「本をつくる」という仕事の表紙

「本をつくる」という仕事


本書の要点

  • 一冊の本には書き手や編集者だけでなく、様々な「本をつくる」人々がかかわっている。彼らに共通しているのは、仕事に対してとことん真剣に向き合おうとするプロフェッショナルな姿勢である。

  • 昔から「本」に携わってきたのは職人気質の人が多かった。テクノロジーの発達とともに、多くの職人の仕事が機械に代わっていったが、そのなかでも職人たちは新しい世界を切り拓こうと奮闘しつづけている。

  • 読書の喜びは、様々な人たちの丁寧な仕事によって生み出されたものである。

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【必読ポイント!】 活字は本の声である

文字の良し悪しが作品に影響を与える

一冊の作品がもたらすイメージは内容だけによってつくられるのではない。装幀、紙、文字の詰め具合といった、あらゆる要素が調和してひとつの「作品」をつくりだしている。とりわけ、文字の形は重要な役割を担っている。教科書、広告、あるいは日本国憲法にも、誰かがつくった書体が印字されており、すべてがなんらかの目的にもとづいて用いられている。書体が内容と合っていなければ、作品に悪影響をもたらしてしまうだろう。

忘れさられた書体

sc0rpi0nce/iStock/Thinkstock

「秀英体」とは大日本印刷によるオリジナルの書体だ。明治時代の創業期、職人たちの手によってつくられた秀英体は、当時の「和文活字の二大潮流」に数えられていた。しかし、DTP(デスクトップパブリッシング)の普及などによりだんだんと使われる機会が減り、一時期は大日本印刷の社員であっても、秀英体について知る者はほとんどいなくなったという。そんな状況を打破しようとしたのが、大日本印刷の「秀英体開発室」に勤める伊藤正樹氏であった。伊藤氏は秀英体の品質を見直し、現代でも利用しやすいようリニューアルして一般販売する「平成の大改刻」と呼ばれる事業の責任者となった。とはいえ、それは苦難の道だった。そのままデジタル化できれば話は楽だ。しかし、それでは秀英体の良さである文字の細さや滑らかさが消えてしまう。そこで、伊藤氏をはじめとする開発室の面々は、12万以上ある文字を1字ずつ修正していくという、途方もない作業にとりかかることになった。

次の100年も使用できる商品へ

社外のデザイナーからも厳しい意見をもらい、完成までに7年という長い歳月をかけながら、秀英体はとうとうデジタルフォントとして一般発売されるようになった。やがて他の印刷会社でも使われるようになり、世間に普及していった。「職人たちのデザインそのものと会話すること」――それこそが大改刻の本質だったのではないかと伊藤氏は語る。職人が手で彫ったり描いたりして生み出した文字、そこにかける意気込みを見本帳や原図から読みとり、次世代に伝えていく。

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要約公開日 2017.07.01
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