真説・企業論

ビジネススクールが教えない経営学
未読
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真説・企業論
出版社
出版日
2017年05月16日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

とかく日本では、旧態依然とした大企業 vs. イノベーションを起こすベンチャー企業という対比が語られがちだ。実際にこうしたイメージが定着している人も少なくない。またIT系の起業家を中心に、アメリカのシリコンバレーに強い憧憬を抱いている人が数多くいるのも事実だろう。

本書はそうした姿勢に疑問を呈する一冊である。アメリカのベンチャー企業やイノベーションについて多角的に分析し、実態と問題をあぶり出すことで、一般的に信仰されているベンチャー企業論、イノベーション論を真っ向から否定するのだ。

帯に大きく踊る「アメリカに学んではいけない」というコピーは、まさに著者の主張を端的にあらわしている。アメリカの開業率が30年間で半減していること、シリコンバレーの成功は国家主導の強力な軍事産業のおかげであること、そしてベンチャー・キャピタルはイノベーションの役に立たないこと。その提言の切れ味には圧倒されること必至だ。

これから起業をめざす人はもちろん、企業規模の大小を問わず、すべての社会人にとって必読の書である。本書を読めば、アメリカ型の企業改革・金融構造改革が真の問題だったとする著者の見解に思わず頷かされてしまうだろう。これからの時代を生き抜くための羅針盤として、ぜひ本書をご活用いただきたい。

ライター画像
田中佐江子

著者

中野 剛志 (なかの たけし)
1971年、神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学、政治思想を専攻。2001年同大学院より優等修士号、2005年博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞激励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(以上、集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『資本主義の預言者たち』(角川新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    アメリカは起業大国と見なされることが多いが、その開業率は30年間で半減している。
  • 要点
    2
    シリコンバレーにハイテク・ベンチャー企業が集積する理由は、シリコンバレーが軍事産業の集積地だからである。ハイテク・ベンチャー企業の成長は、政府の強力な軍事産業育成政策に支えられている。
  • 要点
    3
    官僚主導によるアメリカ型コーポレート・ガバナンス改革の推進が、日本企業を短期主義化させてしまい、日本経済の低迷を引き起こしている。
  • 要点
    4
    イノベーションはむしろ、共同体的な組織である老舗企業からのほうが生まれやすい。これから起業をする人は、なるべく会社の寿命を長くすることを心がけるべきだ。

要約

【必読ポイント!】 アメリカ経済の真実

ベンチャー企業の振興とイノベーションの促進は違う
patpitchayaiStock/Thinkstock

日本では起業が難しいという指摘を踏まえて、日本経済を改革する必要性が盛んに言われはじめてから、もう20年以上が経つ。ところがいまだに日本はシリコンバレーのようにはなっていない。

この原因を考えるうえでまず注目してほしいのが、アメリカにおけるベンチャー企業の隆盛は1980年代、アメリカの製造業を脅かしはじめた日本企業に対する官民一体の国家戦略によるものだということだ。

シリコンバレー化を提唱する日本の政策は、アメリカの国家戦略にならったものが多数を占めている。その改革案のひとつに、大企業の技術者・研究者による起業の促進があるのだが、日本とアメリカでは起業の背景が異なる。ゆえにそのまま参考にすることは難しいだろう。

そもそも特許データをもとに分析した世界の革新企業・機関トップ100を見てみると、2015年に日本企業はアメリカ企業を2年連続で抜き、世界最多の40社が選出されている。日米の人口や市場規模を比較して考慮すると、日本のイノベーションの力は世界に冠たるものがあるといっていい。

日本で論じられているベンチャー企業の振興は、もっぱらイノベーションの促進を意味している。だがイノベーションとは、技術シーズの創出から事業化までの過程全体を指す言葉だ。ベンチャー企業はあくまでそのなかの事業化の部分を担うだけである。

技術シーズの事業化を促進したいのであれば、ベンチャー企業の振興もいいだろう。だが事業化の振興は、技術シーズ創出の促進とイコールではない。ここをはっきりさせておかなくては、いつまでもボタンの掛け違えが起こったままだ。

アメリカは起業大国ではない
zimmytws/iStock/Thinkstock

シリコンバレーの印象が強いからか、アメリカを起業大国に位置づける論客は多い。だが1980年代以降、アメリカの開業率は下落を続けており、この30年間で半減している。

とりわけIT革命期の1990年代になると、30歳以下の起業家の比率は低下あるいは停滞し、2010年以降は激減してしまった。過去40年間にわたって低い生産性を記録し、画期的なイノベーションも起きていないため、アメリカ経済は大停滞している状態である。

加えて、アメリカの典型的なベンチャー企業の実態は、世間一般で思い描かれているイノベーティブなハイテク企業ではない。「人の下で働きたくない」という目的で起業した40代の既婚白人男性が多くを占め、起業から7年以内に新規ビジネスが軌道にのるのは全体の3分の1程度だ。

そもそもハイテク・ベンチャー企業は、アメリカ政府の軍事産業育成政策により誕生したものである。ITはベンチャー企業が創造したのではなく、政府主導による軍事政策の産物にすぎない。シリコンバレーにハイテク・ベンチャー企業が集積しているのは、アメリカが世界最大の軍事大国だからだ。つまり日本がシリコンバレー化を果たせず、ベンチャー大国になれない最大の理由は、軍事大国ではないからなのである。

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要約公開日 2018.01.11
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