本書の要点

  • 三十年位前まではヒトにおける種々の機能は魚類まで遡るのがせいぜいであった。しかし、分子生物学的手法の発達によってDNAに刻まれた過去の情報を読み取ることが可能になり、現在は無脊椎動物にまで遡ることができる。各章においても可能な限り進化を遡って記されている。

  • 本書はどこの章から読んでもよく、教員の方が生徒の興味を引くために授業の小さな種を探すと言った読み方や、高校生、大学生の授業の副読本としても読むことが可能である。もちろん、生物学に興味を持つ一般の方々の頭の骨休めにも良いであろう。

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人体の凄さを知る

身体に隠された驚くべき機能たち

Alexandre Nunes/Hemera/Thinkstock

本書を読み始めて気付くことは、人体の凄さだ。驚きが止まらない。例えば耳の形だ。耳介の表面がデコボコなのはなぜかというと、音の共鳴を抑えるためである。音源が前後左右どこにあるかわかるのは、耳介を回りこむ音の僅かな音圧の差を脳で判断しており、それは子供の時からの経験によって判別をつけているからである。実際に、耳をセロテープなどで顔に押さえつけると判断が狂うのだそうだ。右耳と左耳に入る音を脳内で処理する精度は一〇万分の一秒というから凄い。次に心臓をみてみよう。心臓の拍動で送り出される血液量は一度に五リットル程度。一分間に六〇回繰り返すとすれば一日あたり八トンもの血液量となり、一ヶ月間で二四〇トンもの血液が送り出されることになる。この体積は奈良の大仏に相当するそうだ。あなたを支えるエネルギーと身体の関係についてはどうだろうか。肝臓には通常、エネルギー源がグリコーゲンという形で一一〇g程度蓄えられているのだが、これは筋肉に多少あるグリコーゲンと合わせても二〇〇〇キロカロリー程度しかなく、一日分のエネルギーがやっとである。そのため、ヒトは毎日食べなくては生きていけない。脳はグルコースしかエネルギー源として使えないのだが、食べられなくなるとまず脂肪をグルコースに換える。次に、脂肪がなくなると蛋白質をグルコースに換える。脂肪組織の九〇%が失われるような飢餓状態になると、肝臓の重量は五〇%減少、筋肉重量が三五%減少、消化管では腸間膜にある脂肪が使われるために重量が二五%減少するのだが、脳はそのような場合でもたったの二%程度の減少にとどまるのだそうだ。それほどまでに脳は保護されるべき重要な臓器なのである。さらに、私達の生活に欠かせない酸素を取り込む臓器である肺胞。一つの大きさは直径〇・一ミリメートル程度なのだが、これが七億五千万個もあるので、その表面積を合計するとテニスコートの四分の一程度にもなる。肺の中に畳五十畳分もの表面積を持った臓器が入っているという想像が出来るだろうか。次に消化管へと話を進めよう。スタート地点は唇であるが、唇というものは実は哺乳類にしかない。これは唇を丸めて乳首から母乳を飲むためなので、卵生である爬虫類や鳥類には唇が必要無いのだ。消化管の内部についても興味深い話が紹介されている。なんと、ヒトは逆立ちしながら牛乳を飲むことが出来る。

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要約公開日 2014.02.25
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