降、日本では産業構造が変化し、1980年以降初めて貿易赤字を計上した。赤字額は現在に至るまで年々拡大しており、日本の信用を支える経常黒字が激減している。

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【必読ポイント!】借金大国、日本!

いつ起きてもおかしくない、ハイパーインフレの危機

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現在の日本は、GDPの230%以上の借金を抱えている。それにも関わらず日本の財政が破綻しないのには2つの理由がある。1つは、「日本が経常収支を黒字に保ってきたこと」による。それはすなわち財政赤字でも海外から稼いでいる、という信用があるということである。もう1つは、日本国債の9割以上が日本国内で消化されていることである。この2つをもって日本の財政は破綻せずに済んでいるのだが、東日本大震災により国内の産業構造に変化が生じた結果、日本は貿易赤字を計上しており、経常収支の黒字額も激減している。経常収支に影響をおよぼす材料はまだある。高齢化により個人貯蓄の切り崩しが進み、銀行の預金額が少なくなると、今までのように金融機関が国債を買うことが難しくなる。さらに、今この瞬間にも日本の財政赤字額は膨らんでいるので、いつ日本が信用を失いハイパーインフレになってもおかしくない状況である。

戦後直後のハイパーインフレとその対応策

日本は戦時中の1944年にも現在と同じような状況に見舞われており、当時の債務残高はGDP比200%強であった。終戦後には戦時国債と復興予算により財政が急激に悪化し、ハイパーインフレが発生した。紙幣が紙くず同然になったことを受け、政府は、「新円への切り替え」と銀行より引き出せる現金を制限する「預金封鎖」を同時に行った。加えて保有財産に応じて25~90%の超累進課税を課すという大胆な政策を採った。しかしこうした政策の甲斐なくインフレは収まらなかった。結局、緊縮財政や円安単一為替レート設定などの政策を推進する「ドッジ・ライン」が実施されたことにより、なんとかインフレは終息したのである。

ハイパーインフレの発生を見極める指標

ハイパーインフレが、今の日本に起きない保証はどこにもない。ではいつ起きるのか? 正確に予測することは非常に困難だが、著者は目安となる指標を4つ挙げている。1つ目は、「経常収支が赤字になっていないかどうか」、すなわち日本が海外からお金を稼ぐ力があるかどうかだ。今のところ黒字が続いているが、近年貿易赤字に転じたこともあり、このままいけば経常収支も赤字に転落しリスクが高まる可能性がある。2つ目は、「家計貯蓄率」である。国債を国内で買い支えることができるかどうかの指標となる。

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要約公開日 2016.06.17
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