採用学

未読
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採用学
出版社
新潮社
出版日
2016年05月27日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

「自社にとって正しい人材を採っている」。そう確信する経営者や人事担当者はどれだけいるだろうか。

2016年卒と2017年卒の選考開始時期が連続で変更されたことは記憶に新しいだろう。変化をチャンスととらえて優秀な人材を採用した中小・ベンチャー企業がある一方で、変化への対応に遅れ、期待をはるかに下回る採用に終わった大企業もあった。日本の採用活動は、まさに大きな変革のうねりにある。

著者は、科学的な観点から採用活動を分析し、「採用学」を打ち立てた第一人者だ。本書は、自社なりの新たな採用に挑戦しようとする経営者や人事担当者を対象に書かれている。日本の採用の現状や、世界の採用研究の知見、優秀な人材が集まる会社の特徴と事例、選抜で見極めるべきポイント、採用手法の変遷など、どれも採用に関わる方にとって必読の内容ばかりだ。

「コミュニケーション能力は重視するな」、「減点方式では、そこそこの人しか採れない」などと、採用の常識を鮮やかに斬っていく。実践的かつ目を見張る発見の数々に心躍るとともに、読み終わる頃には、優秀な人材を惹きつけ、見抜き、採用する「採用力」の本質が浮き彫りになり、踏み出すべき一歩が見えてくるのではないだろうか。

採用の課題を乗り越えようと心を砕く著者の使命感が随所からあふれ出た、読み応えのある一冊だ。慣習や主観を排し、科学的な手法に基づいて、採用と育成のつながりを重視すれば、自社にとって最適な人材を確保しやすくなる。ホットな採用の最前線にふれてみてほしい。

ライター画像
松尾美里

著者

服部 泰宏 (はっとり やすひろ)
1980年、神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、滋賀大学経済学部専任講師、准教授を経て、現在にいたる。日本企業の組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2013年以降は特に「採用学」の確立に向けた研究・活動に力をそそぐ。主な著書に『日本企業の心理的契約――組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)がある。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞を受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    各企業の採用活動にとって最適な解を導き出すための「ロジック」と「エビデンス」を、科学的に体系化し、実践に活かせるようにするのが「採用学」の使命である。
  • 要点
    2
    募集・選抜のフェーズでは、適切な情報をゆがめることなく求職者に伝える「現実路線の採用」が望ましい。入社後の「リアリティ・ショック」を緩和し、「期待のマッチング」がより高い精度で行えるようになる。
  • 要点
    3
    採用力とは、「採用リソース(資源)の豊富さ」と「採用デザイン力(採用設計力・オペレーション力)」のかけ合わせである。

要約

採用を科学的に考える

採用に「普遍解」はない

2015年卒の新卒採用から求職者に受験料を徴収する方式を始めた、ニコニコ動画でおなじみのドワンゴ。通年採用で選考する学年を問わない「大学1年生採用」を導入したファーストリテイリング傘下のユニクロ。ユニークな新しい採用手法を導入する企業が出ると、その賛否を問う議論が巻き起こる。しかし、その多くは、バッシングや表面的な「称賛」に終始している。独自の事例を自社の課題と結びつけ、参考にする企業が少ないことに、著者は警鐘を鳴らしている。

求職者と企業両者の期待と、能力評価基準の曖昧化、そして採用活動の過熱化。こうした課題に対し、「面接ではこれを聞け!」といった安易なノウハウは役に立たないし、どの企業にも通用する普遍解はない。しかし、各企業にとって最適な解を導き出すための「ロジック(論理)」と「エビデンス(データ分析から導かれた証拠・根拠)」は、世界の研究者の知見から得ることができる。これらを体系化することが、経営学や著者の構想している「採用学」の使命である。そして、こうした知見を参考に、自社独自の「優秀な人材」を定義していくことで、無名の中小ベンチャーであっても、潤沢な資金を持つ有名な大企業を凌駕できる可能性は大いにある。

「良い採用」とは何か?
AndreyPopov/iStock/Thinkstock

採用とは、企業の目標および経営戦略実現に向けて、組織や職場を活性化させるために、外部から新しい労働力を調達する活動である。では良い採用の基準とは何か。それは、求職者をランダムに採用したときに比べて、「①将来の時点でより高い仕事成果を収められる人材を獲得できたかどうか」、「②採用した人材が企業へとより強くコミットし、高い満足度を得て、中長期的に企業にとどまるかどうか」、そして「③採用活動を行わなかった場合と比べて、組織を構成するメンバーに多様性が生じ、結果として組織全体が活性化しているかどうか」の3つである。

フィーリングのマッチング優先にご注意!

募集、選抜、定着という流れで採用活動をとらえたとき、産業組織心理学者ジョン・ワナウスによると、個人と組織の間において、次の2つのマッチングが必要だという。1つ目は、個人が組織に求めるものと、仕事特性や雇用条件といった会社が提供するものとの、「期待のマッチング」である。期待のミスマッチが起こると、入社後の幻滅、離職可能性の増大をもたらしかねない。そして2つ目は、能力のマッチングであり、これが入社後の個人の業績と直結する。

ただし日本では、求職者と採用担当者が互いの主観的な相性を感じ取っていく、いわば「フィーリングのマッチング」が幅を利かせている。さらには、期待や能力のマッチングよりも優先しがちである。

フィーリングのマッチングは、採用担当者や面接官とのやりとりといった、限られた情報に基づくものだ。そのため、これに頼り過ぎることは、入社後に、職務満足やコミットメントの低下、ひいては離職へとつながるリスクをはらんでいるといえる。

【必読ポイント!】 なぜ、あの会社には良い人が集まるのか

入社後のリアリティ・ショック
dolgachov/iStock/Thinkstock

それでは、募集・選抜のフェーズで、どのように人材を集め、自社の求める人材を引きとめればいいのだろうか。日本企業はこれまで、大規模な候補者群を形成することが大事だと考え、求職者にとって「魅力的」に見える情報を提示してきた。

しかし、これでは選抜のコストを押し上げるばかりか、入社する新人の期待を引き上げるために、期待のミスマッチを引き起こしてしまう。

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要約公開日 2016.12.05
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