ホモ・デウス(下)
テクノロジーとサピエンスの未来

未 読
ホモ・デウス(下)
ジャンル
著者
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
出版社
河出書房新社 出版社ページへ
定価
1,900円 (税抜)
出版日
2018年09月30日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
5.0
応用性
4.0
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テクノロジーとサピエンスの未来
著者
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
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定価
1,900円 (税抜)
出版日
2018年09月30日
評点
総合
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明瞭性
4.5
革新性
5.0
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レビュー

現在を生きる私たちからすると、昔の人たちの世界観には理解しがたい点が多い。たとえばいま天動説を本気で唱える人はほとんどいないだろう。そんなことをしても、大抵の場合は呆れられるだけだ。だがかつては天動説こそが真理であり、地動説を唱えることは狂気そのものだった。

著者はこの天動説から地動説のような大規模なパラダイム・シフトが、おそらく21世紀の間に起きると予想する。かつて世界の「主役」だった神々は、18世紀にはその座を退いた。神々の代わりに主役に躍り出たのがホモ・サピエンス、私たち人間だ。かようにパラダイムは変遷する。ならばこの先ホモ・サピエンスが主役から外されても、なんらおかしな話ではない。

選ばれた少数のホモ・デウス(神のヒト)が支配するか、あるいはデータがすべてを飲みこむか――。著者の示唆する未来は『1984』のような管理社会、もしくは『マトリックス』で描かれた仮想現実の到来を私たちに想起させるだろう。もちろん著者も認めるように、こうならない可能性は十分ある。だが生命工学とコンピューター・エンジニアリングの発展が、こうした未来の到来を示唆しているのもたしかだ。

生命は本当にただのデータ処理にすぎないのか。知能と意識のどちらにより価値があるのか。そして私たち以上に私たちを知るアルゴリズムが現れたとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか。著者の投げかけた問いはこれからの世界を生きる私たちにとって、あまりにも重く響く。

視座がガラリと変わるほどの一冊、ぜひじっくり読みこんでみてほしい。

石渡翔

著者

ユヴァル・ノア・ハラリ (Yuval Noah Harari)
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。オンライン上の無料講義を行ない、多くの受講者を獲得している。著書『サピエンス全史』(河出書房新社)は世界的ベストセラーとなった。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間至上主義は「自由主義」「社会主義」「進化論的な人間至上主義」の3宗派に分かれて争い、最終的に自由主義が勝利した。
  • 要点
    2
    現代において自由主義が支配的なのは、科学やテクノロジーともっとも相性がよいからだ。
  • 要点
    3
    自由主義は科学の発展とともに隆盛してきたが、いまは科学が自由主義に疑問を投げかけている。
  • 要点
    4
    自由主義の崩壊後、新しく生まれる可能性のあるのが「テクノ人間至上主義」と「データ教」だ。前者はホモ・デウス(神のヒト)を、後者は「すべてのモノのインターネット」を志向する。

要約

人間至上主義の現在地

蹴落とされる神々

世界を席巻している人間至上主義は、ここ数世紀の間に育まれた新しい宗教だ。

1300年頃にヨーロッパに住んでいた人々は、善悪や美醜の判断を人間自らが決められるとは思っていなかっただろう。当時それらを定義できるのは神だけだった。

しかし現代社会に生きる私たちにとって、人生や森羅万象の意味を見出すのは自分であって神ではない。人間の自由意志こそが最高の権威であり、頼るべきは自分自身の感情である。こうして感情は私生活だけでなく政治、経済、美的判断、倫理、教育にも大きく影響を及ぼすようになった。

分裂する人間至上主義
cineuno/gettyimages

人間至上主義もキリスト教や仏教などのように、発展していくなかで分裂し、3つの主要な宗派に分かれた。

1つ目の宗派は「自由主義」だ。政治でも経済でも芸術でも、個人の自由意志は国益や宗教の教義よりも大きいというのが、自由主義の教義だ。ただしそれぞれの経験を重視するがゆえに、異なる経験をもつ者どうしの矛盾をなかなか解決できないという弱点を抱えている。

2つ目の宗派は共産主義を含む、広い意味での「社会主義」だ。自由主義が一人ひとりの独自性を重視するのに対し、社会主義は他者の感情や自分の行動が他者に及ぼす影響に注意を向ける。社会主義政党や職種別組合といった強固な組織の設立が重視されるのも、人々の意志を一致団結させるためだ。

3つ目の宗派は「進化論的な人間至上主義」である。彼らは人間の対立という課題に、社会主義とは別の解決策を用意する。それはすぐれたものを尊重することだ。その優劣は争いで決めればいい。それが自然選択による進化なのだから――こうして最終的に彼らは超人の誕生を目論む。

こうした立場の違いは当初、些細なもののように思われたが、人間至上主義が世界を席巻すると、次第に内部での対立が深刻化。1914年から1989年の間に、3つの宗派間で凶悪な宗教戦争が次々と起き、最終的に自由主義が勝利を収めた。

自由主義が現代社会を支配する理由

自由主義というパッケージが現代において支配的なのは、現存するテクノロジーともっとも相性がよいからだ。新しいテクノロジーは古い神々を殺し、新しい神々を誕生させる。マルクスやレーニンが大きな影響力をもっていたのは、哲学的に高尚だったからではなく、当時のテクノロジーの実情と人間の経験をしっかりと理解していたからだ。そして彼らが勢いを失ったのは、新しいテクノロジーについていけなかったからである。

これと同じように21世紀の革新的なテクノロジーも、これまでになかったような新しい宗教運動を巻き起こすだろう。世界を変えるほどのテクノロジーは大きな恩恵をもたらすだけでなく、前代未聞の問題もまた生み出す。そうした問題に答えを出せる宗教が、その後の世界を支配する。

今後はバイオテクノロジーとコンピューターアルゴリズムの理解が、よりいっそう重要になるはずだ。現時点では自由主義がこれらともっとも相性のいい宗教と思われるが、今後もそうだとはかぎらない。なぜなら自由主義、ひいては人間至上主義は、その根底に脆弱さを抱えているからである。すなわち、そもそも人間に自由など存在するのかという疑問を。

自由主義にヒビが入るとき
Davide Zanin/gettyimages

自由主義は科学の発展とともに隆盛してきた。だがいまはその科学が、自由主義の秩序の土台となっている自由意志の存在を疑いはじめている。

現在の科学的理解にしたがえば、「自由」は「魂」などのように実態のない言葉だ。私たちの行動は決断する前にすでに決定されているか、もしくはランダムで決定している。「私たちには単一の、分割不能の自己がある」という言説も、不滅の魂が実在するのと同じ程度の信憑性しかない。

こうした議論自体は2000年前以上からされているが、これまで自由主義者の実存が脅かされることはなかった。「自由な個人などいない」と哲学者が唱えても、あるいは科学者が最新の科学的知見を用いて自由意志の存在を否定しても、その影響力はたかがしれていた。

だが自由意志の存在を否定するようなテクノロジーが私たちの日常生活に入りこんできたときも、自由主義が無事でいるとはかぎらない。

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