子ども格差の経済学

「塾、習い事」に行ける子・行けない子
未読
子ども格差の経済学
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「塾、習い事」に行ける子・行けない子
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子ども格差の経済学
ジャンル
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年07月06日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

子どもにどんな習い事をさせるか、将来はどの学校に通わせたらいいか、そのためには塾へ行かせた方がいいのか。家計とのバランスはどう考えたらいいか。親たちの悩みは尽きない。最近は昔と比べて様々な情報が簡単に入手できるようになっており、ますます親たちには情報を適切に取捨選択し、判断する力が求められている。親として何をしてやれるかについて、改めて考える必要がある。

子どもに何かを習わせたいと思ったとき、決して無視できない検討事項が経済的負担である。いつから塾に通わせればいいのか、中学、高校と私立校に通った場合にはいくらかかるのか、きちんと把握しておくことが大切だ。子どもが複数人いるならなおさらである。本書では、家庭の経済力が、子どもが受ける教育にどのように影響するのかを、データを分析しながら詳細に考察している。特に注目されているのが、塾通いや、ピアノやサッカーなどの習い事である学校外教育である。

そのほかにも、塾通いの大学進学への影響、学校教育にかかる費用、幼児教育の考え方など、幅広いトピックが紹介されているので、誰でもきっと自分の気になるポイントが見つかるだろう。また、子育てのステージが変わった際に改めて読み返してみるのもいいかもしれない。いずれにせよ、子育てをするうえで重要な、「お金」というテーマについて、考えさせられる一冊だ。

ライター画像
山下あすみ

著者

橘木俊詔(たちばなき としあき)
1943年兵庫県生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。京都大学経済学部教授、同志社大学経済学部教授を経て、現在京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏米英独で教育・研究職。2005年度日本経済学会会長。専攻は経済学。
著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『早稲田と慶応』(講談社現代新書)、『学歴格差の経済学』(共著、勁草書房)、『東京大学』(岩波書店)、『教育と格差』(共著、日本評論社)、『灘校』(光文社新書)、『日本の教育格差』(岩波新書)、『京都三大学 京大・同志社・立命館』(岩波書店)、『三商大 東京・大阪・神戸』(岩波書店)、『学歴入門』(河出書房新社)、『公立 vs 私立』(ベスト新書)、『ニッポンの経済学部』(中公新書ラクレ)、『実学教育改革論』(日本経済新聞出版社)、『プロ野球の経済学』(東洋経済新報社)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    将来名門大学といわれる大学に入学するには、中学受験、高校受験突破のための塾通いが欠かせない。塾に通える子はすなわち親に経済力がある子であり、高い学力が認められている。
  • 要点
    2
    スポーツや芸術関係の習い事でも塾などと同様に費用が発生する。特に、芸術関係の習い事には費用のかかるものが多く、限られた家庭にしか機会が与えられなくなっている。
  • 要点
    3
    日本では、教育は私的財の側面が強いという認識があるが、教育は公共財の側面がもっと強いものであるとの認識を高めるべきだ。

要約

塾に行っている子と行っていない子でどの位の差がつくのか

名門校進学のために必須の塾通い
junce/iStock/Thinkstock

今となっては常識かもしれないが、東大や京大に多くの卒業生を送る名門高校に入学するには、塾通いが不可欠である。神戸市の私立灘高校の学生を対象にしたアンケートによると、入学前に塾に通っていたと答えた学生の割合は、なんと100%であった。ほとんどの学生は入学試験の前に塾通いに2~6年を費やしたという。これは首都圏の名門進学高校でも同じであり、開成や桜蔭などへの入学者はサピックスなどの塾出身者が占めている。

また、東大、一橋、慶應などの名門大学の合格者の統計を見ると、首都圏の高校出身者が多くを占めており、どの大学でも私立の中高一貫校の出身者が入学者の40%前後を占めている。つまり、名門大学に入学するための近道は首都圏の中高一貫校に通うことであり、そこに入学するためには塾通いが欠かせなくなっているのである。

もっとも、日本全体を見渡せばこうした中学受験のための通塾は大都会のごく一部に限られている。全国的に最も多くの学生が経験するのは高校受験であるため、塾という学校外教育に最もコミットしているのは中学生である。また、小学生においては英会話教室が人気であることも最近の傾向である。

親の学歴や年収と通塾率の関係

塾に通う理由としてまず浮かぶのは、子どもの学力向上である。塾にも補習塾や進学塾など様々な塾があるが、家庭での学習時間別に見ると、中学受験のための進学塾に通っている小学生の学習時間はとても長く、学力の高さも目立つ。塾といっても復習や予習を目的とした塾に通う学生の学力は、非通塾生と大差ない。

さらに重要な事実は、受験塾に通う学生のうち、父親が大卒である児童はそうでない児童に比べて学習時間は2倍近く多く、学力も高かった。理由としては、子供を塾に通わせるだけの経済的余裕、自分が高い教育を受けたメリットを実感していることによる子どもへの教育の熱心さ、さらには遺伝による生まれつきの能力の高さなどが考えられる。文部科学省の最近の調査によると、親の年収が高い児童ほど高い学力を持っており、国語よりも算数にその傾向がやや強く現れるということが分かった。

親の年収差によって子どもの学習環境に違いが生じることは当然であり、その一つが塾である。親の経済力と子どもの通塾率には強い正の相関があり、通塾すれば学力は高くなる。また、裕福な家の子ほど家での学習時間が長いというデータもある。家での学習時間というのは、そのうちかなりの割合が塾での学習時間で示されるので、親の年収の違いによって子どもが塾にコミットする時間が異なるということも推測できる。

ピアノやサッカーなどの習い事はどのような効果があるのか

費用のかかる芸術活動
romrodinka/iStock/Thinkstock

学校外教育としては、塾での勉強だけでなく、ピアノ・バレエ・サッカー・水泳などの芸術やスポーツも挙げられる。何らかの費用負担が生じるということは塾と共通である。スポーツで最も人気が高いのはスイミングで、小学生の実に3分の1が水泳教室に通っている。これは小学校から高校まで多くの学校が水泳を体育での義務にしていることや、水難事故への恐れ、水泳教室は比較的費用が安いことが理由かもしれない。ほかにも、サッカーや体操教室など、体力の増強、人格形成において有用な場としてのさまざまなスポーツの習い事は人気である。

芸術活動で人気が高いのは楽器のレッスンで、特にピアノを習う子どもは多い。芸術活動に関しては男子よりも女子が多いことが特色となっている。子どもに何か情操教育をという思いと、女の子のほうが文化的な活動に関心が強いだろうという推測や、子どもの希望などからこのような結果になっていると考えられる。

芸術活動においては費用の問題も目立つ。

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要約公開日 2018.01.19
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