実践 ポジティブ心理学の表紙

実践 ポジティブ心理学

幸せのサイエンス


本書の要点

  • ポジティブ心理学は、未病の人が「どうすればもっと幸せになれるのか」を解明する学問であり、ウェルビーイングの向上をめざしている。レジリエンスやマインドフルネスもポジティブ心理学の構成要素である。

  • 狭く深い関係よりも幅広い人間関係を築いているほうが、人の幸せに寄与する。

  • 日本人の「幸せの4つの因子」は「やってみよう!」因子、「ありがとう!」因子、「なんとかなる!」因子、「ありのままに!」因子である。

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ポジティブ心理学とは

ポジティブ心理学がめざすべき姿

これまで臨床心理学は心の病に対処するためのものだった。それに対し、ポジティブ心理学は、未病の人が「どうすればもっと幸せになれるのか」を解明しようとする学問である。ポジティブ心理学はポジティブ・シンキングと混同されがちだが、まったく別物だ。ポジティブ・シンキングとは、「常に前向きに」という、やや行き過ぎた面をもつ。一方、ポジティブ心理学は、ポジティブもネガティブも両方認めている。負の感情を抱いている自分も含めて認めてあげようという世界観のもとに成り立っている。ポジティブ心理学がめざすのは、ウェルビーイング(well-being)の向上である。ウェルビーイングは直訳すると健康、または幸福であり、「心身ともに充実した、より良い状態」を指す。現在判明しているのは、ネガティブな感情より、ポジティブな感情が少し上回っている状態が幸福に近いということだ。実際のところ、極端なポジティブ感情への同化は、社会を危険にさらすともいわれている。よって、100%ポジティブでいる必要はなく、ポジティブ、ネガティブのバランスが大事といえる。

ポジティブ心理学を構成する要素

kieferpix/iStock/Thinkstock

ここからは、ポジティブ心理学の柱となっているレジリエンス、フロー、マインドフルネスの3つの概念を取り上げる。まず、レジリエンスとは、困難に遭遇して強いストレスを感じたときに働く、逆境から立ち直る力、回復力を意味する。レジリエンスが強ければ、非常につらい出来事が起きても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にならずに済むことが多いという。つづいて、フローはアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念である。幸せは、長期的な幸せと短期的な幸せに分けられる。「幸せな人生だな」としみじみ思うことは、十年くらいの単位で考えた長期的な幸せである。一方、フロー状態は、短期的な幸せの一種だ。フロー状態は、目の前のことに浸りきっている状態のことである。時間も疲れも忘れるくらいの集中力を発揮しており、パフォーマンスが向上しているのがフロー状態の特徴といえる。さらに、マインドフルネスは、「今、ここで起こっていることに集中し、自分が感じている感情や思考を判断せずに冷静に観察している心の状態」を指す。マインドフルネスの逆の状態をマインドレスという。注意が散漫で、心が過去や未来をさまよっている状態である。つまり、意識が「今、ここ」に集中できていない状態だ。マインドレスな状態をマインドフルネスに近づけるためには、今、ここに集中するものを見つけるとよい。集中するという点では、フローと似ている。ただし、異なるのは、フローが無意識に入っていくものであるのに対し、マインドフルネスは意識的に入るための型が用意されているという点だ。マインドフルネスの型のうち、代表的なものは瞑想である。呼吸に集中する瞑想や感謝の瞑想、食べる瞑想、歩く瞑想、慈悲の瞑想など、決まったやり方がある。瞑想に限らず、心のスイッチを切りかえられる行為を見つけておくとよい。

楽観主義者は成功する

ポジティブ心理学の創設者、マーティン・セリグマン教授は、著書『Learned Optimism』の中で次のように述べている。「ものごとを楽観的に考えるか、悲観的に考えるかによって、人生の成功や幸せに差が出る」。楽観的思考か悲観的思考かどうかは、生まれながらの性格だけでなく、「説明スタイル」と呼ばれる、ものごとの捉え方にも影響される。説明スタイルは、楽観的説明スタイルと悲観的説明スタイルに分けられる。

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要約公開日 2017.11.30
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