「大発見」の思考法

iPS細胞 vs.素粒子
未読
「大発見」の思考法
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iPS細胞 vs.素粒子
未読
「大発見」の思考法
出版社
文藝春秋
定価
913円(税込)
出版日
2011年01月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

物理学と生物学とで分野が異なるが、科学の歴史にその名を残した益川敏英博士と山中伸弥博士がその大発見を成し遂げるためにどのような考え方をし、どのような点に重きを置いて過ごされているかを垣間見ることができる。

本書を読まれた方はこう感じるだろう。「益川博士はいわゆる天才肌の人間だ」。「この人がノーベル賞に値する結果を残すのも納得できる」。では大発見は天性の才能を持った人にしかできないのか、と疑問を投げかけられた時に「そうではない。君にも可能だ。」という勇気をくれるのが山中博士の経験だ。山中博士は医学部に入学するくらいなので、勉強はすごく出来ることは間違いない。しかしその人生が失敗無しで順風満帆だったかというと実はそうではなく、医師として挫折をし、大学職員への公募審査も何度も落ちている。鬱病のようなときもあったと言う。それでもノーベル賞を受賞する研究成果を出し、今も第一線で活躍されている。そうであればあなたに、大発見が出来ないと決めつけることはできないはずだ。

これからも続いていく研究活動を更に発展させるための考え方のヒントが欲しい。新しいビジネスプランをつくるきっかけになれば。本書を手にとる方々の立場は様々だろう。両博士は対談の中で沢山の人生哲学を話してくれているが、読者の誰にでも当てはまる金言として次の言葉を紹介したい。「Vision and Hard work」(明確なビジョンをもちそれに向かって一生懸命に努力すること)

著者

益川 敏英

1940年愛知県生まれ。名古屋大学理学部卒業、同大学院理学研究科修了、理学博士。京都産業大学名誉教授、京都産業大学益川塾教授・塾頭、名古屋大学KMI研究機構長。1995年朝日賞、2008年「CP対称性の破れ」の起源の発見によりノーベル物理学賞受賞。同年文化勲章受章。


山中 伸弥

1962年大阪府生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了、医学博士。京都大学iPS細胞研究所長。世界に先駆けてマウスおよびヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功し、再生医学に新たな道を切り開いた。2009年ラスカー賞、2011年ウルフ賞、2012年ノーベル医学生理学賞受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    「Vision and Hard work」(明確なビジョンをもちそれに向かって一生懸命に努力すること)。よく言われることだが実践するのは難しい。
  • 要点
    2
    「諦める」ということが最も重要な作業だった。物理現象の説明を必死に考え、どうしてもダメだと諦めたとき、条件の縛りから開放されて自由な発想ができるようになった。諦めることが「コロンブスの卵」のきっかけとなった。
  • 要点
    3
    一見無駄なものに豊かな芽は隠されている。無駄を省いて全てを合理性で突き詰めた生き方をしているといつかは壁にぶつかるのではないか。

要約

【必読ポイント!】考えぬくことから生まれた大発見

agsandrew/iStock/Thinkstock
普通からの逸脱が大発見のきっかけとなった

物質の構成因子となっている「クォーク」が従来予想の4つであるという仮説から6つあると予想した「小林・益川理論」。従来は不可能とされていた細胞の若返りを実現させたiPS細胞作成方法の開発。物理学と生物学で異なる研究を行い、ノーベル賞を受賞された益川博士と山中博士がそれぞれの課題解決のエピソードについて話し合うことから本書は始まる。「細胞って言葉は聞いたことあるけどiPSって何だ?」、「クォークって言われても全くわからないのだけれど」。そう思われた方もご心配なく。本書は科学の解説本ではないので、用語の詳細を知らないからといって「大発見の思考法」のエッセンスが理解出来ないことはないだろう。冒頭の第一章では両博士が取り組まれた課題のポイントを絞り、何を解決したのかが平易にかかれている。では、まずは気になる2つの研究が進展したきっかけについて見てみよう。

1964年に発見された「CP対称性の破れ」と呼ばれる現象がある。この現象がどうして起こるのか、を解明するためのキーワードがクォークだ。あるクォークには対となるもう一つのクォークが存在すること、そして既に3種のクォークが発見されていたことから益川博士がその研究を始めた1970年当時、氏を含む多くの物理学者は「クォークは4種類ある」と考えていたという。そこで、益川博士は4種のクォークでCP対称性の破れを説明しようとする。しかしどうしてもそれが出来ない。ついには「4種のクォークではうまく説明できません」という論文を書こうとまで考えたその時、「4種のクォークで説明しようとするからダメなんだ。6種だったらどうなる?」と着想する。考えぬいた末に答えに辿り着けなかったからこそ、「クォークは4種類」という常識・前提条件の枠からはみ出る思考に辿り着いたのである。

続けて次に山中博士のiPS細胞の話に移る。私たちヒトの体は、「細胞」が60兆個ほど集まってできているが、元々はたった1つの受精卵という細胞が分裂を繰り返して増えたものだ。受精卵は筋肉の細胞、皮膚の細胞、というように体中のあらゆる細胞に変化出来る性質(多能性)をもつ。一方で、例えば、皮膚の細胞になってしまった細胞は再び受精卵に戻ることはできない、といったように一度運命を決められた細胞は多能性を失ってしまうことが知られていた。通常では起こらない細胞の多能性の回復、それを可能にしたのが、山中博士が開発したiPS細胞作成方法の発見である。詳細は別所に譲るが、カギは「組合せ」だ。山中博士は研究の途中段階で多能性の回復に必要そうな24個の遺伝子を突き止めた。しかしその24個の遺伝子のうち、いくつの遺伝子の組合せが必要かは、わからない。1個かもしれないし10個かもしれない。「(考えられる)組合せごとにまともに実験を繰り返しとったら、こっちの寿命が終わってしまうで」と言うほどの膨大な量の実験が必要だった。しかしそれが教え子の言葉で一変する。「24個の中から遺伝子を一つずつ減らしてみたらどうですか?」。順当にやれば何千万回も繰り返す必要があるかもしれない実験が、たった24回に減った瞬間だ。それは一人の研究者が数年もあれば可能な現実的な数字だった。

どんなに簡単なことでも、それを最初に成し遂げるのは難しいという意味で使われるコロンブスの卵という言葉がある。益川博士、山中博士もご自身の研究がまさしくそれだったと語る。

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