人工知能はなぜ椅子に座れないのか

情報化社会における「知」と「生命」
未読
人工知能はなぜ椅子に座れないのか
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情報化社会における「知」と「生命」
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人工知能はなぜ椅子に座れないのか
出版社
出版日
2018年08月25日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

いま空前の人工知能ブームが起きている。もはやニュース記事で「人工知能」という言葉を見ない日はないほどだ。「まもなく人工知能は人智を超える」、「人間の仕事は人工知能に奪われる」といったセンセーショナルな表現も目につく。

たしかに情報技術の発展は目覚ましい。たとえば囲碁や将棋などの特定分野では、コンピュータは驚くべき成果をあげている。しかしその一方で、人間の一般的知能を備えたコンピュータは、一向に出現する気配を見せない。これは一体なぜなのだろうか。「人工知能が人智を超える」という「シンギュラリティ(特異点)」の到来がしばしば喧伝されるが、そうした事態ははたして本当に生じるのか。

本書はそうした「人工知能」に沸く世間の喧騒から距離をとり、冷静に「人工知能」について考察する。情報科学の歴史や脳神経科学、生命哲学などの知見を踏まえつつ、そもそも「生命」や「心」とはなにかといった根源的な問題について、多くの文献を引きながら丁寧に検討されているのがすばらしい。そこから明らかになるのは、「身体」を持つ私たち生物の知能と、「身体」を持たない「人工知能」の違いだ。

話題の「人工知能」について冷静に理解するうえで有益なだけでなく、私たち人間の「精神」や「知性」について見つめなおす機会を与えてくれる、きわめて知的にスリリングな一冊である。

著者

松田 雄馬 (まつだ ゆうま)
1982年9月3日生。徳島生まれ、大阪育ち。博士(工学)。2005年、京都大学工学部地球工学科卒。2007年、京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻修士課程修了。同年日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。MITメディアラボやハチソン香港との共同研究に従事した後、東北大学とブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトを立ち上げ、基礎研究を行うと共に社会実装にも着手。2015年、情報処理学会にて優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。2016年、NECを退職し独立。2017年、合同会社アイキュベータを設立。著書に『人工知能の哲学』(東海大学出版部)。

本書の要点

  • 要点
    1
    「無限定環境」を生きる生命の「ホメオスタシス(恒常性)」という生命維持プロセスにおいて生じる「自己認識」が、「心」や「意識」の根幹だ。
  • 要点
    2
    今日の情報化社会を支える根本思想は「コンピュータが人に取って代わる」ではなく、「人間とコンピュータが共生する」である。
  • 要点
    3
    「シンギュラリティ(特異点)」とは「人工知能がみずから成長進化し人智を超える」という概念だ。しかしこの考えには、生物の知能と人工知能の違いや、そもそも「知性」「生命」とはなにかという視点が欠けている。

要約

人工知能研究の歴史

人工知能研究の始まり
Bannosuke/gettyimages

17世紀、ドイツの偉大な数学者ライプニッツが、「四則演算計算機」を発明した。計算はすべて手計算でおこなわれていた時代にあって、これは画期的な発明だった。彼はこの発明が、会計士、資産管理者、測量士、航海者、天文学者といった専門家の「知能」の一部を代替することを理解していた。人間の知能を代替する人工知能の研究は、この時点ですでに始まっていたといえる。

ライプニッツの発明から2世紀後の19世紀、英国の数学者ブールは、「論理的推論」を四則演算によって体系化する試みをおこなった。論理的推論とは、三段論法に代表されるような、論理的に結論を導き出す考え方のことだ。論理的推論を四則演算によっておこなうことを「論理演算」と呼ぶ。論理演算では、「馬または牛」は「馬+牛」のように和算で、「馬かつ雌」は「馬×雌」のように積算で表現される。これはまさに今日の「プログラム」の考え方と同じだ。

1936年になると英国の数学者チューリングが、アルゴリズム(計算方法)さえ与えれば、どんな論理演算も実現できる計算の仕組みを考案した。「チューリング・マシン」と呼ばれるその仕組みは、ハンガリー出身の米国の数学者ノイマンらによって設計され、「真空管計算機」として実現された。現在のパソコンやスマートフォンなどのコンピュータは、真空管よりもずっと小型で高速計算可能な半導体で作られているが、その仕組みはノイマンの設計そのものだ。こうした計算機の発明が、「人間の労働を機械に代替させる」という試みを大きく加速させていった。

人工知能ブーム

ノイマンが真空管計算機を設計・製造した少し後の1956年、米国のダートマス大学で「ダートマス会議」と呼ばれる歴史的な国際学会が開かれた。このダートマス会議において、「人工知能(artificial intelligence)」という言葉がはじめて登場し、これを皮切りに人工知能の研究は「ブーム」となった。このブームはダートマス会議によるものを第一次ブームとし、1980年代に起こった第二次ブームを経て、現在の第三次ブームへと続いている。

現在の第三次ブームを牽引しているのは、「人間の脳の仕組みを模した」とされる「ニューラルネットワーク」だ。「人間の脳の仕組みを模した」と聞くと、まるで人間と同じように学習成長する機械が作られたように感じるかもしれない。しかし実際には、ニューラルネットワークは、脳や記憶に関する「仮説」にもとづいて、人間の脳のほんの一部を模したものに過ぎず、データを処理する工学的な「道具」でしかない。

人工知能に関して何度も「ブーム」が起こるのは、人工知能に関する「事実」と「期待」が混同されているからだ。過度な期待を呼び起こした末に、裏切られることを繰り返しているのである。人工知能を冷静に見つめるためには、科学的な「事実」と「仮説」を分けて考えることが大切だ。

人工知能と精神

強い人工知能と弱い人工知能
Jakarin2521/gettyimages

1980年、米国の哲学者サールは「Minds, Brains, and Programs」という論文の中で、「強い人工知能」と「弱い人工知能」という2つの概念を提唱した。「強い人工知能」とは、いわば知能を持つ機械であり、そこに精神が宿っていることを指している。

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要約公開日 2018.12.09
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