<わたし>は脳に操られているのか
意識がアルゴリズムで解けないわけ

未 読
<わたし>は脳に操られているのか
ジャンル
著者
エリエザー・スタンバーグ 太田直子(訳)
出版社
インターシフト 出版社ページへ
定価
2,300円 (税抜)
出版日
2016年09月20日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.0
革新性
4.5
応用性
3.0
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<わたし>は脳に操られているのか
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意識がアルゴリズムで解けないわけ
著者
エリエザー・スタンバーグ 太田直子(訳)
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定価
2,300円 (税抜)
出版日
2016年09月20日
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総合
3.5
明瞭性
3.0
革新性
4.5
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レビュー

私たちは、<脳>に操られるマリオネットなのだろうか? 本書はその疑問に正面から立ち向かった意欲作だ。

本書には、脳が私たちの心や行動を操っている研究や事例が次々と登場する。脳障害による人格の変貌、心を変えるクスリ、犯罪傾向のある脳の特色――こういった例を見聞きしていると、人間の思考や行動は脳によって支配されており、自由な意志など存在しないという「決定論」が正しく思えてくるかもしれない。事実、神経科学者の間では、そういった意見が多勢を占めているのだという。

だが、著者は神経科医という立場にありながら、「自由意志」はあると声高に主張する。つまり、脳による無自覚な決定を超えて、人間には意識的に熟考する能力があると考えているのだ。

神経科学・認知科学における自由意志の主な論点が、本書では次々と登場する。そのため、「神経哲学」と呼ばれる、日本ではあまり知られていないこの分野の概観を把握するうえでも、きわめて役に立つ一冊と言える。同時に、読みすすめていくうちに、この問題がいかに広範な領域をカバーしているのかに気づかされるはずだ。

「脳と心は別物である」というたんなる二元論に陥らず、脳自体がアルゴリズムを基盤としていることを認めたうえで、いかにしてそこから自由意志の存在を明らかにしていくのか。その議論の行方は、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。

石渡翔

著者

エリエザー・スタンバーグ (Eliezer J. Sternberg)
イェール大学附属のイェール・ニューヘイブンホスピタルの神経科医(レジデント)。脳神経科学と哲学をバックボーンに、意識と意思決定の謎について研究している。本書を含め、3冊の著作がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代の神経科学者のほとんどは、私たちの選択や信念、行動が、すべて脳によって決められていると考えている。これがもし正しければ、道徳的責任は原理的に存在しないことになる。
  • 要点
    2
    自由意志がないと考えるのは早計である。科学者のあいだで、決定論が優勢なのは、それがたんなる世界観だからにすぎない。
  • 要点
    3
    私たちの意思決定は、特定のアルゴリズムを経て、思索的内省へと移ったあとで下されている。この内省こそが、人間の自由意志を構成している大きな要因である。

要約

私たちの決断はすでに脳が下しているのか

道徳的責任の所在
Gabriela Medina/Blend Images/Thinkstock

一般的に、私たちは自分には自由意志があると思っている。だからこそ、それぞれの判断には責任が伴うと考えられているし、どう行動するべきなのかをよく吟味し、苦労しながら結論を導かなければならないと信じている。このように、道徳的責任についての考えは、人は自分の思考と行動をコントロールできるという前提の上に成り立っている。

一方、現代の神経科学者のほとんどは、物事の決定をくだしているのは意志ではなく脳だと考えている。彼らによれば、私たちの選択や願望、信念、思案、行動といったものは、すべてニューロンの通信によって決まっており、そこには判断の自由は存在しない。こうした考えを「神経生物学的決定論」と呼ぶ。この場合、自由にならない行動に道徳的責任を負うことはできないため、道徳的責任は原理的に存在しないことになる。

そもそも自由意志とは何か

現代の哲学において、自由意志に関する考えは大きく分けて2つある。

1つは、「自由を有する自己が持つ思考と行動をコントロールする能力」を自由意志と見なす考えである。あらゆる行動は、それについて熟考する機会があるからこそ、自由な行動である。熟考する能力と行為を開始する心の働きが組み合わさって、自由意志を構成しているというわけだ。つまり、自由意志は心の力であり、人の知的能力が損なわれていない限り、確実に存在する。

だが、あらゆる人間の行動の自由意志を無効にできるものがある。それは脳だ。もし神経生物学的決定論が正しければ、私たちの思考と決断を決めるのは脳であり、脳が心をコントロールしているという状態になる。その場合、自由意志があるとは見なされない。そのため、自由意志は神経生物学的決定論と真っ向から対立する。

もう1つの自由意志の考え方は、自由意志と決定論は両立するというものである。これは「両立論」と呼ばれる。これが可能なのは、両立論者は自由意志を「意識の能力ではない」し、「そもそも能力ですらない」と主張しているからだ。両立論における自由意志とは、たんに「ほかに取りうる選択肢がある」という意味にすぎない。もし選択肢自体が存在しているのであれば、選ぶものが仮に脳の働きによって決定されていたとしても、自由はあるというのが彼らの言い分なのである。

このような両立論を受け入れることは、自由意志の問題自体をすべて否定するのと同義だ。しかし、科学の完璧な因果律をすんなり信じられる立場でありながら、人間の自由という発想も含まれている理由から、両立論を受け入れる科学者は非常に多い。

決定論者の考える意識の生まれ方
vitpho/iStock/Thinkstock

特別な意思決定力のある道徳的主体性が、どうやってコンピューターのように意識のない神経系の機構から生まれるのか、興味深い2つの仮説がある。 そのうち1つは神秘論的なものであり、もう1つは科学的なものだが、どちらも満足とは程遠い回答だ。

神秘論的な答えとは、行為主体性をもつ人間の意識を、根本的に脳とは異なるものととらえる「二元論」のことである。これは17世紀の哲学者、ルネ・デカルトに端を発したもので、心を身体(=脳)から切り離して捉える見方だ。

ただ、このような考え方は、今や科学界では嘲笑の対象となっている。たしかに、心と体が別だと考えれば、自由意志と道徳的主体性は存在するとあっさり断言できる。しかし、二元論を裏付ける科学的証拠は一切ないのが実情である。

一方、科学的な答えのひとつは、「創発」あるいは「創発特性」と呼ばれるものだ。

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