丹羽宇一郎 習近平の大問題の表紙

丹羽宇一郎 習近平の大問題

不毛な議論は終わった。


本書の要点

  • 習近平が掲げるテーマは「中華民族の夢」だ。また国内的には、反腐敗運動を進めるとともに、八大元老による長老支配を一掃しようとしている。

  • 習近平の対外政策は、より広い地域を手中に収めることが狙いだと受け止められていることが多い。しかしその見方は正しくない。目指しているのはアジア諸国との共存共栄である。

  • 中国の大問題として挙げられるのは、信用のおけない国内の統計数字および金融市場の自由化だ。いずれ民主化していくのは必然の流れだが、これは人類史上初の挑戦となる。

1 / 4

習近平の目ざす「中華民族の夢」

中華民族の夢

roibu/gettyimages

本書の主役、習近平氏は1953年生まれ(本書執筆時65歳)で、中国共産党中央委員会総書記、国家主席、国家中央軍事委員会主席の三権を掌握する、名実ともに中国の最高指導者である。本人と十数回は会ったことのある著者によると、彼は人間的には口数少なく温和、弱者の気持ちを理解できる人物だ。そんな習近平は、どのような狙いをもって中国を率いているのか。中国国内の政策における彼の狙いを明らかにすることから本書は始まる。まずは「中華民族の夢」の実現だ。習近平はこれを、主席就任演説においても繰り返し宣言している。中国は19世紀から20世紀の前半にかけて、諸外国からいろいろなものを奪われた。香港をイギリスに奪われたことに始まり、ロシア、日本、ドイツ、フランス、アメリカが中国に進出してきた。自分の国なのに主権がないという屈辱。そんな屈辱を味わった中華民族に、誇りと大国の地位を取り戻させる試みが「中華民族の夢」だ。この試みが成功すれば、中国人の深層心理にある敗北感、劣等感を払拭することができるだろう。

反腐敗運動

中国では、習近平の人気は高い。その理由のひとつは、国民の生活が向上しつつあるから。もうひとつは、反腐敗運動が国民の支持を得ているからだ。汚職や腐敗が蔓延している中国では、国有公社の粉飾会計でさえ、役人への賄賂によって目こぼしされている事実がある。このようにして地方の公社は、不良資産となっていった。その負債金額を合算すれば、成長の足を引っ張る大きな重荷にさえなりえるだろう。この状況を改善しない限り、中国の近代化はない。一方で反腐敗運動は、習近平による権力強化を目的とする、粛清の観点から語られることも多い。完全には否定できないが、権力を掌握する目的だけで粛清を続けているという見立ては、賛同できるものではない。単なる権力欲だけの人物に、そこまでする覚悟があるはずもないだろう。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3167/3976文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.04.08
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

鎌倉資本主義
鎌倉資本主義
柳澤大輔
エスタブリッシュメント
エスタブリッシュメント
依田卓巳(訳)オーウェン・ジョーンズ
東京格差
東京格差
中川寛子
14歳からの資本主義
14歳からの資本主義
丸山俊一
これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用
これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用
濵川恭一
経営戦略としての異文化適応力
経営戦略としての異文化適応力
宮森千嘉子宮林隆吉
通信の世紀
通信の世紀
大野哲弥
「金融パーソン」はどう生きるか
「金融パーソン」はどう生きるか
窪田泰彦

同じカテゴリーの要約

経営者のための正しい多角化論
経営者のための正しい多角化論
松岡真宏
超新版ティッピング・ポイント
超新版ティッピング・ポイント
マルコム・グラッドウェル土方奈美(訳)
西洋近代の罪
西洋近代の罪
大澤真幸
となりの陰謀論
となりの陰謀論
烏谷昌幸
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
ブレイディみかこ
サピエンス全史(上)
サピエンス全史(上)
ユヴァル・ノア・ハラリ柴田裕之(訳)
グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか
グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか
河原千賀
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
リンダ・グラットンアンドリュー・スコット池村千秋(訳)
無料
世界の今がわかる「地理」の本
世界の今がわかる「地理」の本
井田仁康(編著)
デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか
デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか
針貝有佳