本書の要点

  • 太平洋では、目下、北朝鮮や中国の軍備拡大が周辺諸国に緊張を生んでいる。地域の平和的な発展は、諸国の協力関係にかかっている。

  • 大西洋は、周辺の多くの国々の文化交流の中心である、「文明のゆりかご」としての役割を果たしてきた。一八世紀のヨーロッパの海洋帝国間の争いは、人類史上初めて「シーパワー」が問題となった争いだった。

  • インド洋では、アラビア湾周辺の緊張関係、インドとパキスタンの冷戦という国際的な問題がある。この地域の展開は、二一世紀地政学の全体の趨勢を左右することになるだろう。

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【必読ポイント!】すべての海洋の母、太平洋

広大な海

著者が初めて太平洋に出たのは一七歳、海軍士官候補生になったばかりのときのことだという。サンディエゴの港を出て、見渡す限り広がる海を前にすると、啓示を受けるかのように、「船乗りになりたい」という思いに不意に打たれたそうだ。太平洋は、その大きさゆえに、すべての海洋の母と呼ばれる。太平洋だけでも地球上の陸地を合計したよりも広い。驚くべきことに、そのように広大な海を、人間は一万年前に丸木舟を漕いでわたり、東南アジアから大小無数の島々へ移住した。「太平洋(Pacific)」と命名したポルトガル人のマゼランをはじめ、一六世紀以降、多くのヨーロッパ人が太平洋をわたった。アメリカは一九世紀にカリフォルニアを獲得してから、太平洋を定期的に航行するようになった。

日本の太平洋進出

seewhatmitchsee/iStock/Thinkstock

日本は、イギリスと地政学的類似点が多いものの「太平洋の大英帝国」とはならず、二〇世紀になってようやく積極的に進出しはじめた。その理由の一つは、日本にとって太平洋が東への天然の緩衝地帯の役割を果たし、狭いイギリス海峡と比べて広大な距離で他国と離れているため、外敵からの攻撃も少なかったからだ。日本は長らくその恩恵に甘んじて、基本的に近海にとどまる道を選んでいた。その方針が変化したのは、ペリーの「ソフトパワー」による交渉によって、日本が開国してからだ。ヨーロッパとの外交関係が始まり、日本の産業基盤は急速に発展した。陸海軍の能力が高まり、突如、からっぽの緩衝地帯だった太平洋が、征服すべき地域として日本の地政学地図に浮かびあがった。そして日本は、大英帝国と同じように海軍戦略を立て始めた。日本は、清とロシアという大陸の二大国との戦争に勝利した。そしてその後、宣戦布告せずにハワイの真珠湾に奇襲をかけ、第二次世界大戦の太平洋の戦闘の火ぶたを切った。戦闘は驚くほど広域で繰り広げられた。ウィリアム・マンチェスター著『ダグラス・マッカーサー』(河出書房新社)によると、アメリカの軍事作戦地域は「イギリス海峡からペルシャ湾までの距離に匹敵し、アレクサンドロス大王やカエサル、ナポレオンの遠征の二倍の地域」を網羅していたという。日本軍は快進撃を続けたが、一九四二年六月のミッドウェー海戦によって雲行きが変わった。日本の艦載機の出発が機械的不備によって一五分遅れ、そのことでアメリカ艦隊の位置をつかみそこねた日本側は、作戦変更を余儀なくされた。結果、日本軍は空母四隻を失うなどの大損害をこうむった。アメリカ軍は、ミッドウェーでの勝利ののち、北と南から太平洋を進軍した。日本軍は激烈に抵抗したものの、その後大勢は覆らなかった。

中国と北朝鮮の動向

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その後、朝鮮戦争やベトナム戦争が起こったが、やがて太平洋は平和を取り戻した。ただし、現在、地政学や安全保障の観点で注視すべき出来事が進行している。太平洋周辺での軍拡競争の激化だ。そのことは二〇一三年以降のデータに端的に表れている。世界各国の軍事力の報告書であるThe Military Balanceによれば、インドを含むアジア全域での防衛支出は、二〇一三~一五年で九パーセント増加している。同時期のアメリカやヨーロッパの防衛支出がいずれも減少していることと対照的だ。

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要約公開日 2018.01.14
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