進化は万能である
人類・テクノロジー・宇宙の未来

未 読
進化は万能である
ジャンル
著者
マット・リドレー 大田直子(訳) 鍛原多惠子(訳) 柴田裕之(訳) 吉田三知世(訳)
出版社
定価
2,700円 (税抜)
出版日
2016年09月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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人類・テクノロジー・宇宙の未来
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マット・リドレー 大田直子(訳) 鍛原多惠子(訳) 柴田裕之(訳) 吉田三知世(訳)
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定価
2,700円 (税抜)
出版日
2016年09月20日
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レビュー

かつて、あらゆる生物の精妙なデザインは、創造主によって今あるような形でつくりだされたのだとする創造説が広く受けいれられていた。一方、現代に生きる私たちは創造説を否定し、ダーウィンの提唱した進化論を当たり前のものとして捉え、進化とは突然変異と自然淘汰によって起きるものだと見なしている。

だが、創造説を否定する私たちでさえ、依然として歴史を動かすのは個人の活躍だと信じてしまっていると著者は指摘する。生物のこれほど多様で複雑な姿が進化によって生まれたのなら、私たちが暮らす社会も、同じように進化によってつくりあげられたと考えるほうが、むしろ自然なのではないだろうか――それが本書に通底して流れているメッセージだ。

本書に記されているのは、ダーウィンの進化論をアップデートし、人の営みすべてに適用しようとする、きわめて野心的なアイデアである。政治、経済、はたまたテクノロジーにいたるまで、どのように進化が起こってきたかを豊富な具体例とともに述べ、特定の個人が世界を変えてきたという現代の「創造説」を覆す。その手腕には見事の一言である。

本要約では、特にビジネス分野に関連が深いと思われる「リーダーシップの進化」と「インターネットの進化」の項を中心に本書の内容をまとめた。「進化」という、ある意味で意外とも思える観点から、あるべきリーダーシップのかたち、そしてインターネットのこれからについて、思いを巡らせてみてはいかがだろうか。

池田明季哉

著者

マット・リドレー (Matt Ridley)
サイエンス・ライター。1958年、英国ノーサンバーランド生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジを主席で卒業後、同大で博士号(動物学)を取得。その後《エコノミスト》誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。英国王立文芸協会フェロー、オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。著作に『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』『赤の女王 性とヒトの進化』『やわらかな遺伝子』(以上早川書房)ほか多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    これまで進化論は生物学においてのみ語られてきたが、実はあらゆる人の営みにも適用することができるものである。
  • 要点
    2
    歴史は偉人によって動かされてきたと考えられがちだが、それは誤った見方だ。状況が整っていれば、遅かれ早かれ進化は起きるものである。
  • 要点
    3
    インターネットは特定の個人によって開発されたものではなく、オープンソースを介して多くの人の協力のもとに開発された。そのような性質をもっているからこそ、インターネットは、あらゆる領域における進化を加速させている。

要約

【必読ポイント!】 「特殊進化理論」から「一般進化理論」へ

あらゆる分野で「進化」は起きている
naddi/iStock/Thinkstock

チャールズ・ダーウィンは、あらゆる生物は自然のなかの競争を経て発展してきたという「進化論」を唱え、神のような何者かが特定の目的をもって生物をつくりだしたという「創造説」を退けた。進化論はその後、いくらかの修正を受けてはいるものの、基本的には生物の進化を説明するものとして、広く受け入れられている。

しかし、生物学以外の分野についても、この進化論の考えは当てはまるのではないか。人間社会の制度や組織、生産、習慣における変化は、特定の誰かの指示でそうなったのではなく、自然発生的な勢いにもとづくものだ。つまり大局的に見れば、あらゆる人間の文化も、固有のゴールや目的に向かってまっすぐ進んできたのではなく、主に試行錯誤を経て進んできたといえる。

そうした特徴は、まさに進化のもつ特徴そのものである。私たちは、誰かの行いによって社会が変化してきたと教えられ育ってきたが、実際には道徳からテクノロジー、金銭から宗教にいたるまで、すべてのものが「創造」されるのではなく「進化」することによって変わってきているのである。

ダーウィンの進化論は、生物学に限定されているという意味で、さしずめ「特殊進化理論」ということができるだろう。特殊相対性理論を拡張して一般相対性理論を生み出したアインシュタインに倣い、この理論を「一般進化理論」と名づけることにしたい。

リーダーシップの進化

改革解放経済は誰によってなされたか
artorn/iStock/Thinkstock

レーニン、ヒトラー、毛沢東、チャーチル、マンデラ、サッチャー――20世紀は、さまざまな偉人が歴史を塗りかえた時代だと一般的に考えられている。しかし現実には、特定の権力者の力によって歴史が変わったというよりも、創発的に生まれたボトムアップによって進化したとみなすほうが妥当である。

たとえば1978年、鄧小平(とう しょうへい)の統治下で始まった、中国の改革解放経済を考えてみよう。結果として経済は目覚ましく成長し、5億人が貧困から抜けだした。普通に考えれば、鄧小平は歴史に多大な影響を与えた「偉人」であるといえる。

だがこの改革を詳細に調べてみると、実際にはそうではないことがわかる。この変化は、政府によって命令された結果起きたわけではなく、民衆の動きから生まれたものなのだ。

当時、中国のある村の人びとは、集団農場の生産性がひどく低いことに絶望していた。そこで農民たちはある夜、秘密の会合を開き、それぞれの農家がそれぞれの育てた作物を所有し、集団農場の土地を分けあうことにした。その結果、働けば働くほど利益が得られることに奮起した農民たちは、朝早くから夜遅くまで懸命に働き、1年で過去5年分より多くの収穫物を得ることができた。

この知らせを聞いた地元の共産党幹部は、農民たちの労働意欲や収穫高に疑念を抱き、調査を行った。場合によっては投獄、あるいはもっと恐ろしい運命が農民たちを襲う可能性もあった。しかし、尋問中に自治区の共産党幹部が仲裁に入り、この村と同じ制度を他の場所でも実験してみるよう勧めた。この件はやがて鄧小平の耳にも入り、彼はこの制度に許可を出すことにした。彼がとった行動はそれだけだった。しかし結果的にはそれがきっかけとなり、中国の農業は急成長を遂げ、やがて産業も同じ道をたどった。

このことから次のことがいえる。たしかに私的所有を最終的に許可したのは鄧小平だった。だが、たとえ彼がいなくても、いずれ農業改革が起きたのは間違いない。なぜなら、この改革は上からの命令ではなく、一般人の行動から始まったのだから。

「蚊」が命運を分けた

アメリカの大統領制は、もっぱら神話で成り立っている。完璧で、全知で、有徳で、清廉潔白な救世主が4年ごとに現れ、国民を約束の地に導いてくれるという神話だ。バラク・オバマが大統領に選出されたのも、こうした救世主ムードの高まりによるものだろう。ほとんど大統領に就任しただけなのにもかかわらず、ノーベル平和賞を受賞したことは記憶に新しい。

こうした大統領神話の源流にあるのは、独立戦争を勝利に導き、アメリカ合衆国初代大統領となったジョージ・ワシントンの存在である。しかし実のところ、ワシントンの勝利は、敵であるイギリス軍が蚊によって媒介されるマラリアに倒れたためという仮説が有力だ。

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