戦争がつくった現代の食卓

未 読
戦争がつくった現代の食卓
ジャンル
著者
アナスタシア・マークス・デ・サルセド 田沢恭子(訳)
出版社
定価
2,808円
出版日
2017年07月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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戦争がつくった現代の食卓
戦争がつくった現代の食卓
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アナスタシア・マークス・デ・サルセド 田沢恭子(訳)
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2,808円
出版日
2017年07月20日
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革新性
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レビュー

本書表紙のタイトルのそばには、「軍と加工食品の知られざる関係」という言葉が添えられている。まさか加工食品と軍に関連性があるなど夢にも思わなかった。

しかし考えてみると、加工食品はなぜ加工される必要があったのか。現代の食品を見ると、その多くは長時間の輸送に耐えられ、長期保存が可能であるなど、品質維持の工夫が随所になされている。これこそまさに軍隊が食糧に対して求めたことだったのだ。

戦争が起こり兵士が遠く海外へ派遣されるとなれば、大量の食糧を戦地へ送り届け、あるいは兵士のポケットに入れて持ち歩かせなければならない。戦地の気候はさまざまで、気温や湿度などによって食糧は傷み、お腹をこわす兵士もいただろう。これは戦争の勝敗をも左右するゆゆしき事態であった。

この事態を解決するため、アメリカでは、陸軍が主導する研究によって、さまざまな食品技術が開発されたという。その流れの中で、たとえば、フリーズドライ(凍結乾燥)技術を活かしたインスタントコーヒーや、味はそのままに水分を減らす低温蒸発製法により凍結濃縮果汁〈ミニッツメイド〉などが誕生した。〈プリングルズ〉チップスに入っている乾燥じゃがいもは、一九五〇年代に陸軍と農務省が共同開発したものだ。

そして、現代においても一般消費者向けの食品に対する軍の影響力は決して小さくない、と著者は指摘している。本書は、人間が生きるのに極めて重要な「食」について新たな見方を与えてくれる一冊である。

立花 彩

著者

アナスタシア・マークス・デ・サルセド (Anastacia Marx de Salcedo)
フードライター。「サロン」「スレート」「ボストングローブ」「グルメ」などの各種紙誌や、PBSネットワークやNPRラジオのブログに記事を執筆している。公衆衛生のコンサルタント、ニュース雑誌の発行者、公共政策の研究者でもある。ボストン在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    栄養強化食品のエナジーバーや、長く保存できるパンやプロセスチーズなど、現代の食卓に登場する多くのものには、コンバット・レーション(戦闘糧食)をつくるときの技術が転用されている。そうした研究開発を行なっているのが、アメリカ陸軍ネイティック研究所だ。
  • 要点
    2
    国防総省からの研究資金が重要な資金源である基礎研究の分野では、どうしても戦争関連の研究テーマが選ばれる傾向にある。研究から生まれた食品加工技術が大手企業に譲渡されれば、一般消費者向けにレーション(糧食)に近い食品が提供されることになる。

要約

【必読ポイント!】 アメリカ陸軍と加工食品の関係

コンバット・レーション(戦闘糧食)と子どもの弁当
KatarzynaBialasiewicz/iStock/Thinkstock

料理好きな著者は、学校へ行く娘たちのために手づくり弁当を持たせていた。カフェテリアの給食に申し込むこともできたが、弁当のほうが健康的だと信じていたのだ。

ところが、子どもの弁当について調べ始めた著者は驚いた。ハムとチーズのサンドウィッチに加えて、クラッカーやエナジーバー、パウチ入りのジュースなどの加工食品を詰め込んだ弁当は、環境への負荷や栄養価などの基準において、カフェテリアの給食より劣っていた。

弁当に入れていた食品には、保存のための添加物がたっぷりと使われていて、新鮮で健康によいとは言いがたかった。ハムやパンでさえもなぜこんなに長もちするのかという謎を探った著者は、背景に、ネイティック・ソルジャー・システム・センター(ネイティック研究所)というアメリカ陸軍の施設で行われた研究があることを知る。携行しやすく、すぐ食べられて、常温で保存できる食品のほとんどには、コンバット・レーション(戦闘糧食)をつくるときの技術が転用されているのだ。

アメリカ食料供給システムの中枢──ネイティック研究所

アメリカ陸軍ネイティック研究所は、ボストン郊外にあり、兵士たちが過酷な任務中にとる食糧の配給戦略に特化している。

ネイティック研究所では、アメリカの戦闘食糧配給プログラムに沿って、基礎科学や応用科学について研究すべきことを定め、パートナーを見つけて共同研究し、結果を公表する。研究所の本部では、陸軍の科学者らが食品業界の研究についての情報を収集し、学会や企業などに専門的な知識や技術を提供する。契約業者の募集や契約も行なう。

大手食品企業は、ネイティック研究所の食品の未来に対するビジョンを手に入れるために、こぞって国防総省と提携契約を結び、この戦闘食糧配給プログラムに参加したがる。産業界自身による研究に比べて、そのビジョンに基づく研究のほうが、市場を支配する可能性の高い新製品を生む可能性が高いと考えているのだ。

市販の食品がレーション(糧食)に近くなるワケ

国防総省との提携契約には「共同研究開発契約(CRADA)」と「代替契約(OT)」などがある。政府との契約ともなると手続きが煩雑でうんざりしそうなものだが、これらの契約ではそうした負担が取り除かれ、政府と産業界との関係性は強まることとなった。数多くの技術移転も実現し、公的資金によって研究開発された新技術が市販用製品に利用されるようになった。

著者がサンプルとした二〇〇七年度では、連邦政府は、アメリカ国内における科学技術関連の研究開発費のうちおよそ三分の一を支出している。基礎研究、応用研究、開発研究にそれぞれ均等に配分されるが、基礎研究ではその割合が五九%を占める重要な資金源になっている。研究開発における資金の大半を政府、なかでも国防総省が支出するとなれば、その傾向が顕著な基礎研究の分野では、研究テーマを決めるときにどうしてもそのことを考慮せざるを得ない。資金を獲得できる研究でないと、研究者は生計を立てられないからだ。

加えて、計画立案機構のしっかりした国防総省との連携においては、うまみがたくさんある。定期的な情報収集もできるし、長期の時間枠ももつことができる。グローバルな視点も得られるし、財源が豊かなために失敗もある程度許される。

かくして研究者たちが選ぶテーマは、軍にとって不可欠な戦争技術に関するものとなり、産業界の方向についても軍が多大な影響力をもつことになる。そうした研究から生まれた特許や最新の食品加工技術が大手企業に譲渡されれば、陸軍のレーションに近いものが市場に出回り、アメリカ国民の口に入るというわけだ。

エナジーバーと戦争と宇宙開発

チョコレートの利用
BravissimoS/iStock/Thinkstock

平均的なアメリカ人がオフィスの引き出しやバックパックに必ず一本は常備していると思われる、栄養強化食品のエナジーバー。それは今から一〇〇年ほど前に、チョコレートを緊急時用レーションにしたいとアメリカ陸軍が考えたことから開発が始まった。

陸軍の要求は、タンパク質、炭水化物、甘みを一つの食品でとれることだった。

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