ドキュメント パナソニック人事抗争史

未 読
ドキュメント パナソニック人事抗争史
ジャンル
著者
岩瀬達哉
出版社
定価
680円
出版日
2016年04月21日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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ドキュメント パナソニック人事抗争史
ドキュメント パナソニック人事抗争史
著者
岩瀬達哉
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680円
出版日
2016年04月21日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
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レビュー

人事の歯車が狂い出したとき、会社も傾き始める。そう痛感させるのが、日本を代表するエクセレントカンパニーとして、世界に名を馳せてきたパナソニック(旧松下電器産業)の凋落である。

かつて年金問題の欠陥を白日の下にさらした気鋭のジャーナリストである著者は、松下の元役員たちの実名証言を集め、緻密な調査のもと、名門企業の裏面史を暴き出していく。そこで浮かび上がった事実は、パナソニックの低迷の原因が「人事抗争」にあったということだ。経営改革を推進した4代目社長の谷井昭雄と、創業者松下幸之助の女婿でもある会長の松下正治との対立が、経営の主導権をめぐる人事抗争にまで発展したという。この後遺症は、森下洋一の社長就任後も3代にわたり、谷井が仕掛けてきたイノベーションの種をことごとくつぶし、優秀な人材をも排除するという惨憺たる状況を生み出していった。

会社の命運を握るトップ人事は、なぜかくもねじ曲げられたのか。本書では、その背景が鮮やかに描き出されており、手に汗握る展開に息を飲むことだろう。もちろん、現8代目社長の津賀一宏の経営立て直しのもと、約20年間パナソニックを翻弄してきた人事抗争は、過去のものとなりつつある。果たしてパナソニックは、言いたいことを言い合える、活気に満ちた会社に回帰できるのだろうか。生きた教訓が散りばめられた本書を片手に、創業100周年を目前とする、日本を代表する企業の行く末に思いを馳せていただきたい。

松尾 美里

著者

岩瀬 達哉(いわせ たつや)
1955年、和歌山県生まれ。ジャーナリスト。2004年、『年金大崩壊』『年金の悲劇』(ともに講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。また、同年「文藝春秋」に掲載した「伏魔殿 社会保険庁を解体せよ」で文藝春秋読者賞を受賞した。他の著書に、『血族の王 松下幸之助とナショナルの世紀』(新潮文庫)、『新聞が面白くない理由』(講談社文庫)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    松下電器の経営凋落の原因は、トップ人事にあった。4代目社長の谷井昭雄は、松下正治に会長から退くよう勧告したが、創業家に対する謀反と受け取った正治の反撃にあった。その後、世間から批判が相次いだ2つの事件を機に、谷井は辞任を余儀なくされた。
  • 要点
    2
    プラズマ事業の失敗は、人事の失敗だったといえる。強権人事のもとでは、社員が保身に走るようになり、イノベーションから遠ざかってしまう。現在のパナソニックは、自由に議論のできる会社への回帰をめざしている。

要約

カリスマ経営者の遺言

創業家の特別な事情

パナソニックの凋落を招いた人事抗争の原点は、経営の神様、松下幸之助の遺言にある。幸之助は、女婿で、会長の座にあった松下正治を「できるだけ早く経営陣から引退させよ」と、3代目社長の山下俊彦に命じていた。幸之助は、正治では経営の舵取りは難しいと能力を見限っていたのだ。さすがの慧眼である。

しかし、幸之助は創業当時のカネの工面で嫁のむめのに恩義があったゆえ、家庭での発言権は強くなく、自分の手で義理の息子に引導を渡せなかった。むめのは孫の正幸に社長を継がせるためにも、正治の社長続投を望んでいたからだ。やっとのこと、昭和52年に幸之助が正治を会長とし、山下を後継社長に抜てきしたことは、創業家の番頭経営から、近代的経営へと移行する転換点となった。

会長と社長の対立

ドラスティックな人事改革
alphaspirit/iStock/Thinkstock

山下は、一度退社した経験を持ちながらも再入社し、末席の取締役から22人抜きで経営トップに躍り出たという異色の経歴を持つ。山下が松下電子工業の工場長をしていたとき、物理に精通した部下の才能を引き出したマネジメント能力が、当時の副社長の目に留まったのが発端だ。その後も、数々の実績が認められ、順調に出世の階段を上っていく。

山下を社長に推したのは正治だった。その裏には、組織の若返りを図るだけでなく、自身の権力基盤を強化しようという魂胆があったようだ。

山下は古参の役員たちを次々に切り、ドラスティックな人事改革を進めていった。ところが、これには社内外から批判が相次ぎ、幸之助も怒りを露わにしたほどだった。山下を後方支援してきた正治ですら、正治は重要事項を協議する常務会に出席しなくてもいいと言い切る山下を不安視し始めた。これが後々のしこりにつながったと推測できる。

正治への引退勧告

経営体質の強化と海外事業の拡大に取り組んでいた山下は、その計画をともに推進してきた谷井昭雄に社長の座を引き継いだ。山下は結局、正治に弓を引くことができず、引退勧告を後任の谷井への引き継ぎ事項とした。そこで、谷井は正治の長男である正幸を社長に就かせないための布石として、副会長というポストを新設し、さらにはアメリカ松下電器の会長職から正治を降板させた。

こうした強引な人事に引き続き、谷井はついに正治に引退勧告を行い、激しい反発を受けることとなる。正治は、経営近代化を進めてきた自負があったにもかかわらず、自身がその弊害かのように扱われることが心外だったのだ。これ以降、正治は谷井が決めた人事案に何かと難色を示すようになり、「正治がイエスと言わないと、取締役は誰も上に上がれない」という空気が蔓延したという。こうして正治の逆襲が始まり、谷井はじわじわと追いつめられていくこととなった。

かくて人事はねじ曲げられた

巨大な買収計画
Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

会長と社長の対立は、山下、谷井が準備してきた画期的なビジネスモデルの粉砕にもつながっていった。平成2年、松下電器は、アメリカの総合メディア企業MCAを買収し、傘下のユニバーサル映画の持つ膨大な映像ライブラリーを活用しようとしていた。当時の松下電器は、映像や音楽を視聴者に直接配信するオン・デマンドという概念が席巻することを見越して、MCAの映像や音楽ソフトとDVDを組み合わせ、「ソフトとハードの融合」という、飛躍の青写真を描いていた。

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