サピエンス全史(下)

文明の構造と人類の幸福
未読
サピエンス全史(下)
サピエンス全史(下)
文明の構造と人類の幸福
未読
サピエンス全史(下)
出版社
河出書房新社

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定価
2,090円(税込)
出版日
2016年09月30日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ホモ・サピエンスが食物連鎖の頂点に立ち、文明を築くまでを、鋭い切り口で語りつくした一冊。それが本書『サピエンス全史』だ。

上巻では人類と地球の歴史を変えた3大革命のうち、「認知革命」「農業革命」が中心に取りあげられていたが、下巻にあたる本書では約500年前にはじまった「科学革命」が主に論じられている。ただ、「科学」と銘打たれてはいるものの、本書で扱うテーマは多岐にわたる。それもそのはず、科学とは研究室のなかだけで完結するものではなく、あらゆる社会の営みから切り離せないものだからだ。

必然、科学発展の歴史を語るうえでは、どうしても社会的な文脈を読み解かなければならない。なかでも著者は、帝国主義と資本主義こそが、今日の科学をつくりあげたと主張する。そのキーワードは疑うまでもない。「進歩」だ。近代科学が暗示した「進歩」という虚構こそが、帝国主義と資本主義を推し進め、さらにそれが近代科学をますます発展させたというわけである。

私たちが目にする科学にまつわる営みは、さまざまなセクターが結びつくことで生まれた、歴史上きわめて特異な出来事だ。ゆえに、これから私たちがどこへ向かっていくのか、細心の注意を払って見守っていく必要がある。今後、人類の歴史を俯瞰(ふかん)的に眺める視点をもつことが、ことさら重要になってくるだろう。

そうであれば、本書を手に取るのになんの迷いがあるだろうか? 読むべきは、今だ。

著者

ユヴァル・ノア・ハラリ (Yuval Noah Harari)
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。軍事史や中世騎士文化についての3冊の著書がある。オンライン上での無料講義も行ない、多くの受講者を獲得している。

本書の要点

  • 要点
    1
    「科学革命」は、人間が自らの無知を認め、観察と数学を中心に置き、新しい力を獲得しようとして生まれた運動である。
  • 要点
    2
    人類が「進歩」を信じはじめたのは、科学による発見が私たちに新しい力をもたらすとわかったからだ。
  • 要点
    3
    近代ヨーロッパ人たちにとって、帝国の建設は科学的な事業であり、近代科学の確立は帝国による征服事業と不可分だった。
  • 要点
    4
    近代経済は飽くなき成長を求める。科学革命により進歩を信じはじめた人々は、「信用(クレジット)」にもとづく経済体制を確立した。

要約

【必読ポイント!】 科学革命

近代科学とは無知の発見である
BrianAJackson/iStock/Thinkstock

人々は科学研究に資源を投入することで、途方もないほどの新しい力の数々を獲得した。これを「科学革命」と呼ぶ。これが革命と呼ばれるのは、西暦1500年ごろまで、世界中の人々は、自分たちが新たな能力を獲得できるとは思っていなかったからだ。彼らはそれまで、新たな能力の獲得というよりも、持っている能力をいかに維持するかに心血を注いでいた。だがしだいに、人類は科学研究に投資することで自らの能力を高められると信じるようになった。それを裏づける証拠が増えるほど、裕福な人々や政府はますます多くの資源を科学に投入した。

もともと、人類は認知革命以降、森羅万象を理解しようとしてきた。だが、近代科学は従来の知識の伝統とは、3つの点で完全に異なっている。まず、(1)進んで無知を認める意志をもっている点だ。近代科学は、私たちがすべてを知っているわけではないという前提に立ち、知っていると思っていることが誤りである可能性も考慮している。つまりいかなる概念も、神聖不可侵ではないというわけだ。

次に(2)観察と数学が中心に置かれている点である。近代科学は無知を認めたうえで、新しい知識の獲得をめざす。そのために、観察結果を収集し、それらを数学的ツールを用いて結びつけ、包括的な説にまとめあげるのだ。

最後に、(3)新しい力の獲得を志向する点である。理論を生みだすだけでは満足せず、新しい力の獲得、とくに新しいテクノロジーの開発をめざすという特徴をもっている。

科学革命は知識の革命ではない。むしろ、無知の革命である。科学革命の発端は、人類は自らにとって最も重要な疑問の答えを何も知らないという、重大な発見にあったのだ。

「進歩」はごく最近の流行である

科学革命以前は、人類の文化は「進歩」というものをほとんど信じておらず、黄金時代は過去のものであると考えていた。実際、多くの信仰では、いつの日か救世主が現れてこの世の苦難に終止符を打つと教えられていたし、人類が新しい知識や道具を発見することで、それを成し遂げられるとは考えられていなかった。むしろ、バベルの塔やイカロスの神話などが示しているように、人間の限界を超えようとすることは不遜であると捉えられた。

しかしながら、科学の発見が私たちに新しい力を与えうると自覚した人々は、しだいに真の進歩は可能なのではないかと思いはじめた。解決不可能のはずだった問題が科学の力で次から次へ解決しはじめたのを見て、新しい知識を獲得して応用すれば、どんな問題でも克服できるのではないかと自信を深めたのだ。

科学は独立した存在ではない
Ingram Publishing//Thinkstock

今日では、私たちのあらゆる問題の答えは、科学とテクノロジーが握っていると確信している人も多い。ただここにはひとつ問題がある。科学はけっして、あらゆる活動を超えた営みなのではなく、他のあらゆる文化と同様、経済的、政治的、宗教的な干渉を受けるということである。というのも、科学は非常にお金がかかるものだからだ。

そういった事情から、科学は自らの優先順位を設定できない。また、自らが発見した事象をどうするのかも決められない。つまり、科学研究は宗教やイデオロギーと提携した場合にのみ、うまく栄えることができる営みなのである。

したがって、人類が科学を発展させていった経緯を理解するためには、物理学者や生物学者、あるいは社会学者の業績を調べるだけでは不十分だ。そういった学問を形づくり、特定の方向に進ませたイデオロギー、政治、経済の力も考慮に入れなくてはならない。

そのなかでもとくに注意を向けるべき力が2つある。帝国主義と資本主義だ。

帝国主義

世界の片隅で新たな知識をと叫ぶ

近代科学はヨーロッパの諸帝国において発展してきた。これはヨーロッパ人が科学に関するすぐれた才能をもっていたからではなく、近代科学とヨーロッパの帝国主義の相性がきわめて良かったことが原因である。科学者も征服者のどちらも、無知を認めるところから出発した。そしてどちらも、外に出ていって新たな発見をすることを目的にしていた。そして獲得した知識によって、世界を征服しようとしていたのだ。

ヨーロッパの帝国主義は、それまでの歴史で行なわれていた諸帝国のどの事業とも完全に異なっていた。それまでの探求者たちは、自分はすでにこの世界を理解していると考えがちだった。彼らにとって征服とは、単に自分たちの世界観を利用し、それを広めることだった。

それとは対照的に、ヨーロッパの近代帝国主義者たちは、新たな領土を広げるとともに、新たな知識を獲得することを強く望んでいた。

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