注文をまちがえる料理店

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注文をまちがえる料理店
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注文をまちがえる料理店
出版社
出版日
2017年11月09日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「注文をまちがえる料理店」は、特別なルールのあるレストランだ。

「このお店では、注文した料理がきちんと届くかは誰にもわかりません」と、料理店を企画した著者は述べる。この料理店で注文を取るスタッフが、認知症の状態にあるためだ。しかしそこには、「間違えることを受け入れて、むしろ楽しみましょう」という思いがある。

この料理店がそのまま、認知症のさまざまな問題を解決する糸口になるわけではない。それでも「間違えることを受け入れて楽しむ」という価値観を発信したい気持ちが、このプロジェクトを実現させたのだ。

宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』をモチーフにした「注文をまちがえる料理店」は、2017年6月3日、4日の2日間限定で、試験的にプレオープンした。ほとんど身内だけでひっそりと行なう予定だったプロジェクトは、しかし著者の予想をはるかに超える反響を呼んだ。ハプニングは当たり前のように起きたが、訪れた客はみんなそのハプニングを楽しんだ。評判は国境を越え、社会福祉先進国のノルウェーからも高い評価を受けたという。

本書には企画者である著者の視点だけでなく、スタッフとして働いた認知症の当事者を支えている、ケアワーカーや家族からの寄稿も数多く寄せられている。社会福祉の領域に、新しい価値観と示唆を与える一冊である。

ライター画像
池田明季哉

著者

小国 士朗 (おぐに しろう)
「注文をまちがえる料理店」発起人
テレビ局ディレクター。
1979年生まれ。東北大学卒業後、2003年に某テレビ局に入局。
2013年に心室頻拍を発症。
テレビ番組を作るのが本当に大好きで相当なエネルギーを注いできたが、それを諦めなければならない事態になり、一時はかなり悩み落ち込む。
しかし、「テレビ局の持っている価値をしゃぶりつくして、社会に還元する」というミッションのもと、数々のプロジェクトを立ち上げ、いつしか局内でもテレビ番組をまったく作らない、おかしなディレクターとして認識されるようになり、ついには専門の部署までできることに。
「注文をまちがえる料理店」はとある取材時に思いついたことを形にしたもの。
好物はハンバーグとカレー。

本書の要点

  • 要点
    1
    「注文をまちがえる料理店」ができたからといって、認知症の状態にある人の問題がすべて解決したわけでもない。しかし働く人にとってもお客さんにとっても、間違いが受け入れられる場所は、何にも代えがたいものとなった。
  • 要点
    2
    この企画を進めるにあたって、2つの重要なルールが設けられた。ひとつは「料理店としてのクオリティにこだわる」こと、もうひとつは「わざと間違えるような仕掛けはやらない」ということだった。
  • 要点
    3
    「注文をまちがえる料理店」は少しずつ、しかしたしかな広がりを見せている。これからも日本や世界のどこかで開店できるよう活動を続けていきたいと著者は考えている。

要約

「注文をまちがえる料理店」で本当にあったものがたり

「働くことができる喜び」を感じるスタッフたち
nattul/iStock/Thinkstock

「注文をまちがえる料理店」の営業時間は、11時から15時までの4時間で、普通のレストランと比べると短い。しかし認知症は状態が進行すると、疲れやすくなることもあり、介護職員や福祉チームのサポートがあっても、スタッフにとっては決して楽な仕事ではない。

たとえば認知症になると、「1+1は?」という問いかけにも「2」という答えを導き出すまでに長い時間がかかったり、結局その答えがわからなかったりすることがある。「わかって当たり前」のことがわからない状況にあるため、普通ならば気を遣わなくてもいいところにも、常に神経を張り巡らせなければならない。そういう状況が、疲労を加速させるのだ。

しかし「注文をまちがえる料理店」でスタッフとして働いた74歳のヨシ子さんは、かつて美容師として働いていたこともあり、4時間の間一度も休憩をとることなく、すばらしい働きぶりを見せた。もちろん注文を間違えてしまうことは何度もあったが、ヨシ子さんにとって重要だったのは「仕事ができる」という事実であり、人から必要とされる喜びだった。

この日「注文をまちがえる料理店」で働いたスタッフには、認知症で自信をなくし、ふさぎ込みがちになっていた人も多かった。しかし、「間違えても、やり直せばいい」という場所で働くことで、明るい気持ちを取り戻すことができたという。

来店客にも希望をもたらす料理店に

「注文をまちがえる料理店」に来店したお客さんの中には、知的障がいを持った青年もいた。大人になるにつれて自分に向けられる視線に対して敏感になり、人を嫌って外食することにも抵抗を感じていた青年だったが、「メニューを間違えるかもしれない」というワードに惹かれ、「注文をまちがえる料理店」を訪れた。

そして彼は、そこで久しぶりに明るい笑顔を取り戻すことができた。誰にでも話しかける彼に眉をひそめる人は誰一人としておらず、あるがままの彼を受け入れてくれた。また一緒に訪れた両親も、ゆったりとした気持ちで食事を楽しむことができた。彼にとって「注文をまちがえる料理店」は特別な場所になり、あそこで働いてみたいという希望も生まれたという。

根本的には彼の外食嫌いも人嫌いも変わったわけではない。すべてがよい方向に変わったわけではないし、「注文をまちがえる料理店」ができたからといって、認知症の状態にある人の問題がすべて解決したわけでもない。

ただ働く人にとってもお客さんにとっても、「間違いを受け入れてくれる」場所があることが、何ものにも代えがたい価値となったのである。

「誰もが受け入れられる場所」を作る
ThitareeSarmkasat/iStock/Thinkstock

「注文をまちがえる料理店」には、プロジェクト発起人からスタッフまで、飲食にまつわる仕事をした経験のある人はほとんどいなかった。しかしたとえスタッフに経験がなく、認知症で記憶力が弱っていても、人と接することは身体が覚えている。サポートメンバーもそれほど肩肘張らずに、大変そうに見えたら手伝いをするという姿勢を保った。そして何よりも一緒に笑ったり、楽しんだりすることを大切にした。

認知症の状態にあるスタッフだけでなく、来店するお客さんの中にも、障がいを抱えていたり、病気を患っていたりと、さまざまな背景を持った人がいた。だが普段の生活で不便を強いられることも多く、悩みも絶えない人たちが、おいしい料理を目の前に笑いあえる場所。それはたしかに存在していたのだ。

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要約公開日 2018.03.11
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