海の地政学
海軍提督が語る歴史と戦略

未 読
海の地政学
ジャンル
著者
ジェイムズ・スタヴリディス 北川知子(訳)
出版社
定価
2,376円
出版日
2017年09月10日
評点(5点満点)
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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レビュー

「海はひとつ」とは、イギリス王立海軍が残した名言だ。すべての海は水路でつながっており、人類の歴史に大きな影響を及ぼしてきた。小さな島国であるイギリスが、一七世紀から一八世紀に「太陽の沈まない国」である世界帝国を築いたのも、制海権を掌握したためである。海上の権力、「シーパワー」は陸地の政治にも深く関連する。

著者は、7つの重要な海域について、それぞれの覇権をめぐる歴史や現在の情勢を、自身の経験を織り交ぜながら語る。著者はアメリカの海軍軍人として経歴を重ね、最終的にNATO欧州連合軍最高司令官を務めた。国際法で博士号を取得し、現在は国際的人材を多く輩出するタフツ大学フレッチャー・スクールの学長職に就いている。トランプ政権から国務長官のポストを打診された(が、断った)という経緯もあるそうで、まさに海と政治を語らせるにふさわしい大人物だ。

全編に表れているのは、アメリカのトップエリートが見た世界の見方であり、アメリカは国際秩序を守るために何をなすべきか、というところへ収斂していく。今、アメリカという国が何に注目し、どんな戦略を持とうとしているのかが本書ににじみ出ているといえるだろう。中には、北朝鮮のミサイル危機や、南シナ海での中国の動きなど、日本にとっても重要な意味を持つ出来事も大きく取り上げられており、アメリカと切っても切れない関係で結ばれた日本の針路を考える上でも間違いなく重要な一冊である。

熊倉 沙希子

著者

ジェイムズ・スタヴリディス (James Stavridis)
アメリカ合衆国海軍大将(退役)。1976年、アナポリスの米海軍兵学校を卒業後、35年以上を現役の海軍軍人として過ごす。複数の駆逐艦や空母打撃群などの指揮を執り、7年にわたり四つ星の海軍大将として勤務。2009年から13年まで、米海軍出身者では初のNATO(北大西洋条約機構)欧州連合軍最高司令官を務めた。退役後、2013年よりタフツ大学フレッチャー・スクール学長。NATO司令官時代の回想録The Accidental Admiral(2014年)などの著書がある。国際安全保障に関する論評を、《ニューヨーク・タイムズ》 《ワシントン・ポスト》《アトランティック》などに寄稿している。

本書の要点

  • 要点
    1
    太平洋では、目下、北朝鮮や中国の軍備拡大が周辺諸国に緊張を生んでいる。地域の平和的な発展は、諸国の協力関係にかかっている。
  • 要点
    2
    大西洋は、周辺の多くの国々の文化交流の中心である、「文明のゆりかご」としての役割を果たしてきた。一八世紀のヨーロッパの海洋帝国間の争いは、人類史上初めて「シーパワー」が問題となった争いだった。
  • 要点
    3
    インド洋では、アラビア湾周辺の緊張関係、インドとパキスタンの冷戦という国際的な問題がある。この地域の展開は、二一世紀地政学の全体の趨勢を左右することになるだろう。

要約

【必読ポイント!】すべての海洋の母、太平洋

広大な海

著者が初めて太平洋に出たのは一七歳、海軍士官候補生になったばかりのときのことだという。サンディエゴの港を出て、見渡す限り広がる海を前にすると、啓示を受けるかのように、「船乗りになりたい」という思いに不意に打たれたそうだ。

太平洋は、その大きさゆえに、すべての海洋の母と呼ばれる。太平洋だけでも地球上の陸地を合計したよりも広い。驚くべきことに、そのように広大な海を、人間は一万年前に丸木舟を漕いでわたり、東南アジアから大小無数の島々へ移住した。

「太平洋(Pacific)」と命名したポルトガル人のマゼランをはじめ、一六世紀以降、多くのヨーロッパ人が太平洋をわたった。アメリカは一九世紀にカリフォルニアを獲得してから、太平洋を定期的に航行するようになった。

日本の太平洋進出
seewhatmitchsee/iStock/Thinkstock

日本は、イギリスと地政学的類似点が多いものの「太平洋の大英帝国」とはならず、二〇世紀になってようやく積極的に進出しはじめた。その理由の一つは、日本にとって太平洋が東への天然の緩衝地帯の役割を果たし、狭いイギリス海峡と比べて広大な距離で他国と離れているため、外敵からの攻撃も少なかったからだ。日本は長らくその恩恵に甘んじて、基本的に近海にとどまる道を選んでいた。

その方針が変化したのは、ペリーの「ソフトパワー」による交渉によって、日本が開国してからだ。ヨーロッパとの外交関係が始まり、日本の産業基盤は急速に発展した。陸海軍の能力が高まり、突如、からっぽの緩衝地帯だった太平洋が、征服すべき地域として日本の地政学地図に浮かびあがった。そして日本は、大英帝国と同じように海軍戦略を立て始めた。

日本は、清とロシアという大陸の二大国との戦争に勝利した。そしてその後、宣戦布告せずにハワイの真珠湾に奇襲をかけ、第二次世界大戦の太平洋の戦闘の火ぶたを切った。戦闘は驚くほど広域で繰り広げられた。ウィリアム・マンチェスター著『ダグラス・マッカーサー』(河出書房新社)によると、アメリカの軍事作戦地域は「イギリス海峡からペルシャ湾までの距離に匹敵し、アレクサンドロス大王やカエサル、ナポレオンの遠征の二倍の地域」を網羅していたという。

日本軍は快進撃を続けたが、一九四二年六月のミッドウェー海戦によって雲行きが変わった。日本の艦載機の出発が機械的不備によって一五分遅れ、そのことでアメリカ艦隊の位置をつかみそこねた日本側は、作戦変更を余儀なくされた。結果、日本軍は空母四隻を失うなどの大損害をこうむった。アメリカ軍は、ミッドウェーでの勝利ののち、北と南から太平洋を進軍した。日本軍は激烈に抵抗したものの、その後大勢は覆らなかった。

中国と北朝鮮の動向
flySnow/iStock/Thinkstock

その後、朝鮮戦争やベトナム戦争が起こったが、やがて太平洋は平和を取り戻した。ただし、現在、地政学や安全保障の観点で注視すべき出来事が進行している。太平洋周辺での軍拡競争の激化だ。

そのことは二〇一三年以降のデータに端的に表れている。世界各国の軍事力の報告書であるThe Military Balanceによれば、インドを含むアジア全域での防衛支出は、二〇一三~一五年で九パーセント増加している。同時期のアメリカやヨーロッパの防衛支出がいずれも減少していることと対照的だ。

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海の地政学
未 読
海の地政学
ジャンル
グローバル 政治・経済
著者
ジェイムズ・スタヴリディス 北川知子(訳)
出版社
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定価
2,376円
出版日
2017年09月10日
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