本書の要点

  • 人を動かすには、客観的事実やデータを「説明」するよりも、情緒的・感覚的描写を加えた「ストーリー」を語ったほうが、より複雑で立体的な真理を伝えることができる。

  • 自分が実際に体験したことや、心から信じている「本物」のストーリーを語るべきだ。自分の感情を偽って人を動かそうとしても、それは必ず声色や態度に現れ、逆に相手を遠ざけてしまう。

  • 反対派が自分なりのストーリーを持っている場合、無理にストーリーを上書きせずに、一度吐き出させてやろう。それには相手にストーリーを話させ、真剣に耳を傾けることが有効である。

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ストーリーは、人を動かす最良の手段である

はじめの一歩は、信用を勝ち取ること

Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

偉大なリーダーはみな、人を鼓舞し、自ら行動を起こさせるためにはストーリーの力が不可欠だと知っている。人を動かすのに必要なのは、客観的な事実やデータではなく、信用だ。ストーリーは、聞き手の信用を勝ち取るための手段となる。

人を動かすときに役立つのは、次の6つのストーリーである。

(1)「私は何者か」というストーリー

(2)「私はなぜこの場にいるのか」というストーリー

(3)ビジョンを伝えるストーリー

(4)スキルを教えるストーリー

(5)価値観を具体化するストーリー

(6)「あなたの言いたいことはわかっている」というストーリー

相手の信用を得て、話に耳を傾けてもらうには、(1)と(2)のストーリーを省略してはいけない。人はカモにされまいといつも身構えているため、まずはその警戒を解く必要があるからだ。「私は何者か」を語ることで相手との結びつきを確立し、「警戒すべき人」から「よく知っている人」に昇格しよう。私的なエピソードや自分の弱みなど、人柄が伝わるようなストーリーを語れば、相手は心を開いてくれる。

さらに、「なぜこの場にいるのか」を語ることで、聞き手から不当な搾取をするつもりはないことを伝えるべきだ。実は聞き手は、語り手が利己的な目的を持っていてもあまり気にしないものだ。嘘をついて私利私欲を隠すくらいなら、堂々と公開してしまったほうがよい。大切なのは、その動機が邪なものでなく健全であると示すことと、相手に敬意をもって語り掛けることである。

誰でも人を疑うよりは信用したいものだ。ストーリーを使って、語り手を信じるための材料を伝えよう。

聞き手のメリットを提示する

Sean_Kuma/iStock/Thinkstock

語り手の人柄と目的を知って安心したところで、ようやく聞き手は本題を受け入れる準備が整う。「(3)ビジョンを伝えるストーリー」は、キング牧師の「アイ・ハブ・ア・ドリーム」に代表されるように、大仰なものになりがちだ。しかし、文字にすると白々しくなってしまいそうでも、実際に口で語れば、大きな感動を生むことができる。「自己陶酔的だ」と思われるのを恐れずに語る勇気が肝要となる。

「(4)スキルを教えるストーリー」は、技能を授ける際の時間を短縮するのに役立つ。ストーリーを用いれば、相手に「なにを」するのかだけでなく、「なぜ」「どのように」それをするのかを学ばせられる。表計算ソフトを覚えさせたいなら、どこをクリックするかを教えるよりも、テンプレートを作ったことでどれだけ業務が改善したかのエピソードを語り、スキルを獲得する意義を実感させるほうが効果的である。

「(5)価値観を具体化するストーリー」は、「誠実」「仕事を楽しむ」といった「お題目」になってしまいがちな理念を、聞き手自身のものにすることが可能だ。「(6)『あなたの言いたいことはわかっている』というストーリー」は、聞き手の反論をあらかじめ予想した上で、それを穏やかに切り崩すのに有効である。

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ストーリーにできて事実にできないこと

裸の真実に服を着せる

ストーリーを語ることは、そのままでは受け入れられにくい真実に服を着せる役割を果たす。「いつ」「誰が」「どこで」といった文脈が加わることで、事実は究極の真理となる。「部下を批判することは避けるべきだ」という結論を伝えるだけでは、聞き手は反発するかもしれない。だが、「馬を前に進ませようとして激しく鞭打つ男は、じきに自分の足で歩く羽目になる」という格言を語ればどうだろうか。

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要約公開日 2017.01.09
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