ブラック・フラッグス
「イスラム国」台頭の軌跡 上

未 読
ブラック・フラッグス
ジャンル
著者
ジョビー・ウォリック 伊藤真(訳)
出版社
定価
2,300円 (税抜)
出版日
2017年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
3.0
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「イスラム国」台頭の軌跡 上
著者
ジョビー・ウォリック 伊藤真(訳)
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出版社
定価
2,300円 (税抜)
出版日
2017年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
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レビュー

2004年、香田証生(こうだしょうせい)という日本のバックパッカーの青年がイラクで拉致され殺害されるという、とても痛ましい事件があった。

本書の主役は、その事件の首謀者アブー・ムサブ・アッ=ザルカウィだ。ザルカウィは「イスラム国」の前身グループのリーダーとしてテロを実行し、数多くの人を殺(あや)めていった。このような人道に反することを、なぜ彼は躊躇なく実行できたのか。本書によれば、そこには「罪」の意識が働いていたという。

もともとザルカウィは飲んだくれのごろつきとして地元では有名だった。だが更生を願う母親が、ザルカウィをモスクの宗教講座に入門させたことですべてが変わった。ザルカウィは禁酒を誓い、祈りの言葉を唱えるときはいつも涙した。そして「おれは過去の行ないのおかげで、シャヒード――殉教者――にならないかぎり、何をしたってアラーは許してはくれまい」と語った。

ザルカウィがかつての自分と、殺害対象である「背教者」たちの姿を重ねていたかどうかはわからない。だが「背教者」たちに対するあまりに強烈な敵意は、自分の過去となんとか決別しようとする現れのようにも映る。

ザルカウィが残した種は、犠牲者の血をすすりながら「イスラム国」として芽吹き、いまもなお醜い花を咲かせている。「イスラム国」が生まれた背景を理解したければ、ただちに本書を読むべきだ。まさしくピュリツァー賞受賞にふさわしい傑作である。

石渡翔

著者

ジョビー・ウォリック (Joby Warrick)
1960年、米国ノースカロライナ州に生まれる。テンプル大学卒業。『ニューズ・アンド・オブザーヴァー』の記者として96年、環境問題に関する報道でピュリツァー賞(公益報道部門)を共同受賞。96年以来、『ワシントン・ポスト』で中東問題を中心に、安全保障・外交・テロ・環境などの分野を専門とするジャーナリストとして活躍している。2016年、本書 Black Flags でふたたびピュリツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞。邦訳書に『三重スパイ――CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」』(太田出版)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    昔から手のつけられない荒くれ者として知られていたザルカウィは、イスラーム教に目覚めたことで、暴力の対象を異教徒に向けるようになった。
  • 要点
    2
    コリン・パウエル国務長官の演説によって、それまで無名だったザルカウィは世界的な有名人になり、大勢の支持を獲得した。
  • 要点
    3
    ザルカウィが求めていたのは単なる戦争ではない。イラクを不安定にし、憎むべき背教を根絶するため、自分と同じスンナ派信者たちに武器を取らせる。それが一連のテロ行為の目的だった。

要約

ザルカウィの台頭

最悪の監獄の最悪の政治犯
Evgeniy Anikeev/iStock/Thinkstock

ヨルダンで最悪の監獄、それがアル=ジャフル刑務所だ。峠を転用したこの監獄には、何十年間にもわたって凶悪犯が収監されていた。その後しばらくは使われずに放置されていたが、1998年から再び用いられるようになった。とある危険なイスラーム過激派セクトのメンバーを隔離するためだ。

そのセクトの中でも、ひときわ存在感を発揮していた男が2人いる。ひとりはマクディシというセクトのリーダーであり、説教の能力に秀でた神学者であった。だが真にセクトを支配していたのはもうひとりの男――それこそが、のちに「イラクのアル=カーイダ」の創始者となるザルカウィである。

ザルカウィは髪の色が濃く、背は低いががっしりとしており、まるでレスラーか体操選手のような見た目をしていた。かつて入れ墨が彫ってあった右腕の一部は無理やり剥ぎ取られており、縫合した跡が痛々しく残っている。

心の温かさや機敏というものが、ザルカウィにはまるで欠けていた。ひどくすさんだ界隈で生まれ育ち、高校を中退したあとは喧嘩と軽犯罪に明け暮れる日々を過ごした。アフガニスタン戦争では無謀なほど勇敢に戦い、気に入らない人間には暴力を振るった。

そんなザルカウィだが、イスラーム教に対してはひたすら熱心だった。監獄の中ではコーランの暗記に没頭し、かつての無秩序な暴力は鳴りを潜めた。

だがそれがかえって、ザルカウィの憤懣(ふんまん)を凝縮してしまったのかもしれない。アラーの敵と見なした者への、際限ない憎悪というかたちで。

そしてその男が解き放たれる
Evgeniy Anikeev/iStock/Thinkstock

ザルカウィの刑期は2009年まで続くことなっていた。だがヨルダンでは実際の刑期通りになることはほとんどない。

フセイン一世国王が死去し、長男のアブドゥッラーが新しい国王になると、アブドゥッラーは国内の囚人に対して大赦を宣言した。ヨルダンでは建国以来、新国王が暴力犯罪以外の囚人や政治犯に恩赦を与えることになっている。イスラーム主義者や各地の諸部族からポイントを稼ぎ、政権を安定させるためだ。

だがそれは痛恨のミスだった。国会議員らが釈放する価値のある囚人を選定していったのだが、そのリストにはザルカウィをはじめとした、例のセクトのメンバーも含まれていたのだ。のちにアブドゥッラーは側近に対して「どうして誰もチェックしなかったんだ?」と怒鳴りつけたが、すべては後の祭りだった。

こうしてザルカウィは5年ぶりに自由の身になった。ザルカウィは血のつながっている家族と獄中の仲間たちという、2つの「家族」の間で揺れた。刑務所でともに苦難を過ごした仲間たちはザルカウィに忠実で、どこへでも喜んでついてきた。しかしザルカウィにとって、とくに母親は大切な存在だった。

結局ザルカウィは両方を選んだ。釈放されて家族のもとに戻ったその日に、ふたたび刑務所に戻り、指揮官のごとく囚人たちの様子を確かめに行ったのだ。

当時、この刑務所の医師だった男は「これぞリーダーという姿でした」とザルカウィを称え、こう付け加えた。「この男の運命は2つに1つしかないと思いました。名を轟かすことになるか、さもなければ死だと」。

テロリストがアイドルになるとき

晴れて自由の身になったザルカウィは、その後いくつかの国を転々としながら、次の戦場をイラクに定めた。

当時のアメリカ政府がザルカウィに注目しはじめたのは、2002年10月28日のアメリカ人外交官暗殺事件がきっかけだ。アメリカ政府は、アル=カーイダと繋がりのあるザルカウィこそが暗殺を命じた張本人であること、そしてアル=カーイダとサダム・フセインのあいだには実行的な関係があることを確信していた。中央情報局(CIA)から「明確な証拠はない」と伝えられていたにもかかわらずだ。

そして2003年2月5日、世界ははじめてザルカウィを知った。

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