「やさしさ」過剰社会
人を傷つけてはいけないのか

未 読
「やさしさ」過剰社会
ジャンル
著者
榎本博明
出版社
定価
800円 (税抜)
出版日
2016年11月29日
評点
総合
3.3
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
3.0
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「やさしさ」過剰社会
「やさしさ」過剰社会
人を傷つけてはいけないのか
著者
榎本博明
未 読
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定価
800円 (税抜)
出版日
2016年11月29日
評点
総合
3.3
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
3.0
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レビュー

部下を持つ上司であれば、だれでも一度は部下への注意の仕方に悩んだことがあるのではないだろうか。なにせ、厳しく注意したらヘソを曲げられてしまったり、パワハラだと訴えられたりする時代だ。まちがいを指摘するときも、細心の注意を払わなければならない。それが、たとえ部下に完全なる非があったとしても、である。

こうした事情が関係しているのか、日本社会には一見すると「やさしい」上司が増えたようにも思える。だが、それがはたして本当のやさしさと言えるのか、大いに疑問だ。

この点に関して、著者の指摘はするどい。著者は現代日本における「やさしさ」の正体を、「予防としてのやさしさ」と看破する。つまり、一見すると「やさしい」上司というのは、あくまで相手を傷つけないようにしているだけで、実はたんに利己的かつ保身的な態度をとっているだけだというのだ。

相手のためを思い、ときに厳しく接する「治療としてのやさしさ」は、たしかに現代では許容されにくくなっているかもしれない。しかし本当に重要なのは、本当に相手のことを思って接すること、そして相手からの厳しい言葉の裏に隠された想いを見落とさないことなのである。

もちろん、真のやさしさは本書だけで定義できるものではない。だが、傷つき傷つけられることを許しあうということは、現代の日本が忘れかけている「やさしさ」のかたちかもしれない。

本当のやさしさについて考えさせてくれる一冊として、本書をお読みいただければと願う。

池田 明季哉

著者

榎本 博明 (えのもと ひろあき)
1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士過程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在はMP人間科学研究所代表を務める。心理学博士。心理学をベースにした企業研修・教育講演を行なう。
主な著書に『「上から目線」の構造』『薄っぺらいのに自信満々な人』『「みっともない」と日本人』(以上、日経プレミアシリーズ)、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)、『中高年がキレる理由』(平凡社新書)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『傷つきやすくて困った人』(イースト新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    傷ついた相手を癒す「治療としてのやさしさ」よりも、相手を傷つけない「予防としてのやさしさ」に対する感受性が日本で広まっている。
  • 要点
    2
    「予防としてのやさしさ」が求められる「やさしさ社会」は、一度でも他者を傷つけることは許されないという意味において、きびしい社会である。
  • 要点
    3
    心の傷は癒すことができるという信頼のもと、相手の長期的な利益を考えて、ときに厳しく接する「やさしさ」への感受性に回帰していくべきだ。

要約

部下に注意をすることがむずかしい時代

その上司は本当にやさしいのか
woolzian/iStock/Thinkstock

上司、恋人、家族、先生など、現代ではあらゆる人間関係の場面で「やさしい」人が人気である。たとえば、何かとほめてくれる上司は、部下を気持ちよくさせるため、部下からは「やさしい」上司といわれることが多い。

しかし、「やさしい」といわれる人たちは、はたして本当に「やさしい」のだろうか。たしかに、気分で口うるさくする上司や、心配性で不必要に口うるさい上司にはうんざりさせられるものである。

だがその一方で、相手のためを思う口うるささというものもある。部下に実績を上げさせるためにアドバイスを送る上司に対して、鬱陶しさを感じつつもありがたいと思う人も少なくないはずだ。

また、口うるさいことも厳しいことも言わない、「やさしい」上司だとされている人に話を聞いてみると、「単にめんどうだからうるさく言わないだけだ」と漏らすことがある。結局、彼らは若手に反発されて逆恨みを受けるリスクを減らすために、何も言わないことで距離を取っているだけなのだ。

部下から嫌われないための「やさしさ」は、部下のためというより、むしろ自分のためである。部下からパワハラで訴えられないための「やさしさ」は、本当のやさしさではなく、保身のため以外のなにものでもない。それにもかかわらず、そうした人物が、「やさしい」上司だと言われているのが現状なのである。

現代の日本では、このような怪しげな「やさしさ」がはびこっている。だが考えてみてほしい。厳しいことを言ったりむずかしい課題を与えたりして部下を鍛えようとする上司と、部下のいたらない点を指摘せずに甘やかす上司、はたしてどちらが本当に「やさしい」のであろうか。

【必読ポイント!】やさしさは予防なのか、治療なのか

現代の「やさしさ」はきびしい
Geerati/iStock/Thinkstock

なぜ、現代ではあやしげな「やさしさ」がはびこりがちなのであろうか。

精神科医の大平健(おおひらけん)は、やさしさが「治療としてのやさしさ」から「予防としてのやさしさ」へ変化していると指摘する。彼の考察によれば、旧来のやさしさとは、相手の気持ちを察し共感することで、お互いの関係を円滑にするものであった。一方、新しい「やさしさ」とは、相手の気持ちに立ち入らずに傷つけないための社交術なのだという。

たとえば、ある意識調査のデータを見ると、「年長者からアドバイスされて、うっとうしいと思うことがある」というものは2割以上、とくに20代では3割近くになっている。また、「他人に批判されると、それが当たっていてもいなくても無性に腹が立つ」と答えた者も、とくに20代で45%と飛びぬけて高い。

「正しいことであっても注意されたら腹が立つ」という人が増えている背景には、「予防としてのやさしさ」の流行があると考えられる。「治療としてのやさしさ」の場合、一度注意をして相手を傷つけても、いつかその傷は癒えると捉える。そしていっとき気まずい思いをしたとしても、長期的に見れば相手の成長につながると考える。一方、注意をして相手の気分を害することは避けるべきだと考えるのが「予防としてのやさしさ」だ。そこでは、傷は一度つけたら癒えないものとして捉えられてしまう。つまり、一度相手を傷つけたら終わりなのだ。

社会学者の森真一(もりしんいち)は、意図せず傷つけてしまったときにその傷を癒そうとする「治療としてのやさしさ」よりも、傷つけること自体を回避しようとする「予防としてのやさしさ」のほうが、実際は「きびしいやさしさ」だとしている。

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リーダーシップ・マネジメント 人事
著者
榎本博明
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2016年11月29日
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